三池監督「テラフォーマーは基本、俺」
累計発行部数1600万部超の大人気コミック(集英社『週刊ヤングジャンプ』で連載中)を実写映画化した『テラフォーマーズ』がいよいよ公開される。監督は、ジャンルを問わず、精力的(過ぎる!)に撮り続ける三池崇史だ。爆発的な人口増加を解消するため、火星移住計画が立てられた未来。ある生物が火星地球化のために送り込まれた。500年後、15人の隊員が生物駆除のため火星に送り込まれるが、そこで見たのは、人型に異常進化した謎の生物「テラフォーマー」だった・・・。主演は『悪の教典』以来のタッグとなる伊藤英明。映画評論家・ミルクマン斉藤が三池監督を直撃インタビューした。
取材・文/ミルクマン斉藤 写真/本郷淳三
「『立ち上がった瞬間は、池上遼一だよ!』って言うと『誰ですか?』って」(三池監督)
──三池監督はなんでも『スターシップ・トゥルーパーズ』が大好きで、現場にもDVDを持ち込んで、ここぞというシーンを撮影する前には景気づけで観る、という話をだいぶ前に何かで読んだ記憶があります。今回の映画を観てまず思い浮かべたのは、そのことなんですが(笑)。
そうでしたね(笑)。現場に持ち込むというよりも、朝起きてなんとなく流して、派手なカットだけ観て出かけるっていう、そういう使い方をしてました。ただ今回は、同じ地球外を舞台にしているので、逆に余計な情報というか、プレッシャーになるなって感じがあったので、あまり活用してないです。そもそも最近は、その(『スターシップ~』を観て出かけるという)エネルギーも無くなってきましたね(笑)。
──そうはおっしゃるけど、作られる映画は相変わらずエネルギッシュですね。
自分がアクティヴになるっていうより、作品がアクティヴになっていってるから。腰とかいろいろ壊れてきちゃってて、昔より暴れることはできないんですね。でもその分、作品が代わりに暴れてくれるっていうか。自分のなかではなんとなく、いい時期に原作者が書いてくれた、漫画としてヒットしてくれたな、っていう風に思います。
──原作は映画化のお話が来る前に読まれていたんですか?
20代の若い役者がちょうど連載が始まった頃、現場とか控え室でよく話してたんですよ。「これカッコいいよね」とか、「あいつカッコいいよね」、「俺はこいつだな」とか。で、どんなのを面白がっているのかなと思って、原作を読んでみたってところですよね。
──なんでも今回、謎の生物「テラフォーマー」のモーションキャプチャ(人や物の動きをデジタル的に記録する技術)演技は監督自らやってられるようなんですが。
そうなんですよね。映画の「テラフォーマー」は基本、俺です(笑)。すっ飛んでいくのも俺だし、そのときに一緒にすっ飛んでいくのも5匹撮れる、っていう。上から落ちたりとか、これはあまりにも痛いなと思ったらスタントマンに変わってもらって(笑)。映画のなか2匹、進化するんですよね。それも全部自分。基本的に芝居している部分はすべて俺です。
──あはは、それは画期的ですね! 「テラフォーマー:三池崇史」ってクレジットに載せるべきだったんじゃないですか?
いや、それは演じたというのとは、またちょっと違う感じなんですね。普段は「こういうキャラクターで、こうで・・・」というのを役者に伝えて撮るのが仕事なんですが、今回は直感的に、このキャラクターは映画的にこういう動かし方をした方がいいんじゃないか、っていうのを自分でやったんですよ。スーツアクターがまず日本にいないんですから。
──まだアンディ・サーキス(『GODZILLA ゴジラ』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで知られる、英国のモーションアクター)は日本にいませんもんね。
頭のイメージを、他人の身体を通してデジタル上で再現するってのは、手間ばかりかかって、すごくやっかいなんですよ。自分で直接やった方がいいんじゃないかな、って。そのまま肉体を通してダイレクトにデジタルのデータに落としていくわけだから、その方が手っ取り早い。それをアクションのメンバーに見ててもらって、「なるほど、監督はこういう動きをしようとしてるのか」と。コツというか、こっちの狙いみたいなものを掴んでもらって。「グワーッときて、グーッと踏ん張って、立ち上がる姿がこう!」とか、なかなか伝わらないんですよね。世代が違うので、「立ち上がった瞬間は、池上遼一だよ!」って言うと、「え、誰ですか?」って(爆笑)。もう面倒くさいんで「こんな感じ」ってやっちゃった方が早い。それがデジタルの良いところなんですよ。
──映画の性質上、今回はCGを含めた意味での「特撮」が多い映画ですね。監督がそういうのをお嫌いじゃないのは過去作を観ても明らかですが、僕がいつも共感するのが、リアルになりすぎないところ、というか、それを嫌っているように見えるところなんです。嘘であってあたりまえ、イマジネーションがあくまで優先・・・監督もそういう風に感じられているんじゃないかと思うのですけれども。
そうですね。本物にしか見えない完成度ではなく、もうちょっと気楽にCGを使ってもいいんじゃないかって。CGのクオリティと作品のクオリティが全然別なのは、いろんな作品から実証されちゃってるから、あまり縛られたくないんですよ。それに、今の我々の制作体制・・・「与えられる時間」とか「予算」を考えるとね。締め切りも早いし、作り手はフラストレーションが相当溜まると思うんですよ。だからどっかポイント絞って、この質感だけ、そこだけはパキッとやろうとかっていう現実的な目標を設けていく。
──三池監督は一貫して「特撮監督」とか「VFX監督」とか、そういうのを設けてないですよね。それは日本映画としてはもちろん、特撮出身の監督を除いては世界的にも珍しくて、そこが「三池流」のハンドメイドな独特の感触に影響してると思うんです。
特撮監督というのが、そもそもいないんです。全部同じスタッフで撮ってるので、血しぶきの素材なんかも自分たちで工夫して。今回だと、白い血しぶきを火薬でパッと飛び散らかしてみたり、刷毛でしぶいたり、バケツの底をドンって叩いて飛ばすとか、いろんな飛び散り方を、下から上から横からと何百通りも撮るんです。だからモーションキャプチャも自分たちでやっちゃうし、フル3D-CGの動きやアニメーションも自分で監督していく。結構やっかいなんだけど、楽しいと言えば楽しいですね。
──冒頭の、ブレードランナー風の汎アジア的な雑踏やド派手な看板なんか、監督がやられた『漂流街 THE HAZARD CITY』(2000年)や『DEAD OR ALIVE FINAL』(2001年)、『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』(2014年)の世界と地続きな感がありますよね。
今回は「ヒサヤ大黒堂」さんに一応お話を通して、「ぢ」って言うロゴもちゃんと許可をもらった看板を出したりしてね(笑)。あと、「アース製薬」とタイアップして、逆に『テラフォーマーズ』のCGを利用してコマーシャルに進出するっていう。
──おお、そうなんですね。進出というと、最近Eテレの『プチプチ・アニメ』でフンコロガシのコマ撮りアニメを監督されましたよね。
『ころがし屋のブン』(2016年)ですね。プチプチって結構アニメ隊にとっては大変で厳しいんですが、一応シリーズの構想は練っています。でもたぶんその前にロング・バージョンを作ろうかなと。
三池崇史(みいけ・たかし)
1960年生まれ、大阪府八尾市出身。1991年、Vシネマ『突風!ミニパト隊』で監督デビュー。以降、コメディからホラーまで、幅広いジャンルで映画を撮り続ける。1年間に数本の映画を監督する多作で知られる一方、1998年の『TIME』誌にて「これから活躍が期待される非英語圏の監督」に、ジョン・ウーとともに10位に選出されるなど、海外からの注目度も高い。2015年に公開された映画『極道大戦争』では、『第6回オアハカ映画祭』で最優秀監督賞を受賞した。
2016年4月29日(祝・金)公開
監督:三池崇史
出演:伊藤英明、武井咲、山下智久、山田孝之、小栗旬ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
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