よう知らんけど日記

第79回 KOMBUCHAの正体。

2015.5.1 18:22

(引き続き思い出しよう知らんけど日記)

12月☆日
パトリス・ルコントさんとの対談イベント。いやー、こんなこともあるもんやね。7月に賞をもろてからテレビやらラジオやら出たりしていろんな人に会ったけど、ルコントさんですよ。新作『暮れ逢い』の公開記念イベントやって、相当気構えて行ったのやけど、気さくで素敵なフランスのおじさまという感じでした。話もおもしろいし、ファンの人たちにも時間かけてサインしたり写真撮ったり。エンターテイナーでしたね。イベント後にお話ししてたら、各地の水族館に行くのがお好きだそうで、海遊館最高! て言うてはりました(大阪ヨーロッパ映画祭で来はったんかな)。
イベント前に、今までの作品を見直してたんやけど、ルコント作品の特徴は、役者さんの視線やなーと思って。カメラをじっと見る視線がとても心に残る。わたしが好きな『橋の上の娘』も『列車に乗った男』もそう。そしたらルコントさんは、自身でカメラを覗いて撮影しはるそうで、なるほどなー、と得心した。『暮れ逢い』はシンプルなラブストーリーで、映画って俳優の顔を映すものなんやなと、しみじみ思いました。気になって原作のツヴァイクの、『暮れ逢い』じゃなくて別の話やけど『チェスの話』を読んでみたら、めっちゃよかった。児玉清さんの愛読書やそうです。

12月☆日
六本木で作家の友達とごはん会。12月の2週目の金曜という、忘年会真っ盛りの日やな、といやな予感がしてたら、案の定! 終電を逃したらタクシーがまったくつかまらへん。歩道や交差点には宴会帰り&これから2軒目3軒目の人がじょろじょろ出てきて、夜中やのに祭りみたいになってるし、なんと路上でタクシーの奪い合いが繰り広げられてる! なんなん、これ!? バブル絶頂期!? 東京恐ろしいよ!! とおびえながらさまよいましたが、結局だいぶ歩いて反対方向の遠回りの道でやっとタクシーが見つかりました。あー、怖かった。10年前、東京に引っ越してきてすぐに思ったことの一つが、タクシーがお客さん乗せてる率の高さで、全然不景気とちゃうやん! と地方との差を実感したんやけど、やっぱりここだけ特別っていうか、普通じゃないっていうか、法律作ったり 経済のこと決めたりしてる人らが東京ど真ん中に住んでたらそら不景気とか生活苦しいとかわからんやろな、と思う。

12月☆日
大正区役所で、直木賞を受賞した黒川さんとトークイベント。中学がいっしょやったという驚きのご縁で、地元でもイベントをすることに。今の大正区長がおもろい人で、自ら大正区の歌を作って弾き語りしたりイベント考えたり特区を作ったりしてはるので、区のイベントやけどゆるゆるな雰囲気で楽しくお話しできました。区民ホールに地元の方や同級生や、たくさん来ていただいて、ほんとにありがたかったです。
終わってから打ち上げに行った大正駅近くのおでん屋さんもおいしかった。大正は新しい店がちょいちょいできておもしろそう。大阪にいるときは中学までの友達と飲みに行くとかほぼなくて、地元のお店にほとんど行ってなかったから、今やったら楽しいとこようさんありそうやなあ、とちょっとうらやましくなりました。

12月☆日
ところで、ちょっとだけカリフォルニア旅行編の積み残し。サンフランシスコのところどころで「KOMBUCHA」ていう張り紙を見かけた。コンブチャ……昆布茶? と思ったら、なんと「紅茶キノコ」のことらしい! 紅茶キノコて! わたしが子供の頃大流行したらしい健康食品というか、とにかく謎の物体。紅茶で培養する菌? 写真でだけ見たことあって、あまりの不気味さにこんなん飲んでたって信じられへん、と思ってたのが、40年近い時を経てアメリカに、しかもなんで「こんぶちゃ」に? ぬるぬるしてるから?……うー、ますます謎。ほんでこういう西海岸のセレブとかロハスな人に流行ってるものってすぐ日本にも波及するからなーと思ってたら、やっぱり! 日本でもちょいちょいネットで広告を見かけるように。しかも「紅茶キノコ」じゃなく「KOMBUCHA」になってる。健康食品、グッズみたいなのってほんま次々いろいろ流行るなあ。次々新しいのがはやるってことは、結局どれも効果がなかったってことやと思うねんけど……。

12月☆日
すでに世間は仕事納め、今年は曜日の関係で28日ぐらいから休みのとこが多い。わたしの仕事はあんまり関係ないというか、この何年かは特に世間様が休みの東京が静かな間に仕事することにしてるのやけど、もう東京都心は空っぽの30日、用事があってタクシーに乗った。そしたら運転手さんがえらい上機嫌。道路すいてますねえー、と話を振ってみたところ、運転手さんもわたしと同じ(?)で年末年始の人が休みの時に仕事する方式とのこと。道がらがらで走りやすいし、でも絶対乗る人おるから効率いいし、それで稼いだ分で5日から休みを取って温泉に行くねんて。道が空いててあっという間に着くから、お客さんも気分がいいらしく、わたしの前に乗せたお客さんは、目的地に着いたら「次の仕事先にもこのまま乗っていくからちょっと待ってて」ってことで、赤坂から千葉まで行ったそうな。しかもそこからまた東京まで帰ってきたそうな。やー、すごいね。

12月☆日
大晦日。久しぶりに紅白をほとんど見た。わたしにとっての今年のメインイベントはなんといっても中森明菜。80年代に小学生でテレビ漬けやったわたしのいちばんのアイドルは、松田聖子でも小泉今日子でもなく、中森明菜なんですよ。登場順が近づいてくると、なんかもう動揺して胸が詰まってしまい、ニューヨークのスタジオが映ったときにはこっちの手が震えるぐらい(なんでやねん)。さらに中森明菜のものすごい緊張ぶりに、こっちまで倒れそうになりました。静まりかえったスタジオで、黒ずくめの華やかさゼロの衣装で、誰もが知ってるヒット曲でなく、誰も知らん新曲が流れ、浅倉大介節全開の音で、さらにカラオケビデオみたいなサバンナの風景が流れ、全般にツッコミどころしかないにもかかわらず、絶対全国のお茶の間固まってるやんと思いつつ、ああ、ええ歌やなあ、とぼろ泣きしそうになりました。そして歌い終わってやっと緊張がゆるんだ中森明菜が、カメラに流し目でにやっと笑った瞬間、わー、明菜やー! と感極まりました。いやー、大晦日なんてね、紅白歌合戦なんてね、誰もが家族団らんでぬくぬく和気藹々と見てるわけとちゃうやないですか。妙に明るすぎる応援合戦やら白々しいくらい元気いっぱいのアイドルとか次々出てくる中、極寒のニューヨークから最強の孤独を送り込んだ、その存在感に感動した。これは嫌みでも茶化してるのでもなく、ほんまに。その後放送された『SONGS』でも選曲も歌い方も絶妙に微妙ではありましたが、わたしはやっぱりこの人が好きで、まあ、アイドルを好きっていうのはそういうもんやよな、と自分で納得しました。

1月☆日
あけました。元日はBSジャパンで『孤独のグルメ』一挙放送を見ました。あとは書評のためもあって昭和30、40年代の本をひたすら読み、ケーブルで昭和の映画を見、2015年になったはずやのに、1965年ぐらいかと錯覚するような日々。もちろん、近所のスーパーではこの時期しか売ってない「濃い丸餅」を毎日食べています。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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