よう知らんけど日記

第136回  それや! その通りや! これからそれ使わせてください!

2021.1.7 15:32

カテゴリ:未分類

10月☆日 

この日記、スケジュール帳見たりスマホの写真見たりして思い出しながら書いてるわけですけども、食べ物写真があって、料理に見覚えがあるが誰とどこに行ったときに食べたのか全然思い出せない……。スケジュール帳見ても書いてないし、こんなに人と会えない中で久々に誰かとごはん行ったはずやのに覚えてないってめちゃめちゃひどいのでは??? と必死に刺身盛り合わせと湯豆腐の画像を見つめて記憶をたぐってたら、思い出せました。よかった。 

薄暗い店やったのに料理写真はえらい明るく写ってたから記憶と結びつかへんかってんな。大阪の友達が仕事で東京に来るからって3日ぐらい前に連絡あって、めったに行かへん新橋まで行ったのでした。東京ビッグサイトで展示会の仕事があって、そのあと新橋でごはんて、わたしが会社員時代に年に1回やってたコースやな。当時の思い出はろくなことがないというか、展示会の数日ってめっちゃしんどい仕事やったので、新橋もなんとなく避けてしまってた……。 

友達は会ったのは2年ぶりぐらいやったのですが、元気そうでよかった。美術系の大学に行ったのやけど、この氷河期世代、ずっと派遣社員とかアルバイトとかやりたかったこととは縁のない仕事をしてたのが、子育ても一段落したこの時期に、前に行ってた派遣先を超理不尽な理由で切られて、急遽決まった次の派遣先がデザイン系で、大学卒業後25年にしてやっとやりがいある仕事に当たったと言ってて、そんなこともあるんやなあと。楽しく働けるといいなあ。 

10月☆日 

下北沢の[B&B]で柴田元幸さんと『百年と一日』刊行記念の朗読&トークイベント。お客さんは入れずに配信でしたが、柴田さんとわたしは会場で話せました。柴田さんにお会いするのもいつぶり? って感じやし、春に移転オープンした[B&B]にもようやく初めて来れました。下北沢って元々迷いやすい道(道路が斜めに交わってるとこってわからんようになるよね)のうえ、下北沢の中心部からちょっと離れたところなので柴田さんが迷って到着がぎりぎりになってひやひやしましたが、イベントも授業も大ベテランの柴田さんはさすがで的確に話が進み、開始前にしゃべらなかったのがかえってよかったのか、いい緊張感で盛り上がりました。短編小説をテーマに話をしたのですが、わたしは柴田さんが翻訳したいくつもの短編小説にすごい影響を受けてきたので、その柴田さんと「短編小説のおもしろさってなにか?」と話すのはとても刺激的で楽しい時間でした(対談のまとめはこちら)。 

帰りに少し歩いた下北沢は、けっこう人通りが増えてて、いい季節やし、普段の賑わいが戻ってる。でも、ごはん屋さんとか飲み屋さんとかどんな感じなんかなあ、とまだまだ様子をうかがってしまう。 

10月☆日 

久しぶりに会う友達とランチとお茶。お茶した喫茶店は、昭和感溢れるログハウス風で、ブラックカルピスとか謎のメニューがちょいちょいあるいい感じの店やった。ここしばらくの愚痴というか、世の理不尽なことについての話を。こういう話ってやっぱり会わないとできへんよね。話してるといろいろ気がつくこともあるし。心置きなく何時間でも話せる世の中になってほしい……。 

10月☆日 

中国の1989年生まれの映画監督、ビー・ガンの『凱理ブルース』と『ロングデイズ・ジャーニー』を続けて。ほぼ前情報ないままに観てて、『凱理ブルース』のほうは最初眠かったりしてんけど、途中の長回しワンカットがいきなりめちゃめちゃおもしろく、撮り方だけでなく、現在の中国の山奥の昔話に出てきそうな形の山と川に古びた建物がひしめく小さい町で、バンドのイベントに遭遇するんやけどその若者たちもサウンドもめっちゃ今どきで、そのリアルな「今」の感触がたまらなかった。『ロングデイズ・ジャーニー』のほうがよう出来てて完璧で、さらに長くなった長回し場面も圧巻の素晴らしさやねんけど、わたしの好みとしてはまとまりきれてないゆがみみたいなのがある『凱理ブルース』のほうかな。『ロングデイズ・ジャーニー』の長回しシーンは、日本のアニメが何十年かけてやってきたことを、実写で実現した感があり、いっそあの撮り方だけでまるまる1本作ったらどんな感じになるのか見てみたいなあ。 

10月☆日 

先週に続き[B&B]で、豊崎由美さんが外国文学好きのゲストをお友達紹介方式で呼ぶ「読んでいいとも!ガイブンの輪」の奥泉光さん回を観に行く。観客は、詰めたら100人入るところに10人だけで、なかなかの緊張感。奥泉さんは主にSF小説を紹介されてて、読みたいと思いつつなかなか手を出せてなかった大長編が多かったので、これを機に読めるかな、がんばろうかな。 

「純文学とはなにか?」の問いに奥泉さんが「言語の可能性を広げるもの」と答えてはって、それや! その通りや! これからそれ使わせてください! と思った。 

10月☆日 

友達から松茸が送られてきた。友達のおじいちゃんの家がある和歌山の山に松茸が生えるとこがあるらしく、取りに行って売るらしいねんけど、折れたり開きすぎたりで売り物にならへんやつを送るわ、と前の日の夕方に突然連絡があった。小さい箱を空けると、確かに笠が開ききって折れた、でもかなり大きい松茸が2本。わたし、松茸ってコース料理で入ってるんかどうかわからんくらいの土瓶蒸しぐらいしか食べたことなくて、どうするんやろこれ、とインターネットで検索して、松茸ごはん、松茸のお吸い物、焼き松茸、にしてみました。焼き松茸、形ある松茸を初めて食べたんですが、なんやこれ、すごいおいしいやん! やっぱりおいしいから高いねや! とびっくりしました。それにしても、味は全然遜色ないので(高いやつは食べたことないのでよう知らんけど)、笠開いたとか折れたとかで売れへんやなんて、謎な世界や。 

10月☆日 

用事があって原宿の近くに行ったので、原宿表参道近辺をうろうろしてみる。新宿とかオフィス街はまあまあ人が戻ってるけど、原宿表参道はわざわざ遊びに行く場所という感じなので人は少ないまま。道ばたで久しぶりーと挨拶を交わしてる、どうやらこの辺のアパレルに勤めてるっぽい若い子が、「わたし、今、事務の派遣も行ってて」と話してるのが切ない。近くの何度か行ったことのあるイタリアンのお店が閉店して、板で囲われてた。とてもいい感じのお店で好きだったのでかなしい。ほんまに、この状況はいつまでつづくのやろか。 

10月☆日 

8か月ぶりに大阪へ。お昼ごろの新幹線は乗車率3割という感じ。大丸心斎橋店の中のお店を紹介する取材。去年のオープニングイベントの時はゆっくり観られなかった店内のあちこちを回れて楽しかった。取材もさせてもらったディーゼルで仕事が終わってから買い物。ディーゼル、20年以上にわたってどんだけ買ったのか数えるのが怖いほど愛用しており、こないだ東京のお店で20年物のポイントカードを出したら若い店員さんに「わー、このデザインのカード初めて見ました」と言われてしまった。ちなみに、ディーゼルはイタリアの北東部・モルヴェーナの会社ですが、輸入・販売しているディーゼルジャパンは大阪の会社です。あの濃いデザインは大阪人(もちろんわたし含む)の好みやもんね。 

10月☆日 

コロナがまた増えてきてるということやし、誰にも会わずに一直線で宿泊先へ。心斎橋筋、戎橋筋と商店街をひたすら歩き、もうすぐ閉店する[とらや]の写真を撮って、日本橋のシタディーンなんば大阪に到着。ここは、長らく高島屋の別館やった近代建築で、記念館はあるけどほとんど事務所として使われてて、いい建物やのにちょっともったいないなあと思ってた(『大阪建築 みる・あるく・かたる』にもばーんと載ってます)。1階のショーウインドウの細工とか大理石のエレベーターホールとかはほぼそのまま残ってて、部屋のほうはというとわたしが泊まったのは滞在型でひろびろしててキッチンもついててめっちゃ快適なおしゃれホテルやった。キッチン、調理道具やら食器やらも一通り揃ってて、今は旅行はあんまりできへんけど、缶詰部屋としては最高ではないでしょうか。 

10月☆日 

奈良へ。奈良市写真美術館でやってる妹尾豊孝展がどうしても観たくて、どこかで関西に帰る機会がないかと思っていたのです。妹尾さんの写真集『大阪環状線 海まわり』は、環状線の西側、福島区、此花区、港区、西区、大正区と、まさにわたしの地元を1990年前後に写した写真集で、大学生の時に出会って以来、何度も見返してきた大好きな1冊。プリントを観るのは初めてで、同時に展示されてた同時期の京都の写真も含めて、そこに一瞬だけ写ってる人たちの人生が見えてくるような写真はほんまにすばらしい。自分がその中にいてもおかしくない、知ってる場所の知ってる時間の風景、でももう今はない風景を、ゆっくり観ることができてほんまによかった。

5年ぶりの奈良は、広くて天気良くて、鹿がいっぱいで、ずっと東京の家に閉じこもってた身にはあまりにもゆったりと美しかった。平日なのもあって、紅葉のめっちゃええときやのに修学旅行の小学生がちょろっとおるだけで、こんな人のおらん東大寺初めてやな、せや、今なら柱の大仏の鼻の穴(と同じ大きさにくりぬかれてる穴)も通れるかも!と思ったのですが、コロナ対策で塞がれておりました……。あれ、子供のころはもちろん余裕で通れて、たぶん高校の遠足で来たときも通れて、でも大人になってからは通られへんかったら恥ずかしいし、めっちゃ人並んでるしで、気になりつつ入ったことはない。さすがにもう無理やろか。 

柿の葉鮨が好きなので(さばよりさけ派)、いっぱい買って帰りました。

  • LINE

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本