評論家が観るスカーレットvol.7「稲垣吾郎には華がある」

大崎医師役で連続テレビ小説『スカーレット』に出演する稲垣吾郎
数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家・ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。『スカーレット』第22週(3月2日〜7日放送)を振りかえって思うところを訊いた。
第22週「いとおしい時間」
やはりこれはいけない。無駄な前週のおかげで緊張が途切れてしまっている。放送があと1カ月しかないところを考えても、作者の水橋文美江はここからをクライマックスに持ってきたかったのだろうが、それなら武志が亜鉛結晶釉を発見した直後にこの週に入らねばならなかった。

それはともかく、この週はいろいろと観る者を引き付ける。まずいきなり、前週のドタバタは何も無かったかのように、市の役人・信作(林遣都)が部下と一緒に喜美子の工房を訪れるところから始まるが、そこで『信楽PR大作戦』の一環として、素人を相手にした一日陶芸体験教室を、なんと「明日やってくれないか」と唐突に願い出るのだ。
信作にしてみれば「こんなの『アーティスト』のやる仕事やない」とハナっから思い、おっかなびっくり申し出ているのだが、喜美子はあんがい「喜んでもらうんが媚びるんやったら、いくらでも媚びるで」とあっさり引き受ける。
そりゃそうだ。喜美子独自の創作意欲を目覚めさせた最初のインスピレーションは、前衛美術のビッグ・ネームであるジョージ富士川(西川貴教)が信楽を訪れて子ども相手に開いたワークショップにあるからである(・・・と僕は考えるのだが、ドラマではそこは触れられない)。
しかし翌日。もともとは、トラブルのあった窯元のファンシーな作風に興味を抱いたお客だから誰も来ない。ところがひとり、喜美子のファンだというOLが体験教室に来てくれるのだ。
このOLが、おお、女優・辻凪子! 京都造形大学俳優コース在学中から関西インディペンデント映画のちょっとしたアイドル的存在であり、その後も間寛平の「劇団間座」で舞台を踏んだり、数々のインディペンデント映画に出演、自らも監督に乗り出すなど、まだ24歳ながら意欲的な活動を続けてる女優なのである。
その独特のチャーミングさからか朝ドラにも気に入られていて、『べっぴんさん』『わろてんか』『まんぷく』『なつぞら』の4作に出演。初のAK作品(NHK東京放送局制作)である『なつぞら』なんて、ノン・クレジットながら東映動画・・・いやいや東洋動画のアニメーターとしてちょこちょこ映りこんでいた。
けれど、みんなの記憶にあるのは『わろてんか』の安来節乙女組のメンバー・小豆沢とわ役だろう。女優としては格段に有名な都役・大後寿々花より出番が多く、結局いちばんおいしいところをかっさらってしまっていた。
ま、今回は第128話(3月3日放送)に1回きりの出演だったが、前回の最後で武志が突然フラついたりして不穏なムードが漂うなか、あっけらかんとした空気を招き入れてくれる良き清涼剤となってましたね。BK(NHK大阪放送局制作)は、大阪のこういう貴重なコメディエンヌをもっとちゃんと使わねばならない。『わろてんか』では相当数の反響があっただろうに。
これを機に喜美子は陶芸教室を始めることになり、武志も亜鉛結晶釉による「雪」の文様を作品に降らせることに成功する。しかしその後、同僚とのたこ焼きパーティ中、突然の鼻血! いよいよ武志の闘病生活が始まってしまうのだが、この悲劇は喜美子のモデルとなった神山清子およびその息子・賢一に起こった事実であり、映画『火火』でも描かれた神山清子の人生のもうひとつの顔にも繋がるので避けようがない。

それにしてもこの週から武志の担当医師として登場した稲垣吾郎がすごく良いのだ。「慢性骨髄性白血病、余命3~5年」などという病状を喜美子に告げる場面でも、ことさら重苦しい顔をせず、サラッと言ってのける。
だがそこにはいい加減さというものは微塵もなく、「厳しい状態ではあるが決して私は諦めていないし、あなたたちも諦めないでくださいね」という確固とした意志が言外に感じられるのだ。
しかも結構な変人である、というのもそこここに漂っているし。つまりは、やっぱ吾郎ちゃんには華があるのだ。今回の『スカーレット』にいちばん足りない華が。
あ、快演というか怪演というか、直子(桜庭ななみ)もいよいよ凄いことになってきた。旦那の鮫島に捨てられたと言って全身ヒョウ柄でまたも突然現れ、もう不動産会社社長の後釜見つけたけど「鮫島のこと大好きやった!」と大声で叫ぶ奔放さ。

戦火のもと取り残されたトラウマをひきずっての結果・・・とはちょっと違うようなちゃらんぽらんさがなんだか面白くなってきたぞ、いまいち活かされてなかった桜庭の演技力も含め。
それにしても八郎、ずっと信楽に居る感じだな。仕事はどうした?
文/ミルクマン斉藤
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