渡辺いっけい映画初主演「天狗になる暇がない」

2020.7.16 19:15

これまではバイプレイヤーとして、「自分でリミッターを調節しながらやっていたふしがあります」と渡辺いっけい

(写真8枚)

「いのうえさんに出会っていなければ役者になれていない」

──時代的なところもあると思いますが、かなりスパルタだったんですね。

僕が住んでいた下宿にわざわざスタッフが車で迎えに来てくれていたんですけど、その理由が「いのうえさんが厳しすぎるから、いっけいが逃げるんじゃないかと心配だった。そうなると公演中止になるから、友情のためでも何でもなく劇団のために送り迎えをしていた」と言っていました。

──それは、なかなかですね。

ただ公演になると、お客さんがドカンドカンと湧いて、最終的にはすすり泣きも聞こえてきて。お客さんが面白いと感じる演出力が、いのうえさんの舞台には間違いなくある。いのうえさんに出会っていなければ役者になれていない。あの人は信じられる人。

──当時からいのうえさんはカリスマ性があった、と。

そうなんです。そういえば当時、稽古場でマイケル・ジャクソンがいろんな雑誌に載っていて、みんなで読んでいたら、いのうえさんが急に元気をなくしたことがあって。

「どうしたんですか?」と尋ねたら、「マイケルは俺と同い年だ」ってめちゃくちゃ落ち込みはじめた。「マイケルは世界を股にかけて活躍しているのに、俺は何をやっているんだ」と話すんです。僕はそのときちょっと笑っちゃったんですよ、「え? 何を言っているんですか」って。

──確かにそういう反応になってしまうことは分かります。

そういうことが多々あったんです。『スター・ボーズ』(1983年)という舞台のとき、打ち上げで「今日の公演、ウケましたね」とみんなで盛り上がっていたんですけど、いのうえさんだけまたちょっと落ち込んでいたんです。

「俺はこの公演で奇跡が起きると思っていたんだ。芝居の途中で観客が立ち上がって、コンサートのようにワーッと熱狂したり、一緒に踊り出したりするような舞台になるんじゃないかなって。でも奇跡は起きなかった」と言い出して。

──渡辺さんはその言葉を聞いてどんな反応を?

正直「演劇でそんなことができるわけない」と思ったし、一方で「本気でこの人は演劇に夢を見ているんだな。すごい!」と感じました。それに現在の劇団☆新感線を見ていたら、いのうえさんが当時言っていた理想にちゃんと近づいているんですよね。

インタビュー中は終始朗らかだった渡辺いっけい。映画での役は、人の闇を感じる「目」に
インタビュー中は終始朗らかだった渡辺いっけい。映画での役は、人の闇を感じる「目」に

──劇団☆新感線の舞台はまさにそういう熱狂が渦巻いていますよね。

大阪芸大のふたつ上の先輩に、いのうえひでのりという努力を忘れない天才がいて、いまだに演劇の第一線でやっている。そして3つ下で大学に入れ替わるよう入ってきたのが、古田新太。古田は古田で天才。すごい時代だったんです。

今では、「いっけいさんはすごいですね」と持ち上げてくださる方がたまにいらっしゃいますが、全然持ち上がらないんですよね。だって、いのうえひでのりや古田新太みたいなすごいやつらが周りにいるんで。

──なるほど。

「俺よりも古田の方がおもしろいことをやっているでしょ」って、どこかで思ったりしている。ただ、それは役者として良いことなんですよ。彼らがいるから、僕はいつまでも天狗になる暇がない。恵まれた環境でお仕事をやらせていただいています。これからも、そういうなかで役者をやっていきたい。

『いつくしみふかき』

監督:大山晃一郎
出演:渡辺いっけい、遠山雄、金田明夫、ほか
配給・宣伝:渋谷プロダクション

上映映画館:イオンシネマりんくう泉南(7/17〜)、テアトル梅田(7/24〜)、神戸アートビレッジセンター(8/8〜8/21・火休)、京都みなみ会館(8/21〜)

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