第106回 日本でエチオピアコーヒー店を開きたい。
カテゴリ:アメリカ
9月☆日
アイオワ滞在食べ物事情。大学というと普通学食というかカフェテリア的なところがあるはずなんやけど、アイオワ大学は校舎が散らばってるからか中心的なところがなくて、泊まってるホテルの1階にちょっとしたカフェテリアと隣接してる学生会館の地下に売店があるだけで、日本でもアメリカでもほかの大学で行ったような大規模学食がない。最初は自炊しようかと思ってたけど、部屋は電子レンジしかないので早々にギブアップして、徒歩7分くらいのとこにある高級スーパー(成城石井的なやつ)のデリか、地下の売店のスシかがメインの食事に。スシは、意外においしい。前にロサンゼルスに行ったときの日記にも書いたと思うけど、マグロにチリソースかチリマヨネーズのドラゴンロールていうのが好きで、日本でも売ってほしい。それにしても、高い! 学校の売店やのに全然安くない。スシは10ドルくらいするし、サンドイッチやらサラダやらも日本のコンビニに慣れてるとびっくりする。量も多いのやけど、なかなか厳しい値段です……。
9月☆日
朝ごはんは朝ごはん部屋があって、ベーグル、マフィン(激甘)、ヨーグルト、オートミール、コーヒー、ジュース、ゆで卵など自由に食べられる。が、ゆで卵は剥いてあるのがなぜか2個入ったパックで、味も見た目通りのがっかり感。一通り食べてみた結果、ベーグルにクリームチーズとジャムという組み合わせに落ち着きました(帰るまでの2カ月ちょっとの間にベーグル50個以上食べました……)。この朝ごはんの時間はほかの作家としゃべる貴重な機会でもあり、毎朝しゃべれそうな人にチャレンジしてはあんまりしゃべれずへこむことの繰り返し……。時間帯でよく一緒になったのがベネズエラの作家で、名前はカルロスだったので、日本でいちばん有名なボクシング漫画の強敵がベネズエラのカーロスっていうんだよ、と伝えました。
9月☆日
ある朝、この朝ごはん部屋でドイツの詩人から、今日何人かでランチ行くねんけどいっしょにどう?って言われて、行く行く、て言うて昼にホテルの前に出たら、車に乗るらしい。大学院生含め、10人で3台に分乗。歩いて行けるダウンタウンのどこかやと思ってたけどスーパーの近くのショッピングモールとかかな、と思って乗ってたら、いつまでも着かず。とうもろこし畑しかない平べったい土地を貫くまっすぐな道路、アメリカ映画に出てくるやつやんこれ、っていう道を走ること結局……50分! どこまで行くねん! これ、日本の都市部とはぜんぜんちゃうくて、まっすぐな一本道、信号なし、制限速度もよう知らんけどたぶんなしやから、何10キロメートル離れてたんやろなー。誘ってくれたドイツの詩人も「こんな遠いと思ってなかった・笑」。着いたところは、ごく小さい町。昔は栄えてたのかもなーという煉瓦づくりの渋い建物が、今はメキシコやアジア系の移民の店になってる。わたしたちはミャンマー料理を食べたのやけど(豆鼓醤みたいなんで味付けした野菜炒め、めっちゃおいしかった)、レンタルビデオとアイスクリームの謎の店があったり、開いてんのか閉まってんのかようわからん服屋があったり、わたしはアメリカ来るのは4回目やけど、ニューヨークとカリフォルニアの大都会しか行ったことなかったので、こういう場所が、リアルなアメリカなんかもなー、と思った。
9月☆日
シカゴにみんなで旅行。貸し切り大型バスで5時間、めっちゃ修学旅行感あり。シカゴ大学で何人かの作家が朗読のイベントをしたあとは観光。シカゴと言えばわたしにとってはドラマ『ER』やねんけど、よう考えたら病院の中のシーンばっかりでシカゴの街はあんまり映らんのやった。それでも、高架の電車を見たときは気分が上がった。アメリカといえば美術館。どこの大都市でもメガ美術館がすごい充実度なのでもちろんシカゴ美術館へ。ゴッホやらモネ(ここのモネコレクションは今まで見た中でいちばん好みでした)やらの近代美術は大売り出しな感じで名作大量にある。とりわけ、エドワード・ホッパーの代表作『ナイトホークス』はシカゴの街の感じもぴったりなので見られてうれしかった。
9月☆日
夜は、シカゴといえばのブルースクラブへ。そう、『ブルース・ブラザーズ』もシカゴが舞台なんですよ。こういう人、大阪にもおるなあという、渋いおっちゃんおばちゃんが熱演するブルース、暮らしの一部って感じがよかった。たった10週間大学におるだけやのに、わたしたちには正規の学生証が与えられてて、この日行ったブルースクラブは学割でなんとタダ! わたしはまさか学生証がそんなに使えると思ってなくてアイオワに置いてきてしまって悔やみました。
ほかは、シカゴに留学経験のあるシンガポールの詩人男子が学生街を案内してくれたり、エチオピアの女子と移民街のエチオピア料理を食べに行ったり。エチオピア料理初めて食べたけど、カレー的ないろんな種類の煮込み料理(肉あり野菜あり)を、厚めのクレープみたいなんで巻いて食べる。ちょっと酸味があって、癖になる味。そして最後に出てきたエチオピアコーヒーが!! めっちゃおいしかった!! わたしコーヒー苦手なんですが、なんぼでも飲めそうやった。コーヒーってたぶん本来こういう飲み物なんちゃうん、と思った。日本でエチオピアコーヒーの店を開きたい……。
9月☆日
楽しいねんけど、楽しければ楽しいほど英語できへんのがつらくなる。シカゴでは一日中、ほかの作家と一緒に自由行動で、常にコミュニケーション取ってなあかんし、アメリカに来て1カ月近くたってどうも自分の英語が突如上達するようなことがないらしいのもめっちゃわかって、へこむ波が……。今までホームステイもしたことないので、いきなり30カ国以上のいろんな種類の英語の中で自由にがんばって、っていうのはかなり無謀やったか? と落ち込む。みんなめっちゃ親切で、ごはんに誘ってくれたりするんやけど、そのたびにもっとしゃべれたらなあ、と思う。
わかったことは、英語でも日本語でも、コミュニケーションがさくさくいかへん性格は変わることはない、言葉がわからんとそれがいっそう際だつ! みたいな感じかなあ。へこんでる暇あったら英語勉強しーや、の一言やねんけどね。
9月☆日
大統領戦のディベートを、日本文学の先生(アメリカ人)の家で観戦。実は、その先生から誰か誘ってと言われてて、2週間ぐらいかかって5人ぐらいにがんばって声をかけててんけど(わたしがお世話になってる先生がいて、その先生が家でディベート観戦会をやるので、あなたはこないだ政治記者のトークに出席してたから興味あるかと思って……と前置き説明の英語を延々考えたり)、直前に、ばたばたっと増えて12人くらいで大きいテレビで、トランプとクリントンのどアップをたっぷり2時間見ることに。わたしは細かいところはわからないのだけど、トランプがメキシコ、チャイナ、ジャパンが悪いみたいなことを同じことばっかり繰り返して言うてるというのはわかった。その場にいた人は全員、どう考えてもクリントンの圧勝だったね、と話したんやけど、帰りの車で、留学生の人が友達のフェイスブック見たら「トランプ最高!」「トランプ圧勝!」ばっかりなんだよねえ、と難しい顔をして言っていて、大学の特に文学研究というリベラルな人がほとんどの環境と、また別のアメリカがあるのやろうな、と思う。
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com 風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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