森山未來「『大人』というものの必要性がよくわからない」
「失ってしまったもの、今獲得しているもの、どちらに目を向けるか」
──作品の話になりますが、タイトル『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、チャイルディッシュという意味でなく、ずっと世のなかを新しく見れる自分でいたいっていうような意思の表れでもある。そうした意味でタイトルに反語的なものを感じるんですよ。
そうですね。見る人によって、このタイトルだけでも反応が違うんじゃないかな。「大人」というものの必要性がよくわからないんですね。(かおり役の)伊藤沙莉ちゃんと一緒にインタビューを受けたとき「(作中で)90年代を生きてみてどうでしたか?」という質問があって、1994年生まれの彼女は「バブルの終わりの歪なエネルギーに溢れた世代を見たときに、羨ましいと思った」と言っていました。
「今は制約があるし、あれだけエネルギッシュに表に向けて表現するのは難しい。私は物心ついたときからSNSみたいなものの原型はすでにあって、そういう意味ではコミュニケーションがすごく流動的に出来る時代に生きてきてる。でも逆に言うと監視社会というか、お互いに常に見られている状態だから、物事を発信するにしても細心の注意を払わなければいけないというのがベースになってしまってる」とも。これが27歳の彼女が感じたことなんですよね。
──うんうん、よくわかります。
50〜60歳くらいの世代の方なら「ならない」とか「なろうとしなかった」とかになるけど、(伊藤沙莉世代の)彼らは大人にならざるを得ない状態で生きてるわけですよね。だから、そういう人たちがこの映画を観ると「なりたくなかった」になるんでしょうかね。だから、最後に「ボクたちはみんな大人に・・・」という問いかけで終わるというのも嫌いじゃないなと森監督ともしゃべってて。
──森さんもそうなんじゃないかな。映画を観るとそういう感じがする。
僕も森さんも大人になるって「なるんならなるでええやん」って。なったらなったでいいし、なんかそれをネガティブに捉えようという姿勢で生きなくてもいいくらいの感じなんですよね。
──実際に主人公もなりかけてますしね。
そう、だからそれを受容すればいいだけの話。失ってしまったものに目を向けるのか、今獲得しているものに目を向けるのかということで。まあ、このタイトルに対する反発みたいなものはあるかもしれないです。
──主人公には、かおり(伊藤沙莉)、スー(SUMIRE)、恵(大島優子)という3人の女性が現れます。女性遍歴がこの映画の面白さですよね。
はい、ちなみに撮影は脚本通り順番に進みました。
──あ、そうなんですか! つまり現在から逆行して90年代へと。
(イントロダクションでもある)2020年の七瀬(篠原篤)との芝居だけは最後に撮ったんですけど、それ以外の2015年から1995年の間はずっと時代を遡って撮って。ということは、最初の撮影は大島優子さん絡みなんですよ。現場的にはクランクインから間もない状態だからまだ模索していて、それなのにいきなり「さよなら」から始まるみたいな(笑)。しかも大島さんは1日か2日しか一緒じゃなかった。でも素敵な女優さんなので、そこは安心感を持ってやらせてもらえました。
──でも逆行して撮るって、なかなか演者さんとしては感情の持っていきかたが難しいですね。
かおりとスーのシーンは出会って別れるまでをその時系列で撮ったんです。出会って別れてを繰り返すうちに、なんだかずっと別れつづけているような感覚がして。最後の現代のシーンで七瀬と別れた後、ほんとにひとりぼっちになったって感じがしましたね。
──でもそれぞれの女優さんの個性がうまく役柄とシンクロしてますね。
SUMIREちゃんは演技経験はそんなにないらしいんだけど、現場に対して物怖じするタイプでもないから、彼女の素のままでまんまスーになったというか。実際に彼女は普段「スー」と呼ばれているらしくて、その辺で彼女も馴染みがよかったのか、ナチュラルなままスーとして存在していた。
次にかおりとのシーンを撮るわけですが、すべての元凶はこの子なんだみたいな、ラスボスが最後に現るみたいな、そこに対する期待と不安と緊張感のようなものが、結果沙莉ちゃんに向かってしまって。でもWAVE(80〜90年代話題となったレコードショップ)の袋を持って待ち合わせて、喫茶店でのぎこちない会話から始まり、そこから少しずつほぐれていったみたいなところはあります。
──それでもしっかりラブホに通って。
かおりって自分から発言していくタイプで、そういうちょっとアグレッシブな女の子感って、時代性もあったんじゃないかな、と森さんや沙莉ちゃんとも話して。渋谷系とかサブカル系とかを関東の田舎あたりで雑誌とかで読んだり聴いたり見て育った人たちの過剰なアクトみたいな、そういう風な感覚もあるよねって。かおりは積極的に男性にガンガン行くようなキャラに見えてそうでもないという、そういうアプローチが沙莉ちゃんに合ってたんだろうなぁ。
──実にいろいろ分析して臨んでいるってのがわかります。
あくまでKEITA MARUYAMA(デザイナー・丸山敬太によるファッションブランド)に拘って、でも金はないから自作ですみたいな。その辺の意識の過剰さというのが田舎っぽいっていうか(笑)。
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
2021年11月5日(金)劇場&Netflix同時公開
監督:森義仁
出演:森山未來、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE、ほか
配給:ビターズ・エンド
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