営業妨害?今年90歳 横尾忠則vs学芸員の熾烈な攻防『大横尾辞苑』神戸で

横尾忠則現代美術館で開催中の『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』時代やモチーフ、技法も異なる139点を一挙に展示
兵庫県西脇市出身で、2026年6月27日に90歳を迎える美術家・横尾忠則氏。辞書のようにひらがな45文字、アルファベット26文字順に並べた139点の作品に、超詳細な背景解説をつけた『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』が、1月31日から、「横尾忠則現代美術館」(神戸市灘区)でスタートした。
横尾氏は神戸新聞社でグラフィックデザイナーとして活動した後、画家として活躍。ポスターや広告、雑誌、レコードジャケットなど、多くのデザインを手がけ、精神世界や「Y字路」シリーズなど、独特の世界観が注目されつづける美術家だ。

本展は、同美術館が開館した2012年から学芸員を務め、横尾氏を知り尽くした館長補佐・山本淳夫さんが担当。「横尾さんのことをより理解できる『辞書』を作ったらおもしろいんじゃないかということで、従来の展示とは逆の順序で、まず『辞書』(「大横尾辞苑」展解説本)を作りました」と話す。


ひらがな45文字(「ん」は思いつかず、ない)、アルファベット26文字から作品139点を展示。作品名の頭文字をとったものは少なく、作品が生まれるまでのストーリーをもとに文字が選ばれており、その言葉が選ばれた理由が、とことん詳細に解説されている。現代美術作品は難しい…というような人も、作品の制作の背景など詳細解説を読みながら見ると、作品の意味やおもしろさがよくわかるだろう。


◆ 細野晴臣氏とのインド旅行、カルロス・サンタナと意気投合…華麗な交友歴も
解説は、通常の作品解説と比べ長文。たとえば、「こ」には、1978年にリリースされた細野晴臣氏のアルバム『コチンの月』のジャケットと原画が展示されているが、「キングレコードが、横尾がインドで採取した音を素材とした音楽アルバムの企画を立ち上げる。しかし自身が音楽家でないこともあり、横尾は詳しい事情を伝えないまま細野をインド旅行に誘い、うやむやのうちに制作を押し付けてしまう」などと具体的な作品誕生の背景が書かれている。

さらにこのアルバム制作メンバーに高橋幸宏氏が加わり、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が結成されたことも。作品の下に設置したスピーカーからは、現地の音や会話と電子的な音楽が融合した同アルバム全編が流れ続けるといった具合。

ほかにも3枚のレコードジャケットのアートワークが展示されており、それぞれのレコードの音が鳴る「マルチメディア辞書」のような味付けもされている。なかには、ラテン・ロック・バンド「サンタナ」のライブを収録した約2時間半の演奏が流れる『ロータスの伝説』の「ろ」。

読経や鐘の音が響く『禅 瞑想』の「Z」がある。「Z」の展示がある部屋には瞑想用のスツールが置かれているので、美術館で流れることはまずない寺院で収録された音の中で瞑想する、という貴重な体験をしてみては。
◆ 学芸員山本さんが「最高の珍品」と太鼓判!初公開『UFO』とは…?
また「初公開はいくつかあるんですけども、最高の珍品は、『UFO』です。1973年に発表されて以来、一回も日の目を見ていないし、作品集にも一切出てこない。直接的すぎて、ひょっとしたら横尾さんは封印したかったものなのかもしれない」と、山本さんがいう貴重な作品もぜひチェックを。

横尾氏は開幕に際し「ここまで事細かく内面外面を暴かれると、実は困るのです。秘密がなくなってしまうではないですか。作家は秘密の収集家みたいなところがあって、いかに多くの秘密を有するかが、その作家を神秘化し、謎の存在になるのです。(略)営業妨害されたような気分です」とメッセージを寄せた。
ただし、「解明したつもりになっていますが、残念ながら、隠蔽された世界=霊性の世界があることには気づいていないようです」と余裕を見せ、展示を見ながら奥へ奥へと迷い込むことを横尾氏はすすめている。

作品の世界をもっと深く知りたい人は、展示解説に収まりきらなかった内容を詳しく書いた解説本「大横尾辞苑」(1700円)を購入すれば、さらにどっぷりと「横尾ワールド」に浸れる。

例えば、先ほど紹介した『コチンの月』のページには、インド旅行期間中に激しい下痢に見舞われた際の2人の会話、YMOビジュアル担当のメンバーに招かれた横尾氏のテクノカットエピソードなど、さらに詳細も記載されている。ただし、じっくり読みながら鑑賞すると相当な時間がかかると思われるので、時間に余裕を持って出かけよう。

「横尾忠則現代美術館」の『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』の開催は、5月6日まで。開館時間は10時から18時(入場は17時30分)まで。月曜休館(2月23日、5月4日は開館)。料金は、一般800円ほか。3月21日には、本展の関連イベントとして、吉田省念エントランスコンサート『爆発的凝縮 』も開催。詳細は公式サイトで確認を。
取材・文・写真/太田浩子
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