よう知らんけど日記

第97回 冬の軽井沢、おすすめです。

2016.3.25 13:09

1月☆日
『さよなら、人類』@下高井戸シネマ。
なんか妙に気になって、どんな映画かあんまりわからんままに見に行った。やー、映像も話も今までまったく見たことない感じでおもろい。エドワード・ホッパーの絵の空虚かつ陰鬱なような絵画的に完璧に作り込まれた色調と画面。死をめぐる3つのめっちゃブラックなショートストーリーで始まる短い挿話の数々はユーモラスやけど悪夢でもあるし、人類ってなんなんやろ、て考えてしまう。それにしても、これ、めちゃくちゃお金かかってるよね。喫茶店の前の兵士と馬の行進なんか、何百人使ってるの? 超大作って、けっして派手なアクションや車や建物爆破したり宇宙に行ったりするだけとちゃうよな、こういうお金と労力のつぎ込み方もあるよな、こんな映画作れるってすばらしいな、と感動してばっかりの時間でした。

1月☆日
引き続き下高井戸シネマで『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』。元々経済学者だったサルガドの若い日々から、写真を始めて世界各地の労働現場、そして難民や紛争地を撮影する写真家になったサルガドのドキュメンタリー。妙にエコな題名ついてるけど(最後まで見るとこのタイトルなんもわかるねんけど)、サルガドの写真は厳しく冷徹なまでに人間の営みを写し出す。ルワンダの内戦の撮影に行き、その後何万人という難民がコンゴの森の中で行方不明になった(つまり虐殺されたと思われるけどなにもわからない)周辺を撮影したあと、あまりの精神的疲労で一時写真が撮れなくなり、故郷ブラジルの父親がやってた農園に帰ってた。サルガドの写真展は何回も見に行ってたけど、難民や紛争地の写真を撮れなくなっていたことは知らなかった。それもショックやったけど、何より驚いたのは、荒れ果てていた父親の農園に何百万本も植林してすっかり森の風景になっていたことで、凄惨な光景を見続けた後だけに、ほんまにこんなことが起こるんや、人間にはこんなこともできるんや、と胸が熱くなった。そのあとに続く極地で生きる人間や動物の姿もよかった。

それにしても、『わたしがいなかった街で』にも少し書いたフジテレビの特派員・故入江敏彦さんも、あれだけ各地の紛争地を取材してきたのにルワンダでは今までとは比べものにならないほどの衝撃を受けて、地獄だと書き残してはって、その後ルポやドキュメンタリーや映画もたくさん出たけど、それをいくら見たり読んだりしても想像できへんような凄惨な怖ろしいことがあったのやな。

1月☆日
ところで、書こう書こうと思いつつ、日記形式には当てはまらんかったで書けずにいたことをまとめて。使ってよかったスマホのアプリです。そんなんとっくに知ってるわい、と思われる方もいらっしゃると思いますが、こういうのってほんま知ってる人はよう知ってるけど知らない人や分野はまったくわからんてとこがあるので、おつきあいください、というか詳しいみなさまは教えてください。
まず、「Shazam」。これ作った人天才! これ作った人ありがとう! といちばんありがたい、かかってる音楽がなにかわかるアプリ。お店なんかのがやがやしたとこで背後にかかってる曲でも数秒聞かせるだけで誰の何かわかって、アーティスト情報なんかもわかる。昔から気になってたこの曲なんやろ? も時を経て解決! すばらしい!

「Leafsnap」。これもなにかわかる系アプリで、葉っぱの写真を撮ると種類がわかる。英語なので日本で見られる植物がぴったりこないかもなんやけど、だいたいの種類がわかれば図鑑で調べやすくなるし、英語の勉強にもなる。
「頭痛ーる」。気圧の変化を1週間後まで予測してグラフ化してるアプリ。偏頭痛だけでなく、低気圧がくると体調が悪い、関節が痛いなどなどのみなさまにも役立つはず。頭痛いときも「気圧のせいか、偏頭痛やな」と判定できるし、明日調子悪そうやから今日のうちに仕事やっとことか思えるし。猫の体調管理にも。
「radiko」「らじる らじる」。ラジオがネットで聞ける。建物が建て込んでるとこや部屋の位置でラジオの電波が悪いのが解消(東京に来て住んだ4件、AM・FM両方きれいに入った部屋はなかった)。「radiko」はお金払えば他の地域の放送局も聞ける。東京にいても802やKBS京都が聞ける。今はだいたいスマホ+Bluetoothスピーカーで聞いてます。ときどき調整でとぎれるのが難点。
「東京時層地図」。これは1,900円とアプリでは高額なのですが、値段分の価値十分。明治期から現在までの6つの時代の地図、戦後から現在までの7つの時期の空中写真、段彩陰影(高低差を色のグラデーションで立体的に表した図)、などがGPS連動で見られる! 資料としても超便利やし、散歩も楽しい。「横浜時層地図」もあり。早く大阪と京都も作ってほしい。

1月☆日
ほんで、電化製品関係は、この10年くらい進化のスピードがものすごいので、買い換えたり新しい機械を買ったりすると、めちゃめちゃ便利やん! もっと早よ使とけばよかった! と思うことがようある。これもスマホアプリに続いて、そんなんとっくに・・・と言われそうなあれやけど、この数年で買ってよかったのは、先述のBluetoothの防水スピーカー。手乗りサイズで、スマホとこれで風呂場でラジオがきれいに聞ける。

「Pomera」。前も書いたことあるけど、この「よう知らんけど日記」はPomeraで書いてて、前はキーボードが折り畳みのDM20て機種やったけど、今は2代目のDM100。キーボードが折りたたみじゃなくなって使いやすい、薄くて持ち運びも便利。BluetoothやUSBでデータが送信できて、スマホやタブレットのキーボードとしても使える。これとスマホで短い文章なら外出先で書いてやりとりできる(ノートパソコン持ち歩くのに比べたら断然軽い)。ネットにつながらんから集中できるしいいですよ。
あとは、電気圧力鍋かなあ。豚の角煮が、ほんまボタン押すだけで相当おいしくできる。ただ難点は、豚の角煮を毎日食べてしまいそうな、みるみる太りそうなことやなあ。どちらかというと、アナログ好みというか、昔からあるシンプルなものを使いたいタイプなのですが、今までにないデジタル大転換時代を体験して思うことは、使わず嫌いとか、新しいものをやみくもに忌避するのはもったいないなと。新しい技術は使ってみることで、どうやってそこで自分の好きな古いものやなじみのものを生かしていくかを考えることができると思うねんな。
と、思いつつ、そんなに詳しいわけではないので、諸事情により急いで買ったノートパソコンがその前に買った機種よりCPUがランク下のんで、遅い! 超絶いらちが発動してしまい、つらいです。もうちょっとよう調べてから買わなあかんね。

1月☆日
遠藤ミチロウさんが監督したドキュメンタリー『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』@K’s cinema。遠藤ミチロウさんの2011年のツアー風景を自ら監督して撮影した映画。ツアーを始めてすぐに、東日本大震災が起きて、福島出身のミチロウさんは今まで離れていた故郷を考えることになる。時間が経って薄れていた、2011年の世の中の感じをリアルによみがえらせてくれる映画でもありました。旅の先々で登場するミュージシャンやライブハウスや宿の人が魅力のある人ばかりで、その日その場所、そこで出会った人としか生まれないその日の音楽があるんやな、とツアーで全国を歌って回る暮らしを思う。猫と遊んだり実家でお母さんと話すところとか、とてもチャーミング。福島の球場でのライブの圧倒されるような鋭さと、一人で旅をする飄々とした姿と、このチャーミングさと、それから印象に残る言葉の一つ一つが、全部遠藤ミチロウという人なのやな、と思った。

実は、わたし、高校に入ったばかりの頃にスターリンを見に行って(「ザ・スターリン」時代じゃなくて、わりかしコミカルな曲をやっておられた頃ですね。『包丁とマンジュウ』とか)、ミチロウさんがホイッスルをお吹きになられてですね、音響外傷というのか一時的に騒音性難聴になって、一度なるとその後もなりやすく、何回も耳鼻科行って、ライブは耳栓必携なんですね。ま、そのあとも轟音系やらノイズ系やらのライブにしょっちゅう行ってたので、いずれ遠からずなったと思うんですが。スターリンのライブのとき、すぐ前にいたにいちゃんが耳栓しててですね、そんな人初めて見たので「なにこの人? ライブやのに耳栓してるっておかしいのでは!?」と無駄にびびっててんけど、今はようわかる。ギターの高い音でハウってるのとかダメですね。みなさんも、ライブで耳がおかしくなったら早めに耳鼻科に行きましょう。

2月☆日
軽井沢に行きました。「軽井沢」って、関西人には大きな謎の一つやん? 名前はよう聞くけど、どんなところがイメージがつかめない。関西って軽井沢に相当するような避暑地ないもんね。ほんで、旅行してなにか書くという、作家の仕事の中でも素敵な仕事をいただいて、元々自分では旅行できない性格なので冬の軽井沢なんか絶対行くことないやろな、と思ってお引き受けしました。そして着きました、真冬の軽井沢。避暑地やのに真冬。はい、めっちゃくちゃ寒いです。つららが1mぐらいある! こんなん、子供の頃にスキー場で見て以来やわ。
木の枝にも水滴が凍り付いてて、すごいきれい。寒いところでしか見られへんこんなにうつくしいものがいっぱいあるのやなあ。
メインストリートのお店も閉まってるところ多くてちょっと不思議な雰囲気で、もし機会があれば、冬の軽井沢、おすすめです。

2月☆日
伊勢佐木町に初めて行きました。横浜って、あんまりなじみのない関西人には、おしゃれ港町なイメージやと思うのですが、場所によってはめちゃ昭和、いかがわしさ満載のところが結構残ってる。伊勢佐木町もそういう街の一つ。横浜って神戸と比較されると思うのですが(東京・大阪の隣で港町で外国文化の入り口、坂道など)、神戸も昭和感満載のとこあるもんね。何年か前に行った横浜の黄金町は、神戸の新開地と、アートで町おこし感も含めてそっくりやったし。

 

伊勢佐木町、渋い昭和ビルがいっぱいで、写真撮りまくってしまいました。しかし、渋い喫茶店、渋い飲み屋大好きなんですが、煙草が吸い放題なんはちとつらい。最近煙草吸ってる人も煙草吸える場所もほんま減ったよなあ、などと思っていましたが、ちょっと都心から離れると、全然気にしてない。都心から離れると時代も離れる法則やね。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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