よう知らんけど日記

第111回 実はわたし出演しています。

2018.12.25 17:07

7月☆日 

映画『心と体と』。試写で観たのやけどすごいよかったので映画館でもう一回。ハンガリーというあまり観る機会の少ない国の映画やけど、日本の今の、会社とかで働いてて人間関係難しい女子にはめっちゃわかるとこがあるように思う。主人公はちょっと言動が杓子定規で人とのコミュニケーションが難しい女子。食肉工場で検査技師として働いてるのだけど、融通が利かなくて肉に不合格を出しまくるし同僚がお茶に誘っても行かない。その工場で重役の、こちらも人間関係に難がある中年男性と、なぜかまったく同じ、お互いが鹿になって森を駆け巡る夢を見てることがわかり、意識するようになるという話。鹿です、鹿。なんでかわからないけど、鹿。それも変やけど、この主人公の女子マーリアの行動もなかなかに突拍子。でも、見てるとかわいいんよね。口の端がくるっとなってる顔なのが絶妙に動物っぽいのもいいし。食肉処理の場面や後半ちょっと痛そうなシーンがあるので苦手な人は気をつけたほうがいいのですが、コミュニケーションの難しさとか「普通ってなんやろ」とかを日々 

感じてる人にはぜひ観てほしい映画です。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日 

暑い。というか、暑かったよね。 

暑いときは寒いときのことが想像つかなくて、寒いときはほんまに暑いときなんかあったんかな、って感じになる。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日 

思い出しついでに、2017年の夏のことを。 

『寝ても覚めても』の映画の撮影を見に行ってました。ほんまは毎日でも通いたいぐらいだったのですが、仕事が忙しかったりなんやらで、結局行けたのは5回かな。2017年の夏はひたすらに雨続きで、撮影の日程も変更に次ぐ変更でなかなか予定と合わなかったりした。映画の撮影って、朝早いし移動も多いし暑いし寒いしとにかく体力やなって、それは『きょうのできごと』の撮影見に行ったときもつくづく思ったこと(『きょうのできごと』の文庫に収録の『きょうのできごとの、つづきのできごと』にその話を書いてます)。自分は家でじっとしてる仕事が向いてる、というかそれしかできへんのやな、と思いながら、早朝のロケバスには起きられなくて間に合わないので、一人電車で現場に向かっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日(2017年の) 

最初に行った撮影は、都内某所の焼き肉屋さん。もう映画も公開されてだいぶ経つので書きますが、実はわたし出演しています。ていうても、うしろに映ってるだけなので、わたしのこと知ってる人があの場面て言われててやっと気がつく程度なんですが。大阪の焼き肉屋さんていう設定なので、わたしの友人2人も呼びまして、大阪弁でしらじらしくしゃべっております。ていうても、これも「がやがや」ぐらいにしか聞こえへんけど。この焼き肉屋さん、オーナーさんが鶴橋の、ということはもちろんめっちゃ関西気質なおもろい人で、わたしのテーブルの一角だけ大阪になっておりました。これまでにも撮影は見に行ったことあったけど、出演するとなると違うのが、「全然見られへん!」ということ。カメラのほう見たらあかんし、俳優さんのこともめっちゃ気になるのに「意識してません、見てません」てしれっとした顔しとかなあかんし、見学だけのほうが気楽でいい! さらに、撮影の都合上、なみなみとつがれたビールも、めちゃめちゃいいにおいで焼けてる肉も、飲まれへん、食べられへん! かなりの苦行でございました。1年近く経って今年の7月にスタッフさん、俳優さんたちとこのお店で焼き肉会があり、ようううやく! 食べることができました。それはもうえもいわれぬおいしさでした。ただ、エアコンがなくて暑くて死にそうになりました……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日(2017年の) 

そう、エアコンですよ! 映画の撮影、マンションの1室でのシーンを見学に行ってたのですが、本番のときは音が入ったらあかんので、窓は閉めきりのうえ、エアコンも止めるんですよ! 外は連日35度近い、蒸し暑い日。息できへんくらいの厳しさ。そんなことをまっっったく顔に出さずに演技する俳優さんたち、ひたすら尊敬です。真冬に、真冬でない設定で撮影するときは、薄着のうえに息が白くならないように氷で口を冷やしてからとかも聞いたことがあり、いやもうほんまに拝みたいくらいの気持ちです。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日(2017年の) 

映画の撮影は、日本、特に東京都心では全然許可が下りなくて場所を探すのがそれはもう大変なのです。今回わたしが見学に行かせてもらったのも、渋谷と銀座もあったけど、ほかは千葉の流山、東京やけど都心から電車で1時間ちょいかかる青梅、埼玉の熊谷。しかも一日で神奈川→千葉→埼玉と移動したりもするんです。マンションの場面は、新築の大規模マンションのまだ入居してない部屋を二つ並びで使わせてもらってて、片方が控え室、片方が登場人物が暮らす室内の設定になってたのですが、室内のほう、どう見ても誰かが住んでる部屋にしか見えへん。え、これほんまに全部、空き部屋に美術さんが数日で作ったの? すごい!! とびっくりしながら細かく作り込まれた壁のスナップ写真やら食器棚やら見てたら、本棚にわたしの本がようさん並んでる! 実は美術担当の布部さん、枚方出身の若い男性なんですが、京都での学生時代からずっとわたしの本を読んでくださってたそう。なので、映画には入らなかった『寝ても覚めても』の朝子が写真を撮ってる設定もこの部屋には生かしてくれはってて、カメラや写真の本、写真なんかも作り込んで並べてあったのにほんま感激しました。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日(2017年の) 

撮影の見学で青梅。駅から遠い場所なのでスタッフさんが車で迎えに来てくれはる。青梅は昭和な町で推してて、駅周辺には昭和映画の看板がいっぱい(老朽化でついこの間なくなったみたいです)。駅からの道の周りのお店も、昭和感あふれるというか、わたし的にはときどき行く小豆島っぽい(父の故郷なのです)。東京もこういう感じのところあるんやなあ、と思いながら、スタッフさんがちょっと前に大阪でジョン・ウー監督の『マンハント』の撮影に参加してはった話を聞く。そう、福山雅治が主演の、中之島でジェットスキーのアクションシーンとかあるあれです。このときはまだ公開されてなかったので、予告を見て、へええーとか思ってたのですが、結局まだ見てへんなあ。確かこの日記でも書いたことある高倉健主演で中国の人はみんな観てる『君よ憤怒の河を渡れ』のリメイクやんね。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月☆日 

これは今年。ひたすらゲラ(本や雑誌の印刷前に確認する状態のやつ)を見る作業。文庫3冊に単行本2冊を連続刊行という無茶をしたため、寝てても夢の中で文字を直してる状態です……。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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