よう知らんけど日記

第77回 嗚呼、懐かしのカールスJr.!

2015.3.13 18:21

(引き続き思い出しよう知らんけど日記)

10月☆日
ところでサンディエゴ、ロサンゼルスとほんまに気候がよかった。10月のほど良い時期っていうのもあるけど、毎日お天気良くて、なにより湿度低いのがいいね。UCLAのキャンパスでは紅葉とサザンカとコブシの花がいっぺんに咲いてて季節感むちゃくちゃ、あー、ほんでハリウッドセレブは上は水着みたいな露出度にシープスキンブーツ履いてはんねやな、と納得。気候が安定してるから映画の撮影に向いてるんやろうけど、映画も業界の人たちもどっかクレイジーになっていくんは気候のせいもあると思うわー。

伊藤比呂美さんから、サンフランシスコのベイエリアは寒いからダウンないと無理、って言われて、えー、まじっすか、と慌てて服を買う。こんなとき頼みのユニクロやGAPはLAでは郊外型ショッピングセンターにしかないので、UCLA前の学生街にあったのはアメリカン・アパレルとアーバン・アウトフィッターズ。日本にないけど、アーバン・アウトフィッターズってなかなかほど良く使いやすくて、大型店ファストファッションとはまた違って中規模で雑貨なんかも置いてある、昔のDEP’Tみたいな感じかなあ。かわいいのいっぱいあったけど、気温と手持ちの服と考え合わせて、こないだ日本で買うたばっかりやん、っていうモッズコートを購入。そしてこれがサンフランシスコで大変役に立ちました。

10月☆日
人生の中で過ごしたいちばん寒い冬は夏のサンフランシスコだった」とマーク・トウェインが言葉を残してるぐらい、海からの冷たい風が吹きつける夏のサンフランシスコは寒い(冬はぬくいらしい)。
泊まったとこはカリフォルニア大学バークリー校のあるバークリー駅のすぐそば。道をようさん人が歩いてる! 店がいっぱいある! ホテルの隣が大型ドラッグストア!! やっと水やら買い物の心配せんでええとこに来たよー。散歩もできるよー。そして電車で移動も便利ー。内湾を挟んで向かいのサンフランシスコ中心街へは電車で20分ぐらい。サンフランシスコといえばケーブルカー。乗ってみたかったので始発の駅に行くと、広場を囲むようにGAP、ユニクロ、Forever21、H&M……。銀座も渋谷も心斎橋もニューヨークも世界中どこに行ってもこうなんやろうなー。ユニクロでヒートテックとストールを買い(ほんま助かるわー)、20分ほど行列してケーブルカーに。休日やと1時間以上待つらしい。それもそのはず、車体は100年前からそのままっぽいし、時刻表もなくて運転するおっちゃんたちが適当に決めてる? と思うような間隔で来る。そしてやっと順番が来て意気揚々と外側についた座席に乗ったら……。ちょっと! 坂道が! こんなとこ走るのおかしいって! と叫びたくなる急傾斜。運転もおっちゃんの完全手動、保津川下りみたいな感じやし、怖くてゆっくり楽しまれへん。ステップのポールにつかまり乗りもできるけど、いやー、無理無理。自動車も走ってるのが不思議なくらいの、スキーのジャンプ台みたいな坂。

大学時代の地理の授業で、アメリカの都市は、自然の地形にだんだんと人が住み着いて形作られたんじゃなくて、なんもないとこにここに街を作ります→いちばん合理的なのが碁盤の目・グリッドです→山があろうが谷があろうがグリッドで作ります、てな感じでできた「人間の合理的精神が自然に打ち勝つ」という思想を体現してるって習ったけど、ほんまやわ。ニューヨークのマンハッタンは岩がやらかかったから全部削って作ったけど、サンフランシスコは坂があろうがなにがあろうがとにかく道をまっすぐ通してできあがったんやね。港まで行ってみると、観光客向け魚市場が繁盛してて(これも地理で再開発の事例として習った)、カニとか茹でたて食べられたり、日本の漁港観光地と雰囲気は似てた(規模は違うけど)。

サンフランシスコは岬に位置してて市街地を拡大することができず、そこに近くのシリコンバレーで稼いだ人たちが住むから、今はアメリカでいちばん家賃が高い街になってるそうで、ガレージを改装した窓なしのルームシェアでも10万ぐらいするらしい。それでも、規制が厳しいのか、町並みはほとんどがビクトリア様式風の3階建て木造。マンション建てたら儲かるのに、っていうふうにはならへんのやね。この町並みがサンフランシスコの印象を決めてる。ケーブルカーだけでなく路面電車も戦前の車両をそのまま使ってたり、ニューヨークに行ったときも思ったけど、アメリカは意外に古い物を大事に使ってうまく生かしてる。
あと、ケーブルカーや路面電車、地下鉄に3日間乗り放題のチケット買ってんけど、紙のカードの日付の銀色をコインでこする方式。日本がサイバーな未来都市に思えてくる。

10月☆日
郊外のパロ・アルトにあるスタンフォード大学へ。やー、スタンフォードですよ! 白熱教室的な感じやん! このモンキービジネスのツアーではニューヨークでもコロンビア大とか自力ではとても入られへん学校ばっかり行かせてもらって、ありがたい経験させてもらってます。スタンフォード、アメリカでも有数の私立大学で、バスで移動するほど広大な敷地に、モザイク壁画のある大聖堂にはパイプオルガン、庭にはロダンの彫刻がうろうろしてるし、今まで持ってた「大学」っていう概念が吹き飛ぶようなところなんやけど、始まりは個人の寄付っていうのがまたアメリカ。100年ちょっと前に豪農が息子の死を悼んでつくったと。アメリカにはとんでもない大金持ちがいて、格差も理不尽も呆然とするくらい感じるねんけど、その莫大な富を寄付したり次世代やら故郷のために投資したりすることの豊かさっていうのも確かにあるんよね。
来る途中でFacebookの本社も見たし、パロ・アルトの学生街というか門前町的な場所は、さすがにおしゃれでハイソな感じのお店が並んでて、アメリカは街が違うと別の国みたいやな、とつくづく思う。そしてここのおしゃれメキシコ料理店で、41歳の誕生日をお祝いしてもらいました。

10月☆日
柴田元幸さんと古川日出男さんはロサンゼルスまでで、サンフランシスコから日本の作家はわたしと伊藤比呂美さんの2人になり、そしてニューヨークのときにもお世話になったわたしの短編を英訳してくれてるテッド・グーセンさんがツアーメンバーに。書店や大学でのイベントの合間、伊藤比呂美さんが車でミュアウッズ国立公園に連れて行ってくださった。サンフランシスコも電車で行ける範囲は限られてるし、わたしは近くを散歩してたらもうええか、って性格なのやけど、伊藤さんはめっちゃパワフルで面倒見がよくて、せっかく来たんだからとおすすめ場所を調べてくれたり、伊藤さんのおかげでほんまにいい体験ができました。国立公園はゴールデンゲートブリッジを渡った先にあって、昔のままのジャイアントセコイアの巨樹が残ってる貴重なところ。入植前はそこら中がこのセコイアの森林やったのを燃料やら木材やらで根こそぎなくなってもうたんやね。巨木好きとしては、世界一高い木(115メートル!)があるレッドウッド国立公園に行ってみたいけどそこは1日じゃ無理で、そしてこのミュアウッズの森も、小規模やけどすばらしい巨樹がようさんありました。写真撮りたかったけど、周りも全部大きいから写真じゃ大きさわかれへんのよね。サンフランシスコ、行くならここおすすめです。伊藤さんには、地元のオーガニック系スーパーとかちょっと変わった墓地とか、後で書くカールスJr.とか、連れて行ってもらってとても楽しい旅でした。

10月☆日
そう、カールスJr.ですよ。
西海岸行くって決まったとき、そんなに行ってみたい場所も思いつかへんなーと(ハリウッドとかテーマパークとかあまり興味なく)ガイドブックめくってたら、そや、西海岸はカールスJr.あるやん!と思い出した。カールスJr.は、ハンバーガーチェーンなんやけど、なぜか20年前に大阪にだけ何店舗かあった。京橋のダイエーとIMPにもあって、高校時代はその辺よく遊びに行ってたし、できたてのIMPはおしゃれスポットやったから(笑)、そこで当時はまだ珍しかった肉々しいハンバーガーとオニオンリングがアメリカ文化の香りがして好きやったんよねー。同世代の一部の人だけが「カールスJr.」というと「オニオンリング!」とめっちゃ反応してくれるという(笑)。前に英会話のインストラクター(シアトル出身)とハンバーガーの話になったとき、カールスの話したら、「え、日本にもあったんや! そら知らんかった、NYにはないけど西海岸はあるで」と教えてくれたんやった。それで、実は最初のロサンゼルス空港での乗り換えの時に目の前にあったのに、そのときは機内食でおなかいっぱいの上に時間もなかったので逃し、そのあとも移動中に何回も黄色い☆の看板を見たのに、ロードサイドの店ばっかりで全然行けず。カールスJr.に行きたいと言うと、現地の人には「なんでカールスなんか? ハンバーガーと言えば、イン・アンド・アウトやん!」と判で押したように返され、サンフランシスコの港でちょうどあったイン・アンド・アウトに入ったら確かにおいしかったけど(温かい飲み物がコーヒーしかなくてSサイズを頼んだら日本のLサイズ(しかも炭酸飲料のサイズ)がでてきた)、でもわたしはカールスのオニオンリングがフェイマススターバーガーが食べたいの! と思いながら残りあと2日になってしまった。最寄りのカールスは車で15分やけど、電車と徒歩で行くのは大変そうやし「カールスに行きたかったけど行けなかった話」を書こうとか思ってたら、伊藤さんが「行きたいなら行かなきゃだめよ!」と朝から車を出してくれた。そして念願のカールスJr.。確かに、店内は閑散として、いるのは怪しげな人だけ。にぎわってたイン・アンド・アウトとは違う……。でも! ああ、見覚えのある肉々しい脂ぎったバーガー! オニオンリング! 黄色い☆の笑顔! ようやく食べたそれは、懐かしい、まだアメリカが遠い別世界やと思ってたころにわたしにそこの断片を運んできてくれたあの味でした。一緒に頼んだ新商品のズッキーニのフライのほうがおいしかったけど。

カールスJr.は日本再上陸するらしいので、オープンしたら即食べに行きたいです。
今回でアメリカ編終わろうと思ったけど長くなったので次回にちょっと持ち越し。(そして先日(2015年3月上旬)2度目のロサンゼルスに行ってきたのやけど、おしゃれスポットやら美術館やらようさん行けて、ええとこやった! だいぶイメージが変わりました。その報告は、また今度、って何回先になるやらやけど、がんばって書きまーす)

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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