よう知らんけど日記

第71回 しばらくは思い出し版よう知らんけど日記です。

2014.9.19 18:17

9月☆日
……えー、しばらくお休みしてすみません。お休み、っていうか、この連載は実ははっきりした締め切りがなく、だいたい2、3週間に1回みたいな不定期の大変ありがたい条件にもかかわらず、あまりの生活の激変状態にずるずると日が過ぎてしまうという、社会人としてどうなんや! と、それはようよう身に染みつつ、小学生時代の夏休み終了間際の絵日記と同じく、思い出しながらまとめて書かせていただきます。
それで、7月17日に第151回芥川龍之介賞というのを受賞しまして、お祝いいただいた方、これを機に本を読んでいただいた方、ほんとうにありがとうございます。

(というわけで、しばらくは思い出し版よう知らんけど日記です)

5月☆日
暑い。(って、書きかけの日記がポメラに残ってるのですが、暑かったっけ? 5月の終わりぐらいやんな。あれから、暑くなり、梅雨になり、猛暑になり、お盆すぎてからは雨ばっかり、と。今回に限らず、忙しくなってきて外に出ることが激減し、日付とか曜日とかわからんようになってくると、ふと、あれ? これから暑くなるんやったっけ、寒くなるんやったっけ、と混乱することがあるけど、今年は夏がまるまる吹き飛んだ感じなので、余計に、このあとちゃんと順番に季節きたやんな、と自分に言い聞かせてる状態です…)

6月☆日
『江夏の21球』(BSプレミアム)。スポーツノンフィクションの名作、山際淳司『江夏の21球』を元に作られた1983年のテレビドキュメンタリー(の再放送)。Wikiってみたら、当時は生中継は放送するだけで残してなくて、試合の映像を探すのに苦労したそう。たまたま録画してた人のビデオテープと、ラジオ中継のアナウンサーが自分で録音してた音声を組み合わせて、やっと実現した番組らしい。
1979年11月、日本シリーズ広島対近鉄の7回戦。日本プロ野球史上に残る名場面、当時小学校2年のわたしは特に野球好きでもなかったので記憶はありません。でも、試合があったのは大阪球場。懐かしいなあと思うとともに、周囲が真っ暗なのを見て、あの辺もだいぶ変わったよなあ、としみじみしたり。
今はなきその球場での「21球」は、1球1球が こんなに時間を経て再々再放送ぐらいで見てても心臓に悪いぐらいの緊張感。
3勝3敗の7戦目、4ー3と広島が1点リードで迎えた7回裏から満を持して投入した江夏なのに9回裏にまさかのノーアウト満塁。こんな場面、フィクションでもそうそう作れません。番組では、1球ごとに解説はノムさんやし(おっちゃんやけどだいぶ若い)、対戦相手の佐々木恭介とか守備についてた高橋慶彦とか、インタビューも充実してるし、みんな若くて見入ってしまう(古い映画見ててもそうやけど、今は年を取った人の若い姿っていうだけでものすごく感動してしまう)。1塁に代走に出る近鉄の吹石って吹石一恵のお父さんやね。そして親友やった衣笠祥雄の一言で江夏が吹っ切れて絶体絶命の場面を切り抜ける展開は、ちょっとできすぎちゃうん? と思うほどのドラマティック。
しかし、その中心にいる江夏豊が、めっちゃおっちゃんに見える。調べてみたら当時31歳。えええー、こんな貫禄ありすぎの31歳のプロ野球選手、今いてへんよ。当時もいてへんか。だるっとしたおなかとか漂うけだるさとか、リリーフエースにはまったく見えへん。それでも、ながらくわたしにとって江夏のイメージはダブルのスーツでカラオケ歌ってる(レコード出してたよね)わけありのおじさん、っていうイメージやったので、この名勝負を見ることができてやっといい投手やったんやなとわかってよかったです。

6月☆日
雨~。(って、ここもポメラにこれだけ書いて残ってたけど、そら6月やし雨も降ったやろ、と自分につっこみを入れるしかないです……)

6月☆日
女性ファッション誌を見てて気になる言葉、いままでも「とろみシャツ」「こなれ感」など書いたけど、ちょいちょいひっかかるのが「シボ感」。使われてる場面を見ると、しわしわっとした感じやとは思うけど、あんまりおしゃれな響きでもないし。辞書を引いてみたら、「シボ」は革・布を加工するときの用語でやっぱり「しわしわっとした感じ」のようやけど、そんなに一般的な言葉とちゃうよねえ。
こういう単語ってよく勘違いしたまま使ってることとか、会話しててなんか噛み合わんということが起こりがち。ファッション用語は定期的に解説を載せてほしい。

6月☆日
(さて、読者のみなさまにも大変ご心配おかけしました結石。5月の連休明けに人生最大の激痛に見舞われてからのその後……)
ときどき脇腹やら腰やらが痛くなったりしつつも普段は痛みもなくほぼ平常で、石はずっと気にしてたけど見あたらず。気づかないうちに出てる人もおるって言うてたから、見逃したんかなー、と思っては、またちょっと痛いときもあって、出たんか出てないのんか、はっきりしてー! と思ってた6月上旬。とうとう、出ましたね。あの激痛の日からほぼ1カ月。これかー。
まじで「石」やん。硬い。勾玉みたいな形で、いちばん長いところで5、6ミリ。こんなんが体の中でできるとは、おそるべしやなあ、内蔵。そら激痛やわ。
痛い思いしたんで記念に取っときたいけど、原因を探るためにも病院で成分分析してもらわな。いちおう、写真は撮っときました。

6月☆日
『日本の美しい女』(文藝春秋7月臨時増刊号)を買う。昭和の名女優図鑑、という感じ。ここのところケーブルテレビで昔の映画ばっかり見てるし、表紙の夏目雅子にはじまり、岡田茉莉子きれいわあー、高峰秀子かわいいわあー、めずらしくミニスカの中村玉緒色っぽいわあー、とうっとりしたり驚いたりしながらページをめくっていったら、最後、広告が墓石!! 見開きです。その次は霊園!!! こちらも見開き。……そら、掲載されてる女優さんの半分は鬼籍に入られ、同世代やったら現実的にお墓どないしよかってところなんでしょうが、なんていうか、身も蓋もないというか……。他は広告ほとんどなくて、ほぼこれだけやし。もう、購買意欲をそそるようなもんがないのやろうなあ。普段読んでる雑誌ではまず見かけない広告なので新鮮でした。

6月☆日
4月に小説の仕上げのために出版社に1週間ほど通って会議室でいわゆる缶詰状態やったのですが、そのときに会議室に山積みになってた段ボール箱の本を大量にもらってきた。異動になった人が机を整理して置いていった本がそのまま溜まってたらしく、箱ごとにその人がなんの担当やったかだいたいわかっておもしろかった。病気・老後系とか、映画関係とか。校正待ちなどのあいだに箱を開けては物色し、気になる本を抜き出してんけど、その中に『淀川長治 究極の映画ベスト100』(河出文庫)があった。
『イントレランス』から『キッズ・リターン』まで、映画1本につき400字ぐらいに簡潔にまとめたものなんやけど(しゃべったのを再構成したのかな)、いやー、どれもこれもわかりやすい! おもしろい! 見る気になる! いたく感動しました。基本、誉め芸やし、映画に対する愛情いっぱいやから、とにかく観たくなるんよね。いいレビューや。読むだけで泣けるのも何本もあった。要所要所で「この映画はね、ホモセクシュアルの映画なんです」(淀川さんの声で再生してください)と独自解釈が炸裂(でも、今あらためて読むと納得の解説)のところもまた一興。『禁じられた遊び』で、パリの女の子は6歳でも男をあごで使う、なんてくだりも鋭くて感心してしまった。古典の名作、特にモノクロのって、観たいと思いつつ気合いがいるんやけど、この1冊でかなり観たくなり、ケーブルでチャップリン特集やらなんやら録画しまくってしまった。

 

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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