小林啓一監督「おたくは良くも悪くも象徴」

2014.9.30 20:00

2012年、『ももいろそらを』で長編映画デビューした小林啓一監督

(写真3枚)

「おたくは良くも悪くも若者の象徴に見えた」(小林監督)

小林監督の長編デビュー映画『ももいろそらを』(2013年公開)も見逃してはならない作品だ。新聞記事の内容を採点するのが趣味という女子高生が、大金が入った財布の持ち主の男子高校生(しかも天下り官僚の息子!)と、恋愛とも友情とも言えない関係を結んでいきながら、「とある出来事」のために良いニュースだけを掲載する新聞作りをしていく物語。『ももいろそらを』も『ぼんとリンちゃん』然り、「近頃の若者は」「これだからゆとり世代は」とついつい思っちゃったり、「自分世界」に閉じこもる少年少女にやたら外に出る楽しみを訴えてみたり、いまだ「ネットやゲームばかりして」とお小言をいっちゃうような、大人たちのいかにもオールドな性質を鋭い言動で突き刺しまくっている。

16歳62カ月の腐女子・ぼんちゃん(佐倉絵麻)と18歳の浪人生・リンちゃん(高杉真宙)

「僕自身も実は、おたくと呼ばれる人たちへの先入観があったんです。暗い、批判的、社会や現実に対して閉鎖的といったイメージを持っていました。しかし『ぼんとリンちゃん』を作るにあたって、オンラインゲームで知り合った腐女子とゲームオタクの男の子に実際会って交流を深めると、好きなものに真っすぐで情熱的でパワフルであることを知った。好きなものを理解できない、という理由だけで偏見を持ったことに深く反省しました。むしろ社会人になると、意外と自分のテリトリーでしか活動しなくなる。だから、おたくは良くも悪くも若者の象徴に見えた」(小林監督)

SNSなんかでは、「俺物語」「私小説」を書き並べて、でもオチがなく、自分自慢に酔っている「年配な投稿」が飽きるほどタイムラインを埋め尽くす。なかでも、「顔が見えるSNS」は見ているだけでストレスがたまる。「あんたの頭のなかはまだバブルなのかよ」とツッコミたくなるような写真付きVIP自慢投稿を見ていると、ちょっとしたことでメンタルがボロボロになっちゃうけど、でもそのか弱さや脆さにこそ「生きている実感」を抱かせる若者たちの味方でいたいと思わされる。昔ながらの考え方への敬意は払いつつも、しかし「過去の実績」は旧来の考え方の参考例でもあるのに、やたらこれまでの偉業を押し付けてくる上の世代はできれば華麗にスルーしたい。

映画『ぼんとリンちゃん』のワンシーン

「むしろ僕は、今の大人について言えば『エネルギー』がないように思えるんです。経験が邪魔をしたり、金銭・家族の関係で身動きがとれなくなっているもの分かるけど、それにしてもという感じ。今の若者は個性がないなんて、よく言われるけど、それは大人も一緒じゃないか・・・と。むしろそういう意味だと、若者より柔軟性がないし、視野も狭いのではないか。今の若者が『大人になりたくない』ってのは、そういうところにあるのでは。本来なら、年齢とともに許容範囲や視野も広がっていなければおかしいはずです。不安を感じても、それを乗り越えていく容量とエネルギーを持っていなければならない。簡単にはいかないと思いますが、ある種のてこ入れが必要。これは自分自身にも言えることですが。劇中のぼんちゃんは、16歳と62カ月という設定です。この考え方は、大人になりたくないと捉えられますが、逆に言うと、ずっと若くいようとあがきでもある。決して見た目とかはなく、思考的に若さを保つことも大事です」(小林監督)

『ぼんとリンちゃん』で大好きなセリフがある。それは、アニメや漫画の世界に入り浸っていたぼんちゃんが、現実は実に面倒くさいものだと知りつつ、しかしその現実と向き合わざるを得なくなって、詰んでしまう場面での「不安はオヤジの仕事だろ」だ。街行く人の波と逆行し、肩をぶつけながら歩く。その不安が、現在の若者そのものをあらわしているようでいて、何だか泣きたくなった。

「個人的に若者に対して望むことは、限界を考えずに柔軟にものを考えることや常に新しい価値観を求めること、また小さくてもいいから絶えず挑戦することです。これらは今回の映画のテーマでもあると思います。経験がないからといって、躊躇せずに、がむしゃらに挑戦して欲しい。実体験も必要ですが、本や映画で、思考が変わることも大きな経験ですから」(小林監督)

映画『ぼんとリンちゃん』

2014年9月20日(土)公開
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:佐倉絵麻、高杉真宙、比嘉梨乃、桃月庵白酒、ほか
配給:フルモテルモ

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