よう知らんけど日記

第88回 影響されていいやん、て思うね!

2015.10.23 12:34

7月☆日
暑い……。
正確に言うと、ものすごく暑そう、日差しがぎらぎらしすぎて外に出たら倒れそうなので、とにかく日がかげるまでは家におるようにしてる。こんなとき、家でやる仕事でよかったと思うんやけど、この日の長い時期に暗くなるまでというのは行動が限られる。一日中家にこもってる感じになって、それはそれで自分がだめ人間のように思えるというか、実際だめな感じそのままっていうか。日に当たらんと、脳内の物質がちゃんと出えへんっていうしね。

暑いときには、それ以外の気候のときを忘れる。こんなに暑いのに、冬になったらヒートテック着てダウン着てブーツ履いても寒い日なんてほんまに来るんやろか、と思う。来るねんけどね。

7月☆日
『恐怖分子』(エドワード・ヤン監督)。1986年の台湾の映画をリバイバル上映してたのやけど、なにこの見覚えのある景色は! こういう日本映画めっちゃ観てたやん! 風景もそっくりやし! ハーフの女優さんの白シャツ、デニム姿はまさにシャルロット・ゲンズブールで、ああ、オリーブにこんなモデルさんよう出てはりましたよ! 台湾って、文化的には日本と同時進行やったのやなあ、と驚きました。韓国の映画見始めたころ、国が違っても文化的なジャンルが近いと同じものを体験してるんやなってめっちゃ実感してんけど、80年代の台湾と日本の小規模映画の世界がここまで近いとは。
映画自体も、都市の憂鬱で不安な感覚がとらえられてて、2015年に観ても身につまされる、緊張感がよかったです。

7月☆日
女性の視点で描く戦争というテーマで、中上健次『鳳仙花』を中心に話しませんか、とイベントの話をいただいて、初めて読んでみました、中上健次。「読んだことないとは言いづらいのですが実はちょっと入り口がわからなくて読んでない作家」の一人でして、正直言いますと、男の世界で濃そう、というか、わたしのような軟弱者は入れなそうというか、要するに食わず嫌い状態だったわけですが、え、想像してた感じと違うやん。中上健次の小説は、本人とその周辺の複雑な人間関係をモデルに和歌山の新宮で展開されるサーガ、それぞれの話がつながって一つの大きな物語になってるんですが、『鳳仙花』は母をモデルにしたフサの少女時代から6人の子供を産み育てるまでの話。少女の目を通して描かれる熊野の自然の美しさやったり人間関係の愛憎やったりが繊細でいきいきしてて、かつ、だんだん大人になっていくフサの性的な奔放さもおもしろい。戦前~戦後が全体を通じてフサの視点で語られるので、「戦争」はよくわからんままに始まって終わるのがリアルやし、戦争が始まっていくころの世の中の不穏さ、実際の生活の苦しさも身に迫ってくる。読んでる間、これはぜひ尾野真千子で、ドラマか映画化熱望! と思ってました。
河出書房新社から刊行中の『日本文学全集』の『中上健次』巻は、『鳳仙花』が巻頭の上、壮大な人間関係相関図と各作品の年表もついてるので、初心者(わたし含む)にはおすすめです。

7月☆日
猛烈な雷雨。6月後半からいきなりマックスに暑くなったころ、早い時期からめっちゃ暑い年って、どんな感じやったかな、と思い出してた。たぶん2008年がそうで、この年は「ゲリラ豪雨」が流行語にもなったから、今年もすごい雨振るんかも、それから意外にお盆が過ぎたらしゅーんと勢いなくなったような。生きてる年数が増えてくると、冷夏といえば1993年やな、とか思い出すもんやね。
(そして、この2008年と似てそうという予想は、半分当たって半分外れた、かな)

8月☆日
大阪市立中央図書館で倉方俊輔さんと「大大阪 時空を旅する大阪建築の魅力」というテーマの講演会。たくさん来ていただいたお客さんは、反応がすぐ返ってきて、やっぱり大阪の人は話しやすくてええなあ。
久しぶりに行った中央図書館やけど、いやー、ほんまに立派なええ図書館やね。わたしは子供の頃から、この西長堀の中央図書館がいちばん身近な「行きつけの図書館」やったから、ここが「標準」になってしもててんけど、こんなに大規模な充実した図書館ていうのは全国でもそうそうない。東京に引っ越したらさぞすごい図書館があるやろ、と思ってたら、区立は分館方式でこぢんまりしてて、驚いたし困った覚えが。

大阪市立中央図書館、デザイン的にバブルやったりつっこみどころも多いねんけど、卒論書くときも資料はほとんどここで揃えたし、地下6階まであって、特大サイズの金庫みたいなすごい書庫にも入らせてもらったことあるし、こんな図書館がある自治体ってほんま恵まれてる。
図書館って、タダで本読めるとこみたいなイメージがあるかもしらんけど、街の歴史や貴重な資料を保管してたり、膨大な本から資料を探したり、教育の役割もある。講演の中で倉方さんが、図書館というのはあらゆる資料があってそれは時の権力者には都合が悪いこともあるから、よくない権力者は「焚書」に走って、出版や報道、図書館に圧力をかけようとするし、自由な図書館はそこの自治体の市民の力の象徴でもある、って話してたけど、まさにそう。だから大阪府立図書館は中之島で市役所、公会堂と並んでるんやね。

8月☆日 
ところで、東京・大阪の移動、初めて日帰りしてみた。年に10回以上は往復してるのやけど、実は日帰りはしたことなかってん。せっかく移動したし、せわしないし、しんどそう、と思ってたのやけど、日帰りと決めたらそれはそれで充実してるもんやね。昼前にヴォルフガング・ティルマンス展に行き、講演して、近くで打ち上げがてらお好み焼き食べて(久々に食べた大阪のお好み焼き、やっぱりおいしかった!)、新大阪で増殖中のおみやげ&イートインでさらに物色して。日帰りもありやな、と思ったけど、できれば大阪でゆっくりしたいです。

8月☆日
そうそう、国立国際美術館のティルマンス展。大学の写真部やったころから好きな写真家の一人で、97年の春に初めて東京に行ったときに横浜美術館で観た写真展での展示にすっかり影響されて、自分で撮った写真を拡大カラーコピーしてランダムに壁に貼るというベタなことをやっていたわけですが、いやー、やっぱりやりたくなるね! 特大サイズにプリントアウトしてランダムに壁に貼りたいね! 影響されていいやん、て思うね!

こんなかっこええことやりたい!っていうのが、なにかをつくるいちばんシンプルな動機やわ、わたしの場合。ティルマンスは、写真の題材も、表し方も様々なんやけど、この世で起こってるあらゆることが写真ていう四角い表面になって一つの場所に並べられてるあの感じが、めっちゃ好きなんよなあ。今回はそれに加えて映像のインスタレーションもあって、ブリーフのにいちゃんが足踏みしてるやつはようわからんかったけど、世界の建築物の似たようなところを並べてる写真が延々続くやつはおもしろかった。
それにしても、あ、暑い……。近年東京もめっちゃ暑くなったとはいえ、大阪・京都の灼熱感はやっぱりちゃう! 熱波がすごい! 国立国際美術館前は入口のガラスの反射と地面の照り返しが激しくて、気が遠くなりそうでした……。美術館の建物自体は9割地下で、埋めといて正解かもと思いました。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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