【京都・老舗の継承】「中村軒」5代目 継ぐきっかけは大学時代の“イカ焼き”販売!?

「御菓子司 中村軒」5代目当主・中村亮太さん(2026年4月撮影)
桂離宮のすぐ南にある「御菓子司 中村軒」(京都市西京区)は、朝生菓子(朝に作りその日のうちに食べる和菓子)をメインに販売するほか、甘味処も併設する地元で愛される和菓子店です。今年も夏の風物詩、かき氷が4月23日にスタート。 いちご、ルバーブ、パイナップル、すだち……と、月ごとに変わる限定メニューを目指して足繁く通うファンも多い人気メニューです。
創業は明治16年(1883年)で、おくどさん(かまど)で丁寧に炊き上げた餡がシンプルに味わえる「麦代餅(むぎてもち)」と「かつら饅頭」が創業以来の名物です。5代目当主の中村亮太さんにお話を聞きました。
お店の裏にある作業場「餡場(あんば)」には、大きなおくどさんが置かれています。くべる薪は、餡を炊きあげるのに一番適しているという「くぬぎ」が使われます。火が鎮火したり急に激しく燃え始めたりすることもあるため、薪を入れると目が離せず、炊いているときにほかの作業はできません。粒あんは4時間、こしあんは6時間から7時間かけて作ります。また1回に仕込める量も豆で24キログラムと、多くの量は炊けません。それでも、中村さんはおくどさんで餡を炊くという選択をしました。
子どもの頃の中村さんは、いつでも食べられる中村軒のお菓子に特別な愛着はなく、手伝いもほとんどして来なかったと話します。祖父や両親も、継いで欲しいというようなことは言いませんでした。弟と2人兄弟で、飲食関係に進むというぼんやりした思いしかなかったそうです。弟さんは現在、中村軒のすぐ近くで蕎麦店「隆兵そば」を営んでいます。


■大学1年で経験した「イカ焼き」販売が転機に
転機となったのは、大学1年のときにスキー部で経験した「イカ焼き」です。1年生が文化祭でイカ焼きを売って部費の足しにする決まりだったため、仕入れから販売、売上までトータルで体験しました。
「そのときに、なんかようわからん興奮があったんですよ。自分の能力で商売ってこんなに変わるもんなんやって。美味しかったって言ってもらって、その上お金がもらえるっていうその流れが嬉しかった」
その年のイカ焼きは追加で材料を購入するほど売れて、許されるなら次の年もやりたかったと、商売のおもしろさに目覚めたきっかけを振り返ります。
そして大学時代にもうひとつ、家業を継ごうと思うきっかけがありました。それは中村さんが小さい頃から家族で訪れ、レベルがとても高いと思っていた焼き鳥店。高齢のご主人が亡くなったため閉業してしまったことでした。
「もう食べられへんってなった時、今までにないくらい絶望したんですよ。もっと食べておけばよかったとか、作れへんなりにどうやって作るか教えてもらっといたらよかったとか。結構ボロボロ泣いちゃって…」
「もしも中村軒がなくなったら、何人かはそういうふうな思いをしはる人がいるかもしれない。自分がそうであったように、人の人生にも若干影響するもんじゃないかって」
そして大学4年の就職活動の時期に、「お菓子屋さんで働こうと思ってる」と、父に初めて伝えました。
■量産に向け高価なガス釜を導入
その頃の中村軒は百貨店に出店し、おくどさんで炊く餡では足りなくなっていました。そこでコンピューター制御でおくどさんと同じように餡が炊けるという高価なガス釜を導入。ガス釜は、おくどさんの3倍の量の餡を炊くことができ、ボタンを押せば炊いている間にほかの作業もできました。これから販路をさらに広げるという状況のなか、量産も視野に入れ、父の紹介で菓子の卸をする工場で中村さんは修業します。
修業を終えた中村さんは、ガス釜での餡炊きを教えてもらい、祖父と父とならんで菓子を作る日々を送ります。これから売上を増やしていくには百貨店などの出店を増やしていくしかないという状況のなか、中村さんが将来継ぐことを念頭に、これからどうしていくかを家族で話し合いました。
曽祖父は祖父に「おくどさんだけは続けなさい」と言っていたこと、父が「ムラはあるが、おくどさんでバチッと決まったときの餡が一番美味しかったかもしれん」と言ったこと、なにより中村さんがおくどさんの餡炊きを教えてもらっておきたかったことなどから、おくどさんで炊ける量に少しずつ縮小していくことになりました。

現在はおくどさんで炊ける餡の量で、会社の規模を設定しています。効率を良くするために導入していたほかの機械も、口当たりや食感など美味しいと感じるものは手作りに戻しているうちに、結果的に9割以上が手作りになっています。
■店を引き継ぐもコロナ禍の渦にのまれる
2019年4月、中村さんは父から店を引き継ぎました。
「僕の代になったときに、できる範囲を超えてしまう催事などはすべてお断りさせていただきました。規模を縮小して自分ができる範囲ですることが、僕には合っている。ただ、どうしても売り切れができたりとか、作り直しがなかなかできなかったりするんでご迷惑がかかるところもあるんですけど」と中村さん。
また、もともと住まいだった建物に甘味処が作られていたこともあり、このまま多くの人が利用するには耐震性に問題があると判断。店を引き継いですぐに借金をして、大掛かりな改修工事に着手したその矢先、コロナ禍の渦にのまれます。
「正解がわからずしんどかった」状況のなか、甘味処を閉め、店舗の裏で細々とお菓子を販売。そして北野天満宮の近くに、半年という期間限定の「北野茶店」を開きました。あたたかいおはぎなど、すぐに食べて美味しいお菓子を提供し、喜んでもらえた経験を経て、「コロナは大変やったんですけど、街中で挑戦したことで、僕だけでなくスタッフも意識とスキルが上がりました」と、やってよかったと振り返ります。「北野茶店」のお菓子の一部は、今も甘味処でいただけるそうです。

■杵つきの餅菓子にこだわる理由
中村軒の大切なお菓子として、初代がつくった麦代餅があります。麦代餅は農作業中に畑に直接届けて喜ばれ、代金は麦で支払われていました。今も当時の製法を守り、もち米をつき、おくどさんで炊きあげた自慢の粒あんを包み、香り高いきな粉をふりかけます。
「和菓子という完成度で言ったら、麦代餅はすごく良くできてる。これを超えるものを作りたいって、職人なら絶対に思うんですけど、祖父や父、自分も誰一人超えられていない。麦代餅は、もち米を一番美味しく食べられる完成度の高いお菓子だと思います」(中村さん)

数値では表せないその日の水加減で調整された餅は、むっちりしていてお米の味がしっかりします。そこにシンプルで味わい深い粒あんと、ちょうど良い加減に振りかけられた香ばしいきな粉が絶妙のバランス。もち米をついた餅は時間が経つとかたくなってしまうので、当日中しか味わえません。
「最近は作業性や日持ちを考えて求肥が進出していますが、やっぱり杵つきの餅の方が美味しさをわかってもらえる。できる限り、杵つきの餅菓子を続けていきたい」と中村さん。

そんな中村さんに、後継について伺うと…。
「息子は大学1年になったんですけど、なんとなくやらなあかんっていうふうに思わせるのも、しんどいんちゃうかなって思うし、強制的にやらしてもお客さんにも失礼やし、従業員の生活も守って行かなあかん立場になるんで、イヤイヤでは絶対にできない。ほんまに本人が希望してやらんと。やってくれたら嬉しいですけど、やる気がないのにやって人様に迷惑かけるぐらいだったら、もうあっさりたたむか、誰かよその人を入れるかって考えた方がいい。何がなんでも直系でというふうには僕は思っていないです」
「やっぱり地域のお菓子なんで、自分のためにぱっと買って気軽に食べてもらえるようなもんを扱う店だと思っていて。僕にとっては今の状態でもすごくデカくてしんどいので、どちらにしても自分の才覚でどうにでもなる規模に戻してから、バトンを渡したいと思っています」と話し、材料などを吟味して品質をより良くしながら「昔から変わらずおいしいね」と言ってもらえるお菓子を目指して努力していきたいと想いを明かしました。
取材・写真・文/太田 浩子
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