よう知らんけど日記

第143回 あやうくぎっくり腰になるとこやった。

2021.6.18 15:19

カテゴリ:未分類

4月☆日 

友達とひさしぶりにオンライン飲み会、というかしゃべる会。去年緊急事態宣言になったころはオンライン飲み会てよう聞いたけど最近あんまり聞かへんのは、飽きたというかオンラインやといまいち盛り上がらへんのか、それとも結構やっててわざわざ言うまでもないからなんか。わたしはたまにだけやなあ。オンラインというとトークイベント。あ、仕事でオンラインミーティングの人は結構いはるのかな。 

それでこの日は、Google Meetというのを使ってみた。しゃべる人の声が被っても聞きやすいとのことやってんけど、確かに3人でしゃべって同時に言うたりしてもあんまり違和感がない。食べ物飲み物用意してしゃべって、最終的に5時間!めっちゃ楽しかった! 人としゃべるのはつくづくだいじでいい時間やなあ。 

なんかでもほんま、こんな状態が1年以上も続くとは思ってなくて、人に会えへん状態に慣れてしまって、長らく会ってない人もようさんいるし、特に、元々連絡を取り合う関係じゃない人、たとえば「この集まりやこの店に行くといてる感じの人」には会えへんし、ほんで新しい出会いがないよね。新しく知り合うって仕事の限られた場面以外でほんまないよね。 

4月☆日 

天気が変わりやすくて、雷がすごい。家にいてる分には大雨はそうでもないけど、風が強いのはわたしはつらい、ってこの「よう知らんけど日記」でも何回も書いてるような気がするけど、つらいものはつらい。 

今の部屋、建物が古いので窓が古い。日本の窓が貧弱なんはよう言われてることやけど(機密性や耐熱の基準とか外国に比べるとほんまに下位)、もともと窓がそんなにようないうえに、窓って共用部にあたるからおしゃれにリノベされてるマンションとかでも窓だけはそのままなんよね。これ、なんとかしてくれへんかなあ。 

真冬にドイツとロシア行ったとき、窓がめちゃめちゃしっかりしてて、サンクトペテルブルクなんかマイナス15度ですごい風でも部屋の中はまったく風の音しいへんかったもんね。いい窓、いいなあ。 

4月☆日 

『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン(新潮新書)。あまりにスマホ見過ぎ、スマホ依存状態なので、「スマホは脳にやばい」系の本を何冊か読んで自分を脅す作戦。中でもめっちゃ売れてるらしい『スマホ脳』は、タイトルからするとちょっとうさんくさいねんけど、内容はスマホの見過ぎが脳に悪影響な部分もおもしろいけど、SNSとかスマホのコンテンツがいかに人間の脳の仕組みを利用して依存させるかに特化したビジネスやっていう解説が興味深かった。世界のすごい頭いい人たちがよってたかって依存を誘ってお金を儲ける仕組みを作ってるのやから(無料のアプリで使ってる人はお金を払ってないつもりでも、広告や情報の売買で利益を得てる=わたしたちは時間をお金に換えられて吸い取られてる)、一般の人が抵抗するのはすごい難しいよな。全体に適者生存の話に進化論を都合よく使いすぎな部分は微妙では?と思うのですが、スマホ見る時間減らす効き目はありました。 

5月☆日 

本を片付ける。書評委員になったこともあり、本の増えるスピードが尋常ではなく、家の中がどうにもならない。 

こないだ整理して片付けて減らしたはずなのに、もう本の山が何本も成長している。仕分けして、友達に送る箱に詰める。まだ読んでないのに積んでる本を右から左に積み直すという呪いにかけられてるというか、そういう地獄に落とされてるのでは? と思うぐらい、ずっとこれをやってる気がする……。 

と思ってたら、前に家に来た作家の友人が、「本をたくさん眺められる部屋っていいよね」と言ってくれたので、ちょっと慰められました。その友人の仕事場はめっちゃ片付いてるけど……。 

5月☆日 

オンラインイベント、見るほう。書店主催の作家のトークイベント、結構見てる。アーカイブ視聴できるのも増えてきて、見やすくなった。こういう状況になる前から、わたしは書店などでの開催のイベントで気になるやつは普通に予約してよう見に行ってたのやけど、オンラインになって融通が利くようになってうれしい。出演者としても観客としても対面でできるようになってほしいけど、オンラインも両方がいちばんいいよね。 

でもうっかりするとこれ、忘れるねんな。期限1週間後かー、と思ってると、過ぎてることがある。アーカイブあるけどチケット購入はイベント始まる何時間前のことが多くて、あ、しまった! てこともようある。わたしはなにごともこうしてうっかり忘れることが多いのやけど、やっぱりとにかく思いついたら早めにやる、が大事なんやろな。展覧会とかも、会期の最初のほうに行っとかないと、2か月ぐらいあるし、と思ってるうちに、え? あさってまで!? みたいなことになりがちやんな。 

5月☆日 

そういやこないだあやうくぎっくり腰になるとこやって。「ぎっくり腰」、人からもよう聞くし、30代でも経験ある人は結構いる。大変そうやなあと恐れつつ、わたしはじわじわくる腰痛はあるけどそういう急激なやつはなったことなくて、それは姿勢がいいとかではなくて(明らかに悪い)単に体を動かす機会が少ないからやと思う。それが、宅配便で届いた重い荷物を運ぼうとして、重い物を持ち上げるときは腰を曲げたらだめで、一回しゃがんで腰を立てた状態で膝を使って持ち上げないとあかんよ、とは知ってて気をつけており、しかし、このとき、周りに物がいろいろ置いてあって体勢を整えにくく、そのうえこのところの部屋から出ずにじっとしてる状態が長すぎて、頭ではわかっているが体が思うように動いてくれないみたいな感じで、しゃがみが足りないまま腰を曲げた姿勢で持ち上げかけてんね。あ、やばいよな、これは、と思った途端、その通りに腰の横の筋肉がつった的な痛さが走り、そこで動作を止めました。しばらくめっちゃ痛かって、ソファで転がってじっとしたまま対処法を検索。幸い、立つ、歩くは痛くないから生活に支障はなくて、消炎剤塗ってじっとしてたら2日ほどで痛みは治まりました。だから、こんなちょっとのことでもけっこう痛かったから、ぎっくり腰になったらどんだけしんどいんやろ、気をつけな、というか、とにかく普段動かなすぎやよな、ほんまに動物としての身体機能が失われるわ、と反省しました。 

5月☆日 

『デヴィッド・ボウイ 無(ナシング)を歌った男』田中純(岩波書店)の書評を書く。デヴィッド・ボウイの作品の初期から最後のアルバムまで詳細に論じた本。デヴィッド・ボウイって本人の存在感がありすぎるから、なんとなくジギー・スターダストとかの宇宙人っぽいイメージとかはわかってても、各曲の詳細な意味とかあまり知る機会がなかったから、すごいおもしろい本やった。2段組500ページの大著なので、ちょっとずつ何日もかかって読んでたのやけど、初めて知ることや、へー、あれはあれとつながってんのや! そういう意味やってんや!ってことがいっぱいあって、1章読む度にその曲聴いたり、ビデオ見たりしてて、デヴィッド・ボウイどっぷり期間で楽しかった。 

全体を通して思ったのは、わりと素直というか、好きな音楽とかアートとかどんどん取り入れていく人なんやなあ、と。音楽だけでなく、文学やら建築やら関心が幅広いんやけど、好きなものが作品に反映されて、でもそれがデヴィッド・ボウイ感溢れるものになってるってすごいよなあ。 

おもしろかったんが、初めてアメリカ行ったときに、それまでも好きで影響めっちゃ受けてると言うてた『時計じかけのオレンジ』の世界がアメリカではすでに存在してる、って言うてたとこで、やっぱりそうなんや! デヴィッド・ボウイから見てもアメリカってクレイジーなんや! って妙にうれしかった(だってほんまにそんな感じするもん、アメリカ)。そのあと、ジョン・レノンが死んだときも同時多発テロのときもアメリカにいたみたいで、そのあたりの影響も気になった。「ヤング・アメリカンズ」の解説を読んだら、ラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』のエンディングで「ヤング・アメリカンズ」が流れるんやけど、それがめっちゃ合ってるのがわかったというか、わたしあの映画見て「ヤング・アメリカンズ」流れてきたとき一人で爆笑しそうになって周りがしーんとしてるから耐えてんけど、やっぱり笑うので合ってたよな、と思いました。 

5月☆日 

最近、なぜか家の中でiPhoneを見失いがち。別に行動が変わったわけでもないのに、なぜにそんなに行方不明になるのかはわからないのやけど(『スマホ脳』のとこで書いたように、スマホを遠ざけようとして妙なとこに置くから説が有力)、見つからんときはiPadのSiriに「iPhoneどこ?」って聞く。前は電話かけててんけど、そうかiPadに聞いたらええのか、と気づいた。しかしわたしはSiriやらアレクサやらに話しかけるのが苦手。誰もおらんとこで一人でしゃべるの気恥ずかしいし、人がおったらもっと恥ずかしい。デジタルネイティブじゃない世代的なものかと思ってたら、年上の人でもめっちゃ使いこなしてる人はようさんおるしなあ。あと、道歩いてたらハンズフリーで携帯でしゃべりながら歩いてくる人に遭遇するけど、あれもできへん。人が目の前におるのに携帯でしゃべるのも難しいし、なにかコミュニケーション的な壁があるのやろな。 

5月☆日 

薔薇の季節。わたしは花は薔薇が好き。近所の家に生えてるのも店で売ってるのも、なんか薔薇がいちばん好きなんよなー。それでこの時期は散歩するのが楽しい。薔薇って丈夫なんか、世田谷の庭がある家とかやとすごい育ってようこないに咲くなあ、と感心するぐらいいっぱい花がついてて、いいなあ、と思う。『その街の今は』のラストシーンに書いた赤い薔薇の家は、太融寺町を自転車で走ってるときに見つけた空き家で、プラスチックの漬け物樽に植わってんのを放置されてんのに(翌年も見に行ったので少なくとも2年ぐらいは放置状態やった)、2階建ての家全体が真っ赤な薔薇で覆いつくされててほんまにすごかった。もし一戸建てに住むことがあったら薔薇を植えたいけど、わたしは手入れをマメにできへんから、あの家みたいに薔薇に覆われて大変なことになるやろな。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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