よう知らんけど日記

第112回 わたしは今の大阪のことはなんも知らんなー。

2019.1.7 17:09

7月☆日

梅田蔦屋書店で岸政彦さんとトークイベント。岸さんの『はじめての沖縄』(新曜社)刊行記念やのにほぼ、というか、100%大阪の話。おもに岸さんが大学進学で大阪に来た80年代後半ごろの、街で出会った人たちのこととか。わたしはその頃は中学~高校生かな。少し前に思い出した妹尾豊孝さんの『大阪環状線 海回り』(マリア書房)という写真集を持って行ってて、その写真を見ながら盛り上がる。1980年代後半~90年代前半ぐらいの、環状線の海側、大正区、港区、此花区、福島区あたりの風景。わたしは高校に入ったんが88年、卒業したんが92年でまさにこの写真の時代。路地裏やら川沿いの工場地帯やらやし、モノクロ写真ということもあって、写真だけ見せられたらバブル真っ盛りの頃やとは思われへんやろなあ。全裸で自転車乗ってる男の子おるし(!)、戦後? ぐらいに見えそうなのも。安治川の堤防で前髪の上のとこだけ結んでる超絶懐かしい髪型の女子高校生2人、制服やのに思いっきりタバコ持ってるし! わたしより2つ3つ上の先輩やけど、今頃どうしてはるやろなー。

梅田蔦屋は初めて行ったのですが、今まで行った蔦屋書店の中でいちばん本が充実してるというか密度高いように思いました。人文系のイベントも定期的に開催しているそうなので、大阪でもそういう場所増えてほしいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日

さらに岸さんと編集者さんと天満に飲みに行く。天神橋筋商店街の路地あたりは露店というか店先に簡易的な椅子とかを置いてるタイプの飲み屋が増えてて、今はこういう感じなんかあ、とすっかり観光客状態。岸さんのおすすめのええ感じの店をはしごして、わたしは今の大阪のことはなんも知らんなー、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日

錦糸町にある湖南料理の店で食事会。錦糸町(大阪の京橋っぽいです。グランシャトーありそう)は友達が住んでるので前はよく来たんやけど、数年ぶりに駅を降りると完全にスカイツリー推し。雑居ビルと電線のあいだにスカイツリーがそびえる風景は、合成感ありすぎてSFっぽい。お店の人もお客さんもほとんど中国人のお店で、料理はなに食べてもめちゃめちゃおいしい。ちょっと辛いけど。湖南省は毛沢東の出身地ということで、店内には毛沢東の若い頃の写真(これこそまさに合成?というか絵はがき的な作り物感)がようさん飾られてた。揚げまんじゅうやらとうもろこし餅やらまで食べに食べ、苦しいおなかで席を立ったら、隣のテーブルのおっちゃんが話しかけてきた。中国や韓国系のお店で、いっつも店で飲み食いしてるおっちゃんが常連かと思いきや店のオーナーってちょいちょいあるよね。前に『世界ふれあい街歩き』(NHK)でも、中国の田舎町の飲食店でおばちゃんたちは働いてておっちゃんたちは麻雀してるだけやった。あれってどういう文化で、どの辺の地域に広がってるんやろ。おっちゃんは威嚇みたいな役割なんやろか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日

大阪市立科学館へ。大阪市の博物館の広報誌にエッセイを書くため取材というか見学というか。普通に一観覧者として見に行ったんやけど、一人で行ったのは初めてかも。科学館の展示のところは秋から長期のリニューアル工事に入るそう。久しぶりに見た展示、ボールが転がっていくピタゴラスイッチ的なやつとかやっぱりわくわくするなあ。リニューアルしても残ってほしいな。プラネタリウムも楽しかった。大阪の夕暮れから始まって、終わりは夜明けで、一晩過ごした感じがするのが好き。隣の国立国際美術館は、映画『寝ても覚めても』の冒頭シーンに使われたところ。いわゆるベタな大阪名所じゃなくて、ここがロケ場所になったのはうれしい。万博公園時代から引き継いだミロの壁画もばっちり映ってるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日

『公園へ行かないか?火曜日に』(新潮社)発売。2016年にアイオワ大学のプログラムに参加していたときのことを書いた短編集です。短編集で、自分では小説と思って書いたのやけど、経験したことそのままやし、読む方はエッセイでも体験談でも紀行文でも、なんでも自由に読んでもらえたらうれしいです。英語・日本語・大阪弁、日本とアメリカの戦後、違う国の文化、アメリカで生活したからこそわかったことをようさん書いてます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月☆日

北海道の東川町へ。旭川空港のすぐ近く。「写真の町 東川町」で30年以上続いている東川写真賞の審査委員を、今年からしているのです。審査自体は2月に東京であって、8月のこの時期に東川町で表彰式やら展示やら、そして写真甲子園に一般参加の写真展やポートフォリオ審査などイベントが盛りだくさんで行われる。初めてなので右も左もわからず行ってみたら、町のお祭りと一体化してて、北海道のおいしい食べ物の屋台がずらーっと並んでるし、授賞式も地元の人が作った野菜や料理がいっぱいやし、夜は花火大会も。都会と違って近くで見れる花火は楽しかったし、東川町は移住者が増えてておしゃれカフェや洋服店なんかもできてたりして、夏に旅行するにはすごくいいとこでした。毎年8月最初の週末あたりにあるので、皆さん来年の夏の旅行にどうでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月☆日

泊まった旭川駅前のホテルの朝ごはんが豪華すぎて食べきれない。ホテルの朝ごはんビュッフェは元々好きなのですが、地元の野菜いっぱい、いくら山盛り、二日目は味噌ラーメンまであるじゃないですか! 来年は3泊にしようかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月☆日

9月にチベットに行くため、高山病の薬と予防接種のためにトラベルクリニックというところに行ってみた。旅行とか海外出張の人のための専門のこういうとこがあるのやなあ。基本的に性格がびびりなので高山病の体験記を読んでは不安になってるのやけど(こういうこと言うてるとまた周りの人がいろんな怖い話を教えてくれるのです)、とりあえず薬(血中の酸素量を増やすらしいです)をもらい、予防接種も「心配そうな病気でできるやつは全部しといてください」とチベット近辺でちょいちょいあるという肝炎と腸チフスのをしてもらう。子供の頃に喘息があってほとんど予防接種してへんのもあって不安なんやけど、出発の時期が迫ってできへんことが続いたので(2回打たないとあかんやつもあるし)、今回は早めに行動。高山病、なるかどうかは体質次第で鍛えたりしても効果ないらしいので、だいじょうぶかなあ……。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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