松永久秀が“令和のサラリーマン”だったら…戦国イチの悪人は誤解?【豊臣兄弟】

2時間前

『豊臣兄弟!』第20回より。炎の中で高笑いする大和の戦国武将・松永久秀(竹中直人)(C)NHK

(写真9枚)

豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。

5月24日放送の第20回「本物の平蜘蛛」では、信長に対して謀反を起こした松永久秀が、豊臣兄弟の説得の甲斐もなく城を枕に自爆した。かつては戦国最狂の悪漢と呼ばれた彼の評価について、改めて確認してみよう。


■ 本物の「平蜘蛛」はどっち…第20回あらすじ

再び松永久秀(竹中直人)に裏切られた織田信長(小栗旬)は、久秀の所有する茶釜「平蜘蛛」を差し出せば命は助けると、羽柴(豊臣)秀吉(池松壮亮)と小一郎を使者に送る。

久秀は、自分をまがい物扱いしなかった前主君・三好長慶が与えてくれた領地・大和国を任せる以外譲らないと断言。それでも死んでほしくないと訴える小一郎や秀吉に、久秀は2つの釜のどちらが本物の平蜘蛛なのか? を当てるという賭けを申し出る。

『豊臣兄弟!』第20回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第20回より。2つの茶器「平蜘蛛」のうち、どちらが本物か見極めようとする小一郎(写真左、仲野太賀)と兄・羽柴秀吉(写真右、池松壮亮)(C)NHK

小一郎は左側に置かれた釜を割ろうとするが、久秀が制止。その態度を見て、左側が本物と断定した。人にまがいものなどないと言う小一郎に、久秀は2人こそ本物だと言って投降するかと思いきや、奥の間に火を放った。

久秀は戦ばかりの世の中に飽きたこと、平蜘蛛は2つとも偽物だったと2人に告げ、そのまま城ごと爆死。小一郎と秀長からその報告を受けた信長の部屋には、久秀が持っていた物とそっくりの茶釜があった・・・。

■ 松永久秀が“令和のサラリーマン”だったら…

『豊臣兄弟!』第20回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第20回より。茶器「平蜘蛛」を見せる大和の戦国武将・松永久秀(竹中直人)(C)NHK

「戦国三大梟雄(きょうゆう)」という言葉を、聞いたことはあるだろうか? 多かれ少なかれ、残酷な事件や逸話が多い戦国武将の中でも、とりわけ極悪非道と言われた斎藤道三、宇喜多直家、そして松永久秀のことだ。

美濃を手に入れるために主君や恩人を裏切りまくって「マムシ」と恐れられた道三、暗殺を繰り返すことで地位を盤石にした直家に対して、久秀は将軍殺しや東大寺の放火と、とりわけ悪事のスケールが大きくて、実質的に「戦国ナンバーワンの悪人」だったと言っていいだろう。

『豊臣兄弟!』第11回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第11回より。本圀寺の門前で、僧侶に扮した小一郎と話す三好三人衆ら。写真左から、小一郎(仲野太賀)、三好⻑逸(中野英樹)、石成友通(阿部亮平)、斎藤龍興(濱田龍臣)(C)NHK

ただし、このコラムでもチラッと取り上げた通り、これらの所業は冤罪だったことが、ここ最近の研究で判明している。足利義昭(尾上右近)の波乱の生涯のきっかけを作った、足利幕府13代将軍・足利義輝の暗殺は、実際の首謀者は三好長慶の逝去後に権力を握った「三好三人衆」だった。

しかし、久秀の息子が、彼の預かりしらないところで関わってしまったため、いつの間にか久秀が黒幕と噂されるようになったのだ。

さらに、東大寺炎上に至っては、久秀と三人衆が交戦を繰り返すなかで、うっかり失火させてしまったという説が有力となっている。推測だけど、三好家が信長に対して劣勢となっていくなかで、自分たちの失墜の大きな原因の一つとなった久秀に、自分たちの悪事をなすりつけた・・・というところではないだろうか。

『豊臣兄弟!』第20回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第20回より。2つの茶器「平蜘蛛」を見せる大和の戦国武将・松永久秀(写真左、竹中直人)(C)NHK

ドラマの中でも語られたように、久秀の前半生にあまりにも謎が多くて素性が知れないということも、周囲がその噂を鵜呑みにした要因という気がする。

そして、自分の大和国支配を盤石にしようと、主君をコロコロ変えたため、江戸時代に幕府が推奨した「朱子学」(昨年の『べらぼう』で出てきたよね?)の教えに反する悪い見本として、大悪党ぶりに尾ひれが付けられた・・・というのも原因だそうだ。

いわば「当時日本一の大企業の社長に大抜擢されて、一番重要な支社を任されたものの、社長が亡くなると本社と対立して、独立独歩を目指していろんな会社と手を結んだあげくに倒産」と考えると、そんなに悪い人じゃないというか、すごく自社&先代の社長思いの頑張り屋さんだったと思えてこないだろうか?

■ 秀吉と似てる…絶対的主君の“寵臣”だった

『豊臣兄弟!』第20回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第20回より。信貴山城内に火を放った大和の戦国武将・松永久秀(竹中直人)(C)NHK

そんなわけで「平蜘蛛を所望する信長に見せつけるために、信貴山城の天主で平蜘蛛に火薬を詰めて爆死した」という、みんな大好きな(笑)派手な最後が江戸時代に創作されたのは、久秀が一流の茶人だったことに加えて、「戦国最大のヴィラン」として、派手な死に方が民衆に求められたからなのかな? とも思える。

彼が最後を遂げた信貴山城跡は、未だに本格的な発掘調査が行われていないそうなので、もし実現したら爆死の真実が明らかになる日が来るかもしれない。

『豊臣兄弟!』第11回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第11回より。織田信長(写真左、小栗旬)に高級な茶器を贈る大和の戦国武将・松永久秀(写真右、竹中直人)(C)NHK

それにしても、改めて三好長慶と松永久秀の関係性がこうして語られたのを見ると、長慶と久秀の主従関係は、信長と秀吉と実に似通っていることに初めて気付かされた。

三好長慶は徳島の一領主から畿内一円を支配する大大名へとのし上がり、一時は織田信長よりも天下に近い人物だった。久秀は長慶に文官として召し抱えられるも、やがて武将として頭角を表し、トップの寵臣として大和国の支配を任されるまでになっていた。

いわば百姓の身分から信長に取り立てられて、今や一国一城の主となった秀吉と、似たような立身出世を果たしたわけだ。

そして長慶がわずか43歳で病没すると、後ろ盾を失った久秀の地位はたちまち揺らぎ、ついに信長の命令で筒井順慶(永沼伊久也)に大和を奪われることになってしまった。久秀が豊臣兄弟と割と親しい関係となり、その最後に立ち会うという設定になったのは、脚本の八津弘幸がその相似性に目をつけたからだろうか。

■ 伝説の秀吉・竹中直人から2人へのエール

『豊臣兄弟!』第20回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第20回より。炎に包まれる大和の戦国武将・松永久秀を前に、ぼう然とする小一郎(写真左、仲野太賀)と羽柴秀吉(写真右、池松壮亮)(C)NHK

久秀は爆死を前にして、豊臣兄弟に「本物とか偽物とかどうでもいい。うまく信長を欺け」というメッセージを残した。なんの後ろ盾もないけど、飛び抜けた才覚を持つ上司の一存で下剋上を実現できた人間は、その上司がいなくなるとこれほど脆く崩れていく・・・という反面教師として、兄弟の心に残るのだろう。

その壮絶な姿と遺した言葉が、信長の突然の死のあとで、なぜあれほど兄弟が上手く立ち回れたのか? という、そのヒントとなっていくのかもしれない。

『豊臣兄弟!』第11回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第11回より。松永久秀(写真右、竹中直人)を出迎える藤吉郎(写真左、池松壮亮)(C)NHK

それにしても、仲野太賀と池松壮亮にこのメッセージを送るのが、大河ドラマファンのなかで最も強烈に「豊臣秀吉」として印象に残っている竹中直人というのが、本当に狙ったようにぴったりだった。「あの世からとくと楽しませてもらう」という言葉は、秀吉役&大河ドラマ主演の先輩として、このあとも撮影がつづく仲野太賀&池松壮亮に向けたエールのようにも思えてくる。

そして、この松永久秀の、視聴者の期待に応えまくった最期も、大河ドラマの伝説として語り継がれていくことになるだろう。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。5月31日放送の第21回「風雲! 竹田城」では、秀長がついに総大将として竹田城の戦に臨む姿を描くとともに、のちに秀吉の軍師となる小寺(黒田)官兵衛(倉悠貴)が初登場する。

文/吉永美和子


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