評論家が奔放鼎談、ベスト日本映画を厳選

2018.4.7 18:00

次男の妻役を演じた篠田麻里子 © 2017「ビジランテ」製作委員会

(写真5枚)

「ちゃんと人の反応を抑えた芝居と捉え方」

田辺「安藤尋監督ですね」

春岡「『月と雷』は神代辰巳監督の映画みたいなんだよ。脚本が本調有香で、神代監督最後の作品『インモラル・淫らな関係』(1995年)もこの女性が手掛けている。『月と雷』は、ほぼ神代映画なのよ」

田辺「あぁ、僕はそこまでは思えなかったかも」

斉藤「絵はいかにも安藤監督って感じやったけど。僕の一番苦手な時期のPFF映画を思わせる、ダラダラした長回しの典型で(苦笑)」

田辺「なんか、ナチュラルと言えばオッケーみたいな時代でしたね」

斉藤「ちょっと変わってはきているけどね、安藤監督も。瀬戸内寂聴原作のもあったやん」

春岡「『花芯』(2016年)だっけ。あのあたりから変わってきてるし、これはたぶん俺だけだろうからトップ3に入れておきたいんだよ。あと廣木隆一監督の『彼女の人生は間違いじゃない』を挙げておきたい。斉藤くんは挙げないだろ?」

斉藤「もちろん。『彼女の人生は間違ってる』って、はっきり言いたくなりましたもん(笑)」

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春岡「だから俺が推すのよ(笑)」

田辺「僕は『火花』、『ビジランテ』、あと、小林啓一監督の『逆行の頃』も良かったんですよね。面白かったのが、学校のシーンで警備員がいるからどっか逃げようってシーンが、サバイバルホラーゲームみたいで、小林監督の計算がちゃんと構築されてる」

斉藤「小林監督は、前作の『ぼんとリンちゃん』(2014年)が大傑作やったからね。今回はオール京都ロケで、撮影に1年半かけて、上映時間はなんと60分。高杉真宙くんの京都弁がもうちょっと上手かったらよかってんけど。俺はさっきも言ったけど『ナラタージュ』、『ビジランテ』、あと、酒井麻衣監督の『はらはらなのか。』

──『はらはらなのか。』はどのあたりにビビッときました?

斉藤「思春期の女の子の決断モノなんだけどさ、その決断の瞬間が非常に明確かつ見事に撮られてて粛然とした思いにさせる。それと、ミュージカル的なレベルが高い」

田辺「酒井監督の上手いところは、ほぼファンタジーなんだけど、だからこそ一瞬現実に戻される瞬間にリアリティがあるんですよね」

斉藤「あの人、きわめて現実主義者やんか」

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田辺「そういえば昔、酒井監督に『現実をすごい見てるよね』って話をしました」

斉藤「この間、酒井監督とトークショーをやってんけど、やっぱりそういう話になった。1本目の『いいにおいのする映画』(2016年)もよくできてるけど、格段に好きかな」

田辺「あれはファンタジーでしかなかった気がしますけど、『はらはらなのか。』は現実とファンタジーの立ち位置がしっかり描かれていますよね」

斉藤「そこに辿り着くのはすごくいいよね」

田辺「あと、僕は冨永昌敬監督の『南瓜とマヨネーズ』の芝居が好きだったんですよね。特に、恋人役・太賀と浮気相手・オダギリジョーが鉢合わせしたときに、臼田あさ美が噴き出して笑う芝居には驚愕しました。あのシチュエーションでは、普通は考えられない演技。芝居のワークショップなんかで使える、ひとつのモデルケースになる気がする」

斉藤「ライブハウスの隅っこのシーンとか可笑しかったね」

映画『南瓜とマヨネーズ』 © 魚喃キリコ/祥伝社・2017「南瓜とマヨネーズ」製作委員会

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春岡「臼田がかつてオダギリにひどい目に遭わされたにも関わらず、今目の前に現れると関係を持っちゃう。それって違うんじゃない?って字面で見ると思うんだけど、でも現実にはそんな女いっぱいいるじゃん。そんなの理屈じゃないじゃん。で、芝居のキャラクター造形とか考えるとそんなバカなみたいな・・・ってなるんだけど、実際にはそんなことは全然なくて。それをちゃんとやってるよねっていう感じだった」

田辺「ちゃんと人の反応を抑えた芝居と捉え方してるかなって思ったんですよね」

春岡「あれはあれで面白かった。全然広がっていかないでよかったよね。あの家とライブハウスだけで。あの狭い空間だけでちまちまやってて」

斉藤「もともと冨永監督ってそういう人やんか。今よりずいぶん表現は先鋭的だったけど『亀虫』(2003年)とかね」

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