評論家が奔放鼎談、ベスト日本映画を厳選

2018.4.7 18:00

次男の妻役を演じた篠田麻里子 © 2017「ビジランテ」製作委員会

(写真5枚)

「ゲバゲバ親父の役やらしたらピカイチ」

──菅田将暉主演、映画祭で賞を獲りまくった岸善幸監督の『あゝ、荒野』は?

斉藤「前編はすごく面白かった。でも、後編が正直・・・。あの長尺だし、スクリーン観ながらキモとなるシーンで時計をちょっと見ると(笑)、これってテレビシリーズの尺なんやな、と。それがちょっとひっかかった。要らんエピソードもあるやん。自殺クラブのエピソードなんて、現代に翻訳する必要がほとんど感じられない」

春岡「面白かったけど、無くてもいいよね」

斉藤「後半の試合でさ、観客が泣く前にみんなが泣くやん。あれがイヤなのよ、テレビ的で」

田辺「どの映画もそうですけど、泣かせるって重要じゃないですから」

春岡「後半にそんなんばっか入れてくるんでちょっと困ったなって思ったけど、前半が盛り上がる最中だから、前半は面白かったのよ。どうなるんだと思って。だって話自体はつらまないじゃん。昔のドラマじゃあるまいし。でも、やっぱり面白い!」

斉藤「まあ、そもそもあれは寺山版『あしたのジョー』やからね」

春岡「そう、『あしたのジョー』なんだよ。それにしても、高橋和也は素晴らしかった」

田辺「高橋和也は近年特にいいですよね」

斉藤「ゲバゲバ親父の役やらしたらピカイチだよな」

映画『あゝ、荒野』より高橋和也 © 2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ

──高橋和也がこんなにすごい役者になったのって、いつ頃からですか?

田辺「僕が『あ、ちょっとすげえ!』ってなったのは、内藤瑛亮監督の『パズル』(2014年)ですかね」

春岡「呉美保監督の『そこのみにて光輝く』(2014年)もあったけど、あのとき『高橋和也は相変わらずいいな』と思った記憶が俺にはあるから、それより前だったはず」

斉藤「もともとは橋口(亮輔)監督やんな?」

春岡「そうだ、『ハッシュ!』(2001年)があんじゃん。あれが抜群だったのよ。そういえば、『ロックよ、静かに流れよ』(1988年)もよかったわ」

斉藤「だって、あれは名作じゃないですか。男闘呼組の芝居がスゲえって。でも、男闘呼組以降の、完全に俳優となってからの代表作は『ハッシュ!』ですよ」

春岡「あれにも出てたよな。メキシコのレスラーかなんか連れてくる胡散臭いプロモーターかなんか・・・」

田辺「『リングサイド・ストーリー』(2017年)ですね」

映画『リングサイド・ストーリー』 © 2017 Ringside Partners

春岡「高橋和也はどんなオヤジ役をやらせてもいい。今一番安心して観てられるオヤジだよな」

田辺「それでいて、気味悪さもあるという(笑)。『リングサイド・ストーリー』では高橋和也だけがおもしろかったという」

春岡「なんか、高橋和也が出てくるだけでうれしくなっちゃう(笑)」

──今大注目の白石和彌監督の『彼女がその名を知らない鳥たち』はどうです?

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斉藤「ラストがダメだった。納得出来ないっていうか、逃げたとしか思えないっていう。白石監督もわかってないんだろうな、というのが映画を観てて分かっちゃうというのがどうにも引っかかる」

春岡「俺もそう。あれはないよなあ。あんなもんで純愛とかって言ってんじゃねえよって」

──原作は沼田まほかるさんの小説ですが、イヤミスってああいうラストが多くないですか?

斉藤「そもそもイヤミスなんて、本をあんまり読んでない人が言うことだと思うしね。むしろもっとドス黒くていいし、あんなところで生まれ変わるなんて言われても困るだけ」

田辺「あのとき、白石監督にインタビューしたんですけど、撮影していたのが、山下敦弘監督の『オーバー・フェンス』(2016年)を観たぐらいのタイミングだったらしくて、蒼井優と鳥で『やられた!』と思ったって。野球だけやっとけよ!って(笑)」

春岡「たしかに。『オーバー・フェンス』と似てるっちゃ似てるよな。白石監督が慌てたのもわからんでもない(笑)」

斉藤「でも、あの映画で一番ええのは松坂桃李なんよね。もう、抜群なんよ。ますます上手くなってる」

田辺「僕は、松坂桃李を評価したいので、ベストのひとつに入れます。松坂桃李って、取材や舞台挨拶でも、めっちゃ好青年じゃないですか。丁寧に話してくれるし、全然気取ってないし。でも、ああいう役をやると、ホントに胸くそ悪い人になれるという」

斉藤「ますます上手くなってるよ。白石監督の『孤狼の血』は観た? そりゃ、白石監督は松坂桃李を使いたくなると思うわ」

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