よう知らんけど日記

第124回 すしのこ、めっちゃ便利やん!

2020.3.27 16:16

カテゴリ:未分類

1月☆日 

こないだ中古マンションの売買情報サイト見るのにはまってるって書いたけど、間取りとか部屋の中以上におもしろいのが説明というか売り文句というか。マンションポエムって新築マンションの広告の「○○の地に住まう」みたいな高級感演出するコピーがよう知られてるけど、最近ちょいちょい見かけてわたしが気になってるのは、もっとしょぼい、と言うたらあれやけど、ごくごく普通のことをなんとか特別感だそうとしてるやつ。「上り下りの苦労がない生活を送ることができるエレベーター付きの物件です」「洗濯物を干す場所にも困らないベランダ付きです」「あると何かと便利なエレベーター付き」「フローリングなのでどんな世代の方にもなじみます」。いや、そのとおりやねんけどさ。つっこみを入れるほど大げさでもなく、じんわりした感じがまた気になる。あ、エレベーター付きって、家の中じゃなくて普通にマンションのエレベーターやで。中には、古い建物にありがちな柵がすかすかなベランダを「足下まで採光や通風を遮ることがなく洗濯物があっという間に乾きそうです」て、ものは言いようやな&あくまで予想、とか、「クローゼットがあるので洋服をしまえます」「お風呂に入るとさっぱりします」、うん、それはそうやな、ていうのとか。考えてる人もなんかええように書かなあかんくて大変なんやろなあ。 

それから、写真がめっちゃ下手なのがときどきあってそれも気になる。

1月☆日 

年末年始に読んでた本は、谷崎由依『遠の眠りの』、エリック・マコーマック『雲』、原武史『地形の思想史』、グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』、ジョージ・ソーンダース『十二月の十日』。ずっと休みでこうして本読んでられたらいいのになあ。 

1月☆日 

東京都現代美術館に「ダムタイプ アクション+リフレクション」展を見に行く。リニューアルでしばらく休館してた現代美術館に行くのは久しぶり、ていうかその前もだいぶ行ってない、前行ったんいつやろ? と思って調べてみたら、え?? 7年前??? そんな行ってない? もうほんま、2、3年前かなと思ったら5、6年前現象、すごい勢いで進行していくなあ。清澄白河の駅から地上に出たところで角の建物を見て、あ、前回来たときは真夏で大阪から来た友達が倒れそうやったからあの前でタクシーに乗った、と映像記憶だけは鮮明なのやけど、そんな前かー。 

ダムタイプ、これだけまとまって観るのは初めてで、どの作品もおもしろかった。東京都現代美術館は東京の中心部からも駅からも遠い上に、平日・雨で人が少なくて、ゆったり貸し切り状態で観られて贅沢でした。「LOVERS」は、2016年にニューヨークのMOMAで観たので、そのときの記憶がよみがえったり。わたしは、死者と言葉を交わせないみたいなことを思ったのだけど、夜にそのことをフィンランドの詩人に話したら、彼女は生きてる人間同士のわかり合えなさを思ったって言うて、いろんな話をしたなあ。そして、作品としてのおもしろさもさることながら、インスタレーションを実現してる機械どうやって作ったんやろ、作った人すごいな、とめっちゃ裏側とか見てしまいました。80、90年代の作品の映像も観られて、その時代の空気みたいなのも思い出したり。 

余談やけど、流行の変遷の話題ではたいてい女の人のメイクや髪型があげられるけど、最近昔のドラマとか見てもむしろ男の人のほうがめっちゃ時代感出るなあ、と。80年代後半やと、吉川晃司や玉置浩二みたいな横から前髪を立ち上げたスタイル、ダブルのスーツに四角い太フレームの眼鏡とか。たぶん、女の人に比べると髪型も服もバリエーションが少ないから、その時代の特徴が前面に出るのやろなあ。 

1月☆日 

トークイベントのため大阪へ。いい天気で新幹線から富士山よう見えたけど、雪がめっちゃ少ない。 

梅田の蔦屋書店で、平民金子さんとトーク。去年の夏に、平民さんと岸政彦さんのトークを見に来たのやけど、そのときは平民さんが迷って遅刻したので(ルクアとルクア・イーレって難しいよね。LUCUA 1100でイーレって読むと思わんし)、今回はわたしも用心して早めに。平民さんのエッセイ集『ごろごろ、神戸。』は、子供が生まれるのを機に神戸に住み始めた平民さんが、ベビーカーをごろごろ押しながら神戸の街を歩き回る。住宅街の昔からある市場のホルモン屋やお好み焼き屋でのおっちゃんおばちゃんとのやりとりとか、須磨水族園とか六甲山の風景とか、懐かしい下町みたいなんだけじゃなく、ハーバーランドで若い観光客が楽しんでる姿とか、あー、街で生きてる感じ、ある場所で暮らしてるってこういうことやよなあ、とすごくしみてくる。そしてなにより、40代男性がちっちゃい子を連れて歩いてるからこそ気づくこと、思うことが、ほんまにそやなあ、と頷いたり考えたりすることばかりで、これは子育てしてる人、子供いてなくても子育て大変そやな、どんな感じなんやろって思ってる人はめっちゃ読んでほしい。 

そして、わたしが最初に平民さんの文章を読んだのは、阪神大震災のことについて書かれたものやってんけど、『ごろごろ、神戸。』全体を通してもやっぱり神戸の街のあちこちに震災のことが横たわってる。ちょうど25年になる日の直前で、そのことを考えずにはいられなかった。 

本の内容もあってか、会場は赤ちゃん連れの方が4、5組いてはって、あっちで泣いたり、こっちで泣いたり、いい感じでした。赤ちゃん連れで行けるとこ増えたらええな、というか、赤ちゃんがイベントでもお店でもいるのがもっと当たり前になったらええな。 

1月☆日続き 

イベント終わったあと、平民さんとちょっとごはんでも、ということになり、[揚子江ラーメン]行こうとしてんけど、その途中で平民さんが前から気になってたという食堂に入った。ナビオとHEP FIVEの間の路地をちょっと入ったとこで、おかずのお皿を自分で取る方式のとこ。中途半端な時間ていうこともあり、人が少なくて、誰もおらん2階席貸し切り状態。平民さんが持ってきたまぐろの刺身、よう見たらまぐろの下に敷いてるのが大根やなくてキャベツの千切り。地味な違いやけど初めて見たわ。さらに豚汁は、ラーメンの麺なしみたいな物体。わたしは鯖の塩焼き定食を食べましたが、全体にまずくもなく特別おいしくもなく、梅田の一等地ど真ん中で謎の店でした。食べ終わって1階に下りると、近所のおばあちゃんがタッパーにグレープフルーツ入れて持ってきてごはん食べてて、そうか、地元の人の憩いの場なんやな、と納得しました。 

トークイベントの紹介文に「異色の組み合わせ」って書いてあってんけど、わたしの大阪の友達はだいたい平民さんっぽい人なので、なんか前から知ってる人みたいな感じで、そのあとお初天神のほうまで行って友達の店が休みやったので、結局東梅田の商店街一周して帰りました。 

ところでお初天神、いつのまにやらインバウンドを当て込んでかキラキラ恋愛祈願みたいな装飾になっており、「恋のお手本」って書いててんけど、心中しとるがな!ってみんなつっこむよね。

1月☆日 

東京に戻って、新年会まで微妙な時間があり、久々に江戸東京博物館へ。こちらも何年ぶりやろ……。ここもリニューアルして現代(団地とか昭和の流行とか)の展示が増えてたりしました。日本橋の再現とか、原寸大の建造物がようさんあって見応えあるので、好きな博物館。出てきたらちょうど隣の両国国技館の初場所が終わる時間で、いつもテレビの中継の最後に聞こえる太鼓が聞こえてきて得した気分に。乗り換える秋葉原駅で、東京に初めて来たときから気になってた、ホームにある牛乳スタンドで初めて飲んでみた。近くで見たら、ご当地牛乳的なんも何種類もあるし、フルーツ牛乳とか青汁とか、思ってたより種類多い。そしてホットもある。ということで、3種類ぐらいあったコーヒー牛乳から酪王カフェオレを指名しました。おいしかった。瓶やからその場で飲まなあかんねんけど、人が行き交うホームで飲む牛乳、妙に落ち着く場所でした。 

1月☆日 

平民金子さんがトークのときにくれた「すしのこ」を食べる。35年ぶりぐらい。 

「すしのこ」というのは粉状のすし酢で、ごはんにかけるだけで簡単にすし飯ができる。これ、わたしが子供の頃に家でふりかけ代わりにしてよう食べてて、それを書いたエッセイを読んで平民さんが買うてきてくれたんですな。小学校1、2年の頃、両親ともに働いてて、ときどき二人とも遅くなると食べ物がなく、とりあえず白米だけはあったので、それに塩かすしのこをかけて弟と食べてた。なので、今もごはんに塩がたぶんいちばんおいしい食べ物と思ってて、よくある「死ぬ前に最後に食べたいものは?」は、炊きたてごはんに塩、です。まったく迷うことなく、決定です。 

それで、すしのこ。本来ふりかけにして食べるもんとちゃうしなーと思いつつ、かけて食べたらめっちゃおいしかった……。白ごはんめっちゃ食べれるな、これ。子供の頃は本来の用途で使ったことはなかってんけど、よう考えたら、一人分の海鮮丼とか、1本だけ手巻き寿司とかするのにめっちゃ便利やん! と、40年の時を経て気づいたのでした。ごはんの水加減を調整しなくてもいいので、すし飯作るときは便利です。そのための粉です。

1月☆日 

町田で開催される「布博」で刺繍作家の神尾茉利さんとトークイベント。「布博」というのは、布関連の手芸作家さんやお店が集まるイベントで、この回は刺繍がテーマ。神尾茉利さんは、好きな小説の中に出てくる小物や小説の場面から想像したものを作品として作っている刺繍作家さんで、最近出された本『刺繍小説』にわたしの『パノララ』のあるシーンにあったかもしれないヒョウ柄ポーチというのを作って載せてくださってて、そのご縁でトークとなったのでした。わたしは刺繍は物としても作るのも好きで、実は刺繍を趣味にしたいと思いつつ、三日坊主なので何回も挫折しているのです。その願望が反映して最新刊『待ち遠しい』では主人公の趣味の一つが刺繍なんですね。でもトーク中に神尾さんから「趣味が刺繍で作った作品は出てくるけど、実際に刺繍の作業をしてるシーンはないですよね?」と聞かれて、あ、確かに、それはやっぱり実際に作ってないからか……と思ったりしました。手を動かして、かわいいものが実物としてできあがってくるって、すごくいいよなあ、と刺繍を見ると思うのです。小説は、手を動かしてもどうにもならないときはならないのもあるし。神尾さんの作る刺繍作品、鮮やかで楽しくて、こういうの作れたらいいなあと思いました。 

それにしても会場にはたくさんの刺繍のお店が出店してて、かわいい作品や、糸やボタンなんかの材料もいっぱいあって、そしてトークを聞きに来てくれたお客さんもみんなかわいい鞄や小物を持ってはって、楽しい気持ちになる空間でした。 

外は雪で、寒かった。 

1月☆日 

アイオワで一緒やった作家のインスタグラムをフォローしてて、それぞれの国の季節の行事とか、そこで起きてることに、へえーとなったりしてるのやけど、イスラエルに住んでる若い詩人のインスタグラムのストーリーに親戚の子どもの誕生日会?があがってて、「アナ雪」柄のケーキの鮮やかな水色にも驚くけど、そこに刺さってる花火が1メートルぐらいめっちゃ吹き上がってて(地面に置いてしゅーしゅー火花出る花火あるやん?  あの感じ)、だいじょうぶなん?  これ? と何回も見てしまった。そしたら、マドンナのインスタグラムのケーキも同じぐらい火花があがってて、外国はこれが普通なのやろか。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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