2016上半期、ホントに面白かった邦画は?

2016.7.8 17:00

テラフォーマーを演じたのは、実は… © 貴家悠・橘賢一/集英社 © 2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会

(写真5枚)

「今年の日本映画の特徴は、殺伐」

春岡「俺はまだ『太陽』は観れてないんだけど、ここで挙げないといけないのは、やっぱり『ディストラクション・ベイビーズ』。ここ数年で一番スカっとした」

田辺「あれはもう、暴力映画では歴代トップですね」

春岡「柳楽優弥演じる主人公・芦原泰良が理由もなく人を殴りまくってさ。その気持ちなんて、全然分からないんだけど、ただ、俺たちが撮りたかったのはこういう映画なんだというのは、すごい伝わってくるんだよ。ついに真利子(哲也監督)がやってくれたなと」

『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督(左)と主演の柳楽優弥(写真/渡邉一生)
『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督(左)と主演の柳楽優弥(写真/渡邉一生)

──柳楽優弥自身も(泰良が)なぜそんな行動をとるのか、分からないまま演じていたとインタビューで言ってましたね。監督に訊いても「楽しければイイけん」しか言わなかったと(※真利子監督&柳楽優弥インタビュー)。

春岡「あれ分かる奴なんていねえよ。で、柳楽優弥に憧れて、菅田将暉演じる高校生が暴力に走るという。こういう奴いるんだよ」

田辺「あの菅田将暉が言い放った『一度女を思いっきり殴ってみたかった』って、すごい台詞ですよね。あんなん脚本で思いついたら、たぶん震えますよ」

斉藤「でも、構造的には『イエローキッド』(2009年・真利子監督の東京芸術大学大学院修了作品)の延長線上にはあると思うんだけどさ。本人はそんなに意識してなかって言ってたけど」

春岡「いや。本人は意識してなくても、やっぱり『イエローキッド』がベースにあると思うよ」

斉藤「(法政大学在学中に撮った自主制作映画の)『極東のマンション』という8ミリ映画を観て唖然としたときのことが忘れられない。自分の本当の家族まで巻き込んで、モラトリアムな個人映画のフェイクを完璧に作った、ほんまどうかしてる映画で完全に騙された(笑)」

田辺「だって、『NINIFUNI』(2011年)もヤバかったですからね。人が車のなかで練炭自殺を図っていて、その窓の向こうではももクロ(早見あかり脱退前のももいろクローバー時代)が元気いっぱい踊っている。そんなシーン、撮れないっすよ」

斉藤「そうよ。ももクロ引っ張り出しといてあんなん許されへんよな、普通」

春岡「今年の邦画でさ、さっきの『太陽』も『ディストラクション・ベイビーズ』にしてもそうなんだけど、わりと上の世代、60歳以上がみんなダメみたいなんだよ。で、それ以下の連中は大好きっていう映画が多いんだよな」

斉藤「いわゆる殺伐系の映画ですよね」

春岡「今年の日本映画の特徴といえば『殺伐』だよな、ホントに。俺もこの前、学校の授業でそれ言ったんだけど」

斉藤「吉田恵輔監督の『ヒメアノ〜ル』もそうで。監督も言ってた、『壁ドン』ばっかりじゃアカンって(笑)」

田辺「吉田監督も真利子監督も、壁をドンと殴りにいくタイプですからね(笑)」

──吉田監督もそのようなこと言ってましたね(※吉田恵輔監督インタビュー)。

春岡「殺伐がいいか悪いかの問題じゃなくて、なぜか今年の日本映画は殺伐とした空気で撮られた映画で、スゴく面白い作品が多いってことなんだよね」

斉藤「『ヒメアノ〜ル』って、(原作者の)古谷さんは古谷さんで全然違う方向にいっちゃってるやんか。映画はもっとストレートだけど、犯人像はちょっと複雑になっている。快楽殺人じゃなくなってるっていうね。原作はイジメが原因なんだと断定してる気もするけれど、そこはさすがに吉田さんは、イジメだけじゃないんだと匂わせて演出している」

春岡「なにはともあれ、森田剛の狂気を超えた演技よ」

田辺「森田剛、良いんですよね。もちろん、舞台の演技からそんなことはみんな知ってるんですけど」

斉藤「で、僕的に忘れちゃならないのが『アイアムアヒーロ−』。初めて日本映画がゾンビ映画史に残る映画を作りだしちまったと」

春岡「あれ、俺らだけがすごく面白がってて、上の世代はダメなんだって」

斉藤「そうなの?私はもう興奮を禁じれなかった!」

春岡「俺がまだ観る前にさ、『いやー、あれは観なくていいよ』とか『つまんないよ』とか言っててさ。とりあえずと思って観たら、これは観なきゃダメでしょと。ゾンビ映画としては、日本映画初の成功作だよ」

田辺「見事でしたよね。僕が小学生のときにテレビで観た、あのゾンビでしたから」

斉藤「まさに御大ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978年)やんか、ショッピングモール型ゾンビ。血しぶきの特殊効果にしてもCGで華麗に飛ぶ(特殊メイクアップアーティストの)西村喜廣風のやつじゃなくて、まさに物質的な血糊。臓物ドロドロ描写も今どき臆さずやってるし」

春岡「ショッピングモールの逃げるシーンとか、往年のゾンビ映画へのオマージュだと思うけど、やっぱこうじゃなきゃ。今までのゾンビ映画は真似で終わっていたけど、『アイアムアヒーロ−』はホントに逃げるゾンビ映画になってた」

斉藤「すべてが終わったあとの世界はブルースである、みたいなさ(笑)。音楽も含めてすごく分かってるなって。佐藤信介監督は、好きなことをやらせるとホントに上手い!」

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