悪女でなく聖女、時代劇における築山殿のイメージを一変【どうする家康】

首に短刀をあて自らの命を絶つ瀬名(有村架純) (C)NHK
古沢良太脚本・松本潤主演で、徳川家康の人生を描く大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。7月2日放送の第25回『はるかに遠い夢』では、瀬名と家康のあまりにもつらい別れが描かれ、SNSは悲嘆と哀悼のコメントであふれかえった(以下、ネタバレあり)。
■ どうする家康、瀬名は身代わりを拒否
正妻・瀬名(有村架純)の考えた「戦のない国」を実現するため、裏で武田勝頼(眞栄田郷敦)と組んでいた家康だが、その計略を勝頼が世間に漏らし、ついに織田信長(岡田准一)まで届いた。信長に「自分で決めろ」と言われた家康は、瀬名と、共謀した長男・信康(細田佳央太)の身代わりを処罰して、信長の目をあざむくという計画を立てる。

しかし佐鳴湖までたどり着いた瀬名は、説得に来た家康たちに「守るべきものは家族ではなく国」だと身代わりを使うことを拒否。みなに安寧の世を作るようにと願い「兎は狼よりも、ずっと強うございます。あなたならできます」と言って、家康を送り出す。そして自ら首を切った瀬名を、付き添っていた大鼠(松本まりか)が介錯したのだった・・・。
■ 聖女のような存在だった瀬名、その花道

第1回で、あまりにも可憐でほがらかな姿で登場した瞬間から「絶対築山事件がしんどくなる」と、視聴者を不安にさせた『どう家』版の瀬名。とはいえ築山殿が悪女という定説は、最近は疑問視されており、大河ドラマ『おんな城主直虎』(2017年)では、性格はキツいが根はやさしく、息子を守るために躊躇なく犠牲となる瀬名を、菜々緒が好演したのが記憶に新しい。

そして『どう家』の瀬名はさらに一歩踏み込み、戦国時代においては進歩的すぎて危険な理想のために動き、そこに愛する夫を巻き込まないために、そして代わって夫に実現してもらうために死を選んだ・・・という、聖女のような存在として描かれ、その大きな花道ともいえるこの日は、予想通りSNSが悲しみの声であふれることになった。
「こんなに苦渋な選択、こんなに辛い築山殿事件はあっただろうか」「半年かけて瀬名ちゃんの愛らしさや逞しさ、人間としての魅力を余すことなく伝えきってこの結末は辛すぎる」などのコメントが並んだ。

また、今回のタイトルとなった『はるかに遠い夢』。これは瀬名の大それた政治構想が夢のようなものでしかなかった・・・という意味かと思いきや、家康と2人で静かに暮らしたいという、瀬名が遠い昔に何気なく語った願いがたったひとつの夢だった、というセリフにSNSは驚きとともに慟哭がピークに。
「完全に騙されました」「小さな夢があまりにも遠くて、けして手に届かない夢って、ほんと戦国つらい」「平和な世で家族と穏やかに暮らしたいという瀬名さまの夢がこの事件の伏線だった。秀逸すぎる脚本」などの言葉が。
■ 築山殿のイメージがくつがえる分岐点
瀬名を演じた有村架純にも、「凄い演技だった。かつて生きていた女性の汚名を跳ね返す力のある話だった」「キャスティングから今までと違う瀬名が描かれるとは思ったけれど、史実通りなのに新しくて嘘がない瀬名になるとは予想してなかった」「ずっとブレずに笑顔のままで逝く瀬名、架純ちゃんの魅力を最大限に表現していて素晴らしかった」などの賛辞があふれた。

くしくも本編放送後の紀行で、松本と有村が「歴史っていうのは、そこの間にどういう感情があって、どう働いていたのかは分からない」と語っていたが、特に築山殿に関しては、事件の真実や本人の人柄などは未だに謎が多い。だからこそ自由な発想で描けば描くほどおもしろい存在であり、それを証明したのが古沢良太の本と有村架純の演技だろう。これが時代劇における築山殿のイメージが完全にくつがえる、大きな分岐点となるかもしれない。
『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアムは夕方6時から、BS4Kは昼12時15分から放送。7月9日の第26回『ぶらり富士遊覧』では、瀬名と信康亡きあとも信長に従う家康が、武田家を滅ぼしたあと、国を上げて信長を盛大にもてなす姿が描かれる。
文/吉永美和子
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