白石和彌「田中裕子さんと仕事、それを望まない作家はいない」

2019.11.9 10:00
(写真3枚)

「いい意味で『やばいキャスティング』になった」(白石監督)

──僕らの世代で、映画やドラマを観てきた者にとって、田中裕子って怪物的な演技者ですものね。

いやあ、ほんとにモンスターですよ。ただ、劇中のこの母親もいわば「愛のモンスター」的な存在でもあるので、そこもまあリンクしていたというか(笑)。

──監督から見て、田中裕子さんというのはどんな女優ですか?

とても丁寧に、頭から最後までプランを考えられていて、それでいて誰かと芝居してみると、そのプランを平気で壊せるし。あとやっぱり緊張感がありますよね、裕子さんの周りには。そのいい意味での緊張感が、映画の格というか品を上げてくれている感じはすごくあります。

名女優として映画作家から出演を熱望される田中裕子

──今回、子ども役の3人は、みんな必死で喰らいついていっていると言うか、いい芝居をされてますね。

裕子さんとがっぷり四つに組んで、きちんと相撲になっているでしょう。横綱に向かって全力で芝居してくれてます。またそれが3人だけじゃなくて、少し脇にいる佐々木蔵之介さんや筒井真理子さんも勝負してくれている。いや実は、裕子さんが決まって、兄妹があの3人に決まって、これはもうホントにいい意味で「やばいキャスティング」になったと思いましたもん。こうなったら、隅から隅まで巧い人を集めようと思って。

──浅利陽介、韓英恵、あと白石映画常連の音尾琢真さんもいいですね。最近は彼が出ると、今回はいい人か悪い人かって考えるのが楽しいです(笑)。筒井さんなんて、贅沢というか、この役に筒井真理子はもったいないくらいの感じでした。

僕もそう思います(笑)。ただ、あのポジションに筒井さんがいてくれる安心感たるや、ホントにありがたかったです。

──ただ、そんな個性派ばかりの脇役で、いちばん驚いたのはMEGUMIさんでした。

そうなんです。MEGUMIさん、巧いんですよ。それに気づいたのは『孤狼の血』(2018年)のときでした。あのときは色っぽい役として出てもらったんですが、初日に役所(広司)さんとの絡みを撮ったとき、「あれっ!? MEGUMIさんて、こんなに芝居巧いんだ!」ってビックリしたんですよ。それで今回も出てもらいました。彼女の実力に気づいている人、まだ少ないと思いますけど。

──今年公開された草彅剛さん主演の『台風家族』でも素晴らしい演技でしたし、多くの人が認めることになると思います。今回、主役の佐藤健さんにはどんな印象を持たれましたか?

スターになる人ってこういう人なんだなって思いましたね。『るろうに剣心』のイメージが強いと思いますが、心に闇を抱えているような役も結構やっていて。それでいて今回は、やさぐれているようで実はいちばん純粋、純粋であるがゆえに苦しんでいる青年を的確に作ってくれました。

映画『ひとよ』のワンシーン

──長男役の鈴木亮平さんは?

キャラクターづくりに力があって、それって器用じゃないとできないことなんだけど、現場では、逆にいい意味で不器用さを出せる魅力があるんです。彼はここ2年間、時代劇をやっていて襖と障子ばかり開けていたから、撮影中はドアを開けるとき手と足が一緒に出ちゃうみたいなことを言うんですよ(笑)。その感じが長男役に合ってました。

──そして、末っ子には松岡茉優さんです。

彼女には普通の俳優にはない、空間というか隙間を埋める能力があって、彼女が妹でいることで、あの3人は兄妹として存在している。そう納得させる力の持ち主ですね。彼女本人はお酒を飲まないんだけど、今回のようにスナック勤めの女性を演じてもピッタリで、なんの違和感も感じさせないですよね。

──最後に。白石監督が今撮ってみたい題材とかありますか?

誤解を恐れずに言うと「テロ」ですね。暴力が撮りたいわけではないですよ。テロリズムとはなにかということ。あとそれにも近いですが、民衆には政治を動かす力があるということを今描いておかないと、という気持ちはあります。そうじゃないと、ホントにその力が必要なときにやばいことになる。その危機感はあります。

映画『ひとよ』

2019年11月8日8日(金)公開
監督:白石和彌
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子
配給:日活

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