よう知らんけど日記

第141回 なんぼなんでも桜早すぎやで。

2021.5.21 16:01

カテゴリ:未分類

3月☆日 

電車に乗って外出。人はまあまあ多いような、でも「普段」がどんなぐらいやったもうよくわからんようになっている。用事があるところの最寄り駅近くの一角は、お店がごっそり閉店してて、ガラス越しにがらんとした店舗内と奥の窓とその向こうの風景まで見えて、ここってこんなんやってんやなあ、と思い、その空洞みたいな場所がすごくさびしく見える。家も店も、人が生活してて物がたくさんあって、というときと、ただの空間のときと別の場所に見える。 

この一角が全部空き店舗なんて今までもちろん見たことはなくて、ほんとうに、どうなるんやろかと思う。

3月☆日 

NHKスペシャル「定点映像 10年の記録~100か所のカメラが映した“復興”~」。震災直後から岩手・宮城・福島の100か所で定点観測した映像を細かく見て、そこに映っている人や住んでいた人に取材した番組。瓦礫ばかりだったところが整地され家が建っていく、あるいは周りが流された土地に残っていた家が取り壊されたり。1歳になる直前に行方不明になってしまった息子のために瓦礫の中に鯉のぼりをあげていた若いお父さん、地元の人のためにガソリンスタンドの営業を続けていたけど体を悪くして亡くなって娘さんが後を継いで頑張っていたけど道路の位置が変わって廃業、周りがほぼ流された中で住み続けていた老夫婦、仮設住宅の近くに響く子供の遊ぶ声、と10年間の映像に映っているものをたどっていくとそこにあった町の姿、確かに暮らしていた人たちのことがわかってくる。衝撃的な津波の映像だったり大きく変わる町の姿が注目され(そこにも重要なことはあるのだけど)、さらに10年ていう時間の中で、特にその場所から遠い人にはつい外側の現象しか見えなくなるのやけど、ここでどれだけの人が暮らしていて、その一人一人がその後の10年をどうやって生きてきたのか、自分はほんとうになにもわかっていなかったと思い知らされた。最後に定点観測を企画したカメラマンの人が、忘れてはならないと言うがわたしたちはその忘れられるものがなにかさえ知らない、と話していて、その通りやし、すごく重い言葉やった。 

3月☆日 

「みんなのつぶやき文学賞」で国内部門の第1位を『百年と一日』が受賞しました! ありがとうございます! 

豊崎由美さんが10年間続けていた「ツイッター文学賞」が今年から「みんなのつぶやき文学賞」として有志の書評家のみなさんに引き継がれ、その第1回の受賞になってとてもうれしいです。ツイートで1人1票投票する形式で、けっして規模は大きくないですが、1年に読んだ本の中で1票を投じていだだいたのはほんとうにありがたい限りです。発表当日は豪雨だったのやけど、新宿の会場で待機。海外部門10位から順に発表していくのでずっと無観客の客席で見てて、皆さんの本の紹介のあまりのうまさ、職人芸に感服してて長時間でもめちゃめちゃ楽しませてもらいました。「ツイッター文学賞」では海外・国内1位の作者・訳者にアルマジロひだかさん作のオリジナルあみぐるみトロフィーが授与されて、今までわたしは最高2位で毎回あれ羨ましいなあ、ほしいなあ、と思っていたので、今回受賞の知らせをいただいたときに「トロフィーも引き継がれてますか?」とまず聞いてしまったのですが、無事に念願のめっちゃかわいいトロフィーをいただきました。手作りのイベントで準備もなにもかもすごい大変やったと思いますが、事務局のみなさん、投票してくださったみなさん、ほんとにありがとうございました。 

発表イベントの動画はYouTubeで見れます。読みたい本が見つかると思うのでぜひ見てみてください。 

3月☆日 

震災関連で、BSプレミアム「こころ旅」の傑作選で震災の被災地に行った回がいくつか放送されてた。2011年の春コースが東北で、震災からまだそんなに経ってない被災地を訪れているし、その何年後かにまた同じ場所を訪れたりもしてる。こうして同じ場所や同じ地域の映像、しかも自転車に乗ってるからピンポイントじゃなくてその辺り一帯がどんな感じやったかわかって、工事が進んでだいぶ様子が変わってたり、貴重な記録やなあと思う。見覚えのある回もいくつもあって、途中で立ち寄る食堂で自分は結構記憶してるなあ。 

ほとんどテレビ観てないけども、「こころ旅」はやっぱり観るとこれこそ癒やされるというか、ほんまにええ番組やなあ。老後は今までのをひたすらリピートして観て暮らせたら幸せだと思うので、「こころ旅」専門チャンネルを作ってほしい。 

3月☆日 

Eテレ「7年ごとの記録 イギリス 63歳になりました」。イギリスで7歳だった子供たちを7年ごとに取材するドキュメンタリー番組。前回から7年ぶり、当たり前やけど。この番組、たぶん日本で放送が始まった92年?から観てるのやけども、見始めた時は確か35歳だった人たちが63歳に。途中、取材されるのが耐えられずに拒否した人や(イギリスではめちゃめちゃ有名な番組で、どこに行っても自分の人生の過程を知られてるというのはそれはつらい)、放浪状態から市会議員になった人もいたり、人それぞれなのを今までも見てきたけど、63歳になると病気してはったり、人生が終盤になった感じがものすごく出ていて、30年近く経った時間になんかしみじみというかさびしいというか。しかも、ずっと撮り続けてきた監督が今回で亡くなってしまったそうで、次回は70歳、どうなるのやろうか。元々は階級社会のイギリスで、階級が人生にどれくらい影響を与えるかを調査するために始まった番組で、63歳まで観てみて、生まれですべてが決まるわけではないけどスタート地点が違うのはやっぱり暮らしがかなり違うなあ、とも思いました。そしてわたしも、この番組ならもうすぐ7回目ていうとこで、と若いときにはめっちゃ年上の人たちと思ってたのがそんなに変わらんかったのか、と思うようになりました。 

3月☆日 

『ミッドナイト・ファミリー』。メキシコのドキュメンタリー映画。闇営業の救急車を営む一家に密着、て紹介を見ても「なにそれ????」てなると思うのですが、映画を見てもどういう状態なのか日本で暮らす身にはなかなか理解しがたい。メキシコシティは人口900万人に対して公営の救急車が45台しかなく(東京都はだいたい同じくらいの920万人で236台(2013年))、他は民間というか闇営業状態の救急車が患者を搬送してる。事故の連絡を聞きつけて我先にと現場に急行し(ほとんどカーチェイス状態)、早い者勝ちで患者を運び、代金を請求。お金を持ってない人だったり、治療の甲斐なく死んでしまって支払いを拒否されたり。闇営業ってどうやってやってんの?というのは、行政や公共サービスが行き届いてない国にありがちなんやけど警官に賄賂を払って成り立ってて、しかもちょいちょい基準が変わったと言っては警官がさらに金を要求してくる。取材されてた一家は、兄は17歳らしいけど痛み止めの注射とかしてるし、なんでか知らんけど小学生の弟が一晩中救急車に乗ってるし、医療行為の資格とかどうなってるのかさっぱりわからない。わたしは大学で都市地理学の勉強をしてたのやけど、その授業で先生が「メキシコシティが抱えてる問題が解決したら全世界の問題が解決すると言われてる」と言うてはったのを思い出した。公共が機能してないってほんま恐ろしいよな……というのがでも、このコロナ禍で人ごとじゃなくなってるよね……。 

状況もあまりにも嘘みたいなうえに、12歳ぐらいの弟が食いしん坊のぽっちゃりで、家がガス止められててシャワーのお湯が出えへんときの悲しそうな顔とかめちゃめちゃ表情豊かすぎて、フィクションに見えてしまうのが難点です。

3月☆日 

なんぼなんでも桜早すぎやで。

3月☆日 

写真賞の審査員をしている北海道の東川町へ。本来は毎年夏に授賞式や受賞記念写真展などの写真イベントと町のお祭りがあるのやけど、コロナで延期になっていて、この時期に。いつもと違って、授賞式も関係者のみ、ギャラリーでのトークも収録。毎年のイベントはすごい賑やかで楽しいので、ちょっとさびしくはあったけど、無事に開催できてよかったです。 

そして審査員を受けて3年で初めて、夏以外の季節を体験。3月末の東川(旭川の隣です)、まだ雪が残ってて、昼間の日なたは暖かいけど夜は東京の冬ぐらい寒かった。普段はイベントでスケジュールがいっぱいなのやけど、今回は町の方に山のほうや昔の小学校を改装した家具店やパン屋さんなども案内してもらって、とっても楽しかったです。 

4月☆日 

東京に戻る。旭川空港は小さい空港で、飛行機の便が最小限に減っていることもあって、人が多かった。そうか、これから就職や進学で東京に行くていう人もいるんやな。見送りの家族らしい人もたくさんいました。1年半ぶりに乗った飛行機、3列の真ん中を空けてあとは満席ぐらいの埋まり方。羽田空港は、めちゃめちゃ広いのもあって、ほんとうに人がいない。売店や食堂も半分くらい閉まってるし、だだっ広さがさびしい限り……。ここで仕事してはったようさんの人はどうしてはるやろかと考えてしまう。 

バスを待つ間に、[丸福珈琲店]があったので珈琲ゼリーとプリンを買って帰りました。どっちもめっちゃおいしかった。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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