恒例の評論家鼎談、邦画・勝手にベスト3

映画『カメラを止めるな!』© ENBUゼミナール
「佐藤泰志でヌーヴェルヴァーグ、本当に上手い」(春岡)
田辺「あと、僕が推したいのは、三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』。日本であんなに上手くクラブを撮った人は初めてですよね」
斉藤「あの中盤のクラブのシーンは最高やんな!あの幸福感というか、あの刹那的な・・・」
田辺「ね!これは、僕もいろんな人と喋ってるけど、やっぱりちゃんとクラブを体験している人が、映画のスキルをもってちゃんと撮ってる」
斉藤「そりゃあ、三宅監督はヒップホップのOMSB(オムスビ)とBimと組んで、ドキュメント映画を撮ってたしね(映画『ザ・コクピット』)。僕、三宅監督と話したけど、あれ、音はライブでつけるらしいよ」
田辺「ああ、なるほど。やっぱり感覚がいいですね。そのクラブのシーンもそうやけど、あの夜遊びの感じも良くて」
春岡「北海道のあの乾いた空気、乾いた青春なんだよなあ。ちょっとヌーヴェルヴァーグ(1950年後半の、フランス発のムーブメント)みたいだった。夜明けの函館の町をあのタッチで撮ったら、そりゃ格好良い。あの映画はもっともっと評価されていいよ」

田辺「柄本佑、染谷将太、石橋静河の3人が街中を普通に歩いてるシーンですら、素晴らしかった。あと、久しぶりに『染谷将太を見た!』って思いましたね」
春岡「染谷は、ああいう役(失業中の静雄)やったほうがいいよ。ああいう役は難しいから、できる役者が少ない」
田辺「そうですね。あと、石橋静河演じる佐知子も、ちゃんと女の人のダメなところを描いていて、僕はすごく好き」
斉藤「ダメっつうか、3人ともダメなんだけど、若松プロ世代のダメさとは決定的に違う」
田辺「ですね(笑)、なんか若松プロのダメさは、目標があってダメですよね」
春岡「60年代の若者なんだよなあ。2000年代の若者なんて、あの世代から見たら軟弱だもの」
斉藤「いや、軟弱でさえない。目的がない自分についてジレンマすら抱かない。これほど強いものはないわけで、ラストの二者選択の無意味さが効いてくる。だから、あのクラブのシーンがすごい良いのよ」
田辺「三宅監督は映画めっちゃ好きやし、それこそ自主映画も昔の映画もすごい観てますからね」
春岡「それはもう、映画を観たら分かるよな。自分たちでやるヌーヴェルヴァーグ的タッチはこれです、みたいなさ。あの佐藤泰志の原作を使って、ヌーヴェルヴァーグをやっちゃうってさ。本当に上手い」
田辺「見た目はそこらへんの兄ちゃんっぽいですけど、知的ですよね」
斉藤「彼のスタイルはけっこう先鋭的だけど、ちゃんと評価されないとね。濱口竜介監督の『寝ても覚めても』とかさ。演技賞とかすべて獲ってもいいと思うくらいの出来でしょ。無駄に長くないし(笑)」
田辺「やっぱり濱口さんにしかできない演出ですよね」
斉藤「東出昌大って、やっぱり面白いよね。大根とか言われてるらしいけど、全然そうじゃない。『菊とギロチン』の中濱鐵役、『パンク侍、斬られて候』の黒和直仁役といい、2018年は良かった」
春岡「ヘタなんだよね、でも、それでいいんだよね。上手い・ヘタの問題じゃないじゃん、役者の良さって」
斉藤「そう。すごく映画的なんだよ。昔の松竹映画のスターって、軒並みヘタやったやん。佐田啓二(往年のスターで、中井貴一の父)とかでくの坊やんか」
春岡「佐分利信(松竹三羽烏のひとり)とかもそうじゃんか。だけど、スターというのは、あれでいいんだよ。『寝ても覚めても』なんか、濱口監督の演出で東出くんがやると、相手役も映えるという」
斉藤「そう、また相手役の唐田えりかがいいわけよ。あそこに彼女をぶつけてきたのは、やっぱりすごいキャスティングよね」
春岡「あの子もヘタだけど、全然いいじゃん。下手と下手とでやった方がいいんだよ。映画的に面白く、スパークしてるわけだから。あれは濱口監督の上手さだよな、結局」
斉藤「あの5時間超の映画『ハッピーアワー』にも素人ばっかり出してたし」
春岡「結局、100%濱口竜介の映画なんだよ。映画監督ってのはそうあるべきだし。で、その監督と出会って、ヘタだろうが上手かろうが、その映画のなかに生きられる役者たちであれば、もうOKなんだよ」

斉藤「そう。そしてそこに、もうバカ上手い伊藤沙莉をぶっこむわけで。そりゃもう歯車狂うわけで」
春岡「あの子はホントに上手い」
田辺「ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』では、あの怪物女優・松岡茉優とガッツリでしたからね」
斉藤「それで底知れない感じが刻み付けられちゃったんだけど、やっと世間的にも分かってもらえたんじゃないかと。とにかく伊藤沙莉はコメディエンヌとしてスゴい!」
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