よう知らんけど日記

第78回 アメリカ行ったらとりあえず美術館やな。

2015.4.3 18:21

(思い出し・よう知らんけど日記 カリフォルニア2014完結編)

10月☆日
サンフランシスコ滞在中は、オークランドの書店、スタンフォード大学、サンフランシスコ市立大学、カリフォルニア大学バークレー校で、朗読やトークをさせてもらって、それぞれの会場で客層も違うのでおもしろかった。バークレー校では長くアメリカに住んでる日本人女性の団体さんや日本のアニメで日本語覚えた学生や、そうかと思うと遠藤周作ファンの渋い学生もいた。今までアメリカで朗読させてもらった書店はどこもイベントをたくさんやってて、絵本や雑貨も多めに置いててゆったり時間を過ごせそうないいところばっかりやった。今回の書店は、店内にお客さんがテーマを決めて手書きした「マイベスト10ブック」が掲示してあって、これええなあ、と思った。泊まってたバークレーは、映画館が4軒もあり(看板が白いボードにアルファベット並べるやつでうれしい。付け替えしてるとこも目撃した)、昔ながらのいい学生街の趣がありました。

ちょうどサンフランシスコ・ジャイアンツがワールドシリーズに出場中で、市内はどこも旗やらポスターがいっぱいやってんけど、旗もユニフォームも東京のジャイアンツそのまま。違うとはわかっていても、目に入るたび微妙な心地に……。
なにはともあれ、イベントに来ていただいたみなさまありがとうございました。

10月☆日
サンフランシスコ滞在最終日、ガイドブックやらネットやら見て行きたいところ且つ行けそうなところは「ジャニス・ジョプリンが住んでた家」に決定。地下鉄と路面電車とバスを乗り継いで、まずはカストロ・ストリートに。ショーン・ペン主演の『ミルク』に登場するとこですね。大きなレインボー・フラッグがひるがえってたり横断歩道もレインボーやったりするけど、お昼前なので歩いてる人もほとんどなく。ふと見ると「Osaka Sushi」ていう店が! なんでOsakaや! ちょうどおなかすいてたんで入りました。店員さんは韓国人らしく、つたない英語でわたし大阪から来て、と言ってみると喜んではくれましたが、店名の由来はわからず。肉うどん頼んだらまあまあおいしかった。歩道には、ビートニクの詩人たち(アレン・ギンズバーグとか)の肖像入りプレートが。西海岸は全体に60、70年代の文化が色濃いねんけど、サンフランシスコでは特に元ヒッピーっぽいおじさんおばさんが路上で手作り品売ってたり弾き語りしてるのはちょいちょい見かけた。

そこからまたバスに乗って歩いて、ジャニス・ジョプリンが住んでた家を探す。ごく普通の、というか、高級住宅地の品のいい家族が住んでそうなきれいな家(実際今は全然関係ない人が住んでる)。定番のパステルカラー3階建てで、看板もなんもないので、とりあえず写真撮って一人で感慨に浸って、また歩く。すぐそばの公園が緑がきれいで、ジャニスは普段はおだやかな、やさしいひとやったんやな、と高校生の時にドキュメンタリー映画を見たときと同じことを実感した。
そのあとデ・ヤング美術館に行って、ここはみんぱく系のネイティブアメリカンやイヌイットのものが充実してて、近代絵画ももちろん有名どころがあって、エントランスホールではコンサートが開かれてて、展望台の眺め最高で、やー、ほんまアメリカ行ったらとりあえず美術館やなと、市内にある現代美術館が改装で閉館中なのを残念に思いつつ、満喫して帰ってきました。

10月☆日
2012年に行ったニューヨークに比べると西海岸はアジア系の人&食べ物屋さんが多い。ラーメンはやたら見たし、カリフォルニア巻きはファストフード状態でどこでもある。種類もめっちゃあって、天ぷら巻いてるのとか衣つけて揚げてるのとか、中でもマグロにチリソースのスパイシーツナロールというのが意外においしくて、日本でも流行ってほしいなと思ったり。

それから、前述のヒッピー文化&ハリウッドセレブの影響かオーガニック、ベジ、ヴィーガン、グルテンフリーの料理出すとこが多い。しかし、量はアメリカンサイズ、食後のチョコレートケーキも特大&激甘で、そんなにヘルシーとも思えず……。メニューにはミートローフとかポークなんとかて書いてても要するに「もどき」料理やねんけど、なにでできてるかいまいちわからんし、そんなにしてまで「もどき」を作るというのはかえって肉が食べたい気持ちの裏返しでは、とも思いましたが、入ったお店はおいしいとこばかりでした。

10月☆日
ところで、サンディエゴに着いた翌日に買ったチョコチップクッキー。直径8センチくらいのが10枚入ってて、朝ごはんないときはこれを1枚ずつ食べてたんですが、2週間経ってもぜーんぜん湿気てない。かりっかりのさっくさく。日本て湿度高いんやなあ、としみじみ。日本で封開けたら1日でしなっとするよなあ。

10月☆日
帰国。外国にいても日本の味は恋しくならないのですが、ふつうのサイズの食べ物が売ってるのがうれしい。コンビニ最高。 カリフォルニアにいるあいだ、「日本から西海岸に来ると時差ボケしんどいでしょう」と言われてもなんともなかった。ニューヨークに行ったときは、最初の何日かえらい早朝に目が覚めて困ったけど(しかも時差ボケになったことなくて起きられへんていうイメージやったから時差ボケと気づいてなかった)、今回は余裕。西海岸と東海岸で3時間違うのでだいぶ体感が変わるんやなと思ってたら、日本に帰ってからが眠い。3日ぐらいまさに泥のように寝続け、10日ぐらい寝過ぎの事態が続きました。わたしの体内時計と時差の関係もあるやろけど、日本にいると基本的に家におっていつでも寝れてしまうから、それでなかなか戻らへんていうのもあるやろなあ。

10月☆日
取材がまだぽちぽち続く。びっしりというわけではないけど、複数のことを同時進行するのが元々苦手なうえに、慣れないことは時間も体力も使うなあ、と勢いで乗り切ってた夏ごろより忙しく感じたり。通常のエッセイや短編の仕事も復帰してきて、あっという間に今年が終わりそうな……。

11月☆日
大阪建築 みる・あるく・かたる』の刊行記念で、大阪の心斎橋アセンスとリーガロイヤルホテルで共著の倉方俊輔さんとトークイベント。半年かけて大阪のあちこちをまわって、倉方さんの詳細な解説を聞いて、大阪にこんなにも近代建築があって、おもろい建築家たち、建設会社や街の人たちの熱い思いがあふれてるんやということをつくづく知りました。大阪に住んでると当たり前になって改めて気づかんことも多いけど、こんなにすごい建物、貴重な遺産がごろごろしてる街ってそうそうないんよね。東京もどんどん壊してるし。

リーガロイヤルホテルでは、イベント前にホテルの方に案内していただいて館内を見学。川が流れるゴージャスなロビーラウンジには行ったことあったけど、森の洞窟みたいなサロンとか豪華絢爛織物壁の大広間、シンプルモダンなステンドグラスがかわいいチャペル、これでもかというくらいきらきらのシャンデリアがある円形のその名もダイヤモンドルーム、と日本の建築史に残る名作&そんなこと知らずに見てもとにかく素敵な場所だらけ。バーナード・リーチがデザインしたリーチ・バーも初めて入ったけど、こんな家に帰ってくつろいでる気分が味わえるバー、体験したことないです。

へええええー、うわあああー、ええなああああー、とあほみたいに感動してました。大阪に住んでたときは20代でしかもかなりお金のない生活やったから、ホテルでごはんとかバーに行くとかまったく縁がなかったんよね。今度大阪帰ったら、リーチ・バー行くか、ダイニングでローストビーフカレーを食べたい。
大阪建築 みる・あるく・かたる』にはリーガロイヤルホテルは載ってないのですが(散歩コースの範囲からちょこっと離れてるのです)、大阪に住んでる人も、観光で道頓堀近辺しか行ってない人も、まだ行ったことない人も、知らなかった大阪、意外な大阪、主入れのある大阪がたっぷり詰まった1冊ですので、ぜひ読んでみてください。

10月☆日
『NHK短歌』に出演。月に1回司会を担当されてる歌人の斉藤斎藤さんに呼んでいただきました(前の藤と後ろの藤の字が違う!)。
斉藤斎藤さんは同世代ということもあって、小説や短歌での風景の表現の仕方などで話が盛り上がる。斉藤斎藤さん、短歌の作品もおもしろいし、NHK短歌のテキストに連載してた短歌の解説も論理的でわかりやすくてめっちゃうなずいた。
番組の収録は録画やねんけど、あとで編集する方式じゃなくて25分の番組を一気に撮る方式。1回本番と全く同じようにリハーサルして、どこを調整するか話し合って、本番スタート。モニターに表示される「20:13:55」と経過時間を見てるとちゃんと収まるのか心配になるけど、見事ぴったり終わる。取材ラッシュで立て続けにテレビやラジオに出演したけど、番組自体は20分30分の画面に映る範囲でしかなくても、その前の企画打ち合わせから当日の準備から、ようさんの人のようさんの力がそこに凝縮されてるのやなあ、と。ちょこっとだけ慣れて、現場のおもしろさみたいなものを感じられるようになってきたけど、自分はやっぱり家で一人でする仕事が向いてると実感もする。
斉藤斎藤さんの歌集『渡辺のわたし』、短歌ではほかにあまりない人や街との距離感がとてもおもしろいです。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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