「何これ!」があちこちに…大阪・北加賀屋はなぜ“アートの街”に? 文化住宅から巨大造船所跡まで、街を歩いてみた

3時間前

当たり前のようにアートが溢れている、北加賀屋の街角

(写真16枚)

現代風にリノベーションされた古民家や廃工場跡、街にあふれるさまざまなアート作品に触れ、「へぇー、ほぉー」と驚きや発見に出合える、大阪市住之江区の北加賀屋。

かつて「造船の街」として栄えたこのエリアには、文化住宅や工場、倉庫、さらには約4万平方メートルもの広大な造船所跡まで、街のいたるところにアートが息づいている。今回は、そんな北加賀屋を巡るツアーの様子と、とりわけ印象的だったスポットを紹介する。

■ 何の変哲もない文化住宅が新たな空間に

北加賀屋といえば、いまや「アートの街」として知られるエリアだ。9月21日におこなわれた『北加賀屋物件ツアー 造船の街まるごとリノベーション』は、街を歩きながら、不動産と建築の視点からアートを眺めてみようというコンセプトで企画された。

主催するのは、京都を中心にまち歩きツアーや建築祭などを手がける「まいまい京都」(京都市上京区)。ガイドを務めるのは、不動産会社に勤めながら、大阪の街に隠れた面白い不動産情報を発掘する一級建築士の山田輝さんだ。「まいまい京都」と山田さんがコースを設定した今回のツアーには、募集定員いっぱいの18人が参加した。

『北加賀屋物件ツアー 造船の街まるごとリノベーション』ツアーに、いざ出発
『北加賀屋物件ツアー 造船の街まるごとリノベーション』ツアーに、いざ出発

参加者は40代以上が多い印象で、地元からの参加者のほか、「新しい大阪を見たい」と東京から訪れた2人連れも。募集枠はすぐに埋まったという。

朝10時、大阪メトロ「北加賀屋駅」に集合し、ツアーがスタート。北加賀屋2丁目の住宅街にある細い路地を進むと、空き地に忽然と現れたのは、巨大な女性の胸像だ。

ごくふつうの路地を入っていくと忽然と現れた「REMAFOREIGN MATTER:Sand in woman(異物:砂の女)」 奥から2人目のインカムをつけた人物がガイドの山田さん
ごくふつうの路地を入っていくと忽然と現れた「REMAFOREIGN MATTER:Sand in woman(異物:砂の女)」 奥から2人目のインカムをつけた人物がガイドの山田さん

作品の傍らにあるプレートには『REMAFOREIGN MATTER:Sand in woman(異物:砂の女)』と記され、砂型3Dプリンターで制作されたことが紹介されている。

さらに進むと、木造の文化住宅にたどり着いた。外観はレトロだが、玄関扉や内部はおしゃれに改装されている。ここは、文化住宅を丸ごとリノベーションした複合施設「NAGAYArt」。

古い文化住宅の1階を店舗に2階を住居にリノベーションした「NAGAYArt」
古い文化住宅の1階を店舗に2階を住居にリノベーションした「NAGAYArt」

1階には書店やチャイ専門店、サンドウィッチカフェが入り、2階は住居スペースになっている。かつては「住むためだけ」の建物だった場所が、店と暮らしが混ざり合う空間へと生まれ変わっていた。

まだ開店前の時間だったが開いていればフラリと入ってみたくなる雰囲気
まだ開店前の時間だったが開いていればフラリと入ってみたくなる雰囲気

裏に回ると、巨大なウォールアートが2点描かれている。漢字をモチーフにした作品で、2つの二字熟語が色違いでモザイク状に重ねてある。何と書かれているか、お分かりだろうか。写真右は「革新・保守」、左は「活発・低調」と読める。

「NAGAYArt」の裏にもウォールアートが
「NAGAYArt」の裏にもウォールアートが

「NAGAYArt」と道を挟んだ向かい側にある鉄筋コンクリート造のアパートが「AP art MENT」。8戸ある2DKの部屋は、それぞれ8組のアーティストやクリエイターが思い思いの発想でリノベーションしている。

たとえば、壁そのものが「ヤスリ」になっている部屋や、天井や壁にコンセントがびっしりと配置された部屋、室内に庭石や植物を置いた部屋など、どれも個性豊かな設えで、部屋そのものが作品だ。ただ、空き部屋が改修中だったため、残念ながら内部を見学することはできなかった。

8組のアーティストやクリエイターが思い思いにリノベーションした「AP art MENT」
8組のアーティストやクリエイターが思い思いにリノベーションした「AP art MENT」

次に訪れたのは、こちらも木造の文化住宅を再生した複合施設「千鳥文化」(北加賀屋5丁目)。

北加賀屋は、住之江区と大正区に挟まれた木津川に面しており、かつては造船業で栄えた。2万人もの造船関係者が暮らしたこの街では、職人たちが自らの造船技術を生かし、文化住宅を使いやすいように改装していたという。その建物を現代の耐震基準に合わせて補修し、複合施設として再活用したのが「千鳥文化」だ。

壁面の一部がガラス張りの「千鳥文化」
壁面の一部がガラス張りの「千鳥文化」

外観の特徴は、壁面の一部が1階から2階までガラス張りになっており、柱や梁の構造、館内の人影まで外から見通せること。裏側には飲食店や理髪店、美容関係のスクールなどが軒を連ねる。

千鳥文化の裏側には小規模店舗が軒を連ねる
千鳥文化の裏側には小規模店舗が軒を連ねる

さらに歩みを進めると、真っ白な外観が印象的なギャラリー「kagoo(カグー)」(北加賀屋5丁目)が見えてきた。もとは家具店の店舗兼事務所だった建物が、今では若手作家の創作活動を支える場所となっている。

もとは家具店の店舗兼事務所だった「kagoo(カグー)」
もとは家具店の店舗兼事務所だった「kagoo(カグー)」

■ ほぼ廃墟だった巨大造船所跡が、大規模な複合施設に

ツアー前半は街なかに点在するアートを巡り、後半は比較的大型の施設を訪れた。

「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」(北加賀屋5丁目)では、「SHIP’S CAT」(ヤノベケンジ)のオブジェがひときわ目を引く。

「SHIP’S CAT」が印象的な「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」
「SHIP’S CAT」が印象的な「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」

大型作品の製作・保管場所の不足は、アート界で深刻な課題となっていた。そこで、広いスペースを確保できる鉄鋼工場・倉庫跡を、大型美術作品の収蔵庫として再生。「見せる収蔵庫」として、2014年から年1回の展覧会『Open Storage』も開催されている。

そして、最後に訪れたのが、広大な造船所跡地にある「クリエイティブセンター大阪」(北加賀屋4丁目)だ。

船渠(ドック)跡は造船所時代の遺構
船渠(ドック)跡は造船所時代の遺構

この場所は、1910年代に船舶需要の高まりとともに活気づき、1920年代に名村造船所が買収。二度の大戦を経て日本が造船大国となるなか、船はどんどん大型化し、木津川沿いのドックでは手狭になったため、造船所は1970年代に佐賀県へ移転した。

その後、長らく使われない状態が続いたが、2000年代初頭に「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」が立ち上がったことを機に、北加賀屋はアートの街へと舵を切る。

その一環として、名村造船所跡も大型の複合施設として生まれ変わり、マルシェや音楽系イベントの舞台として親しまれている。

この広大なスペースで原寸大の図面が描かれていたという
この広大なスペースで原寸大の図面が描かれていたという

とりわけ圧巻なのが、建屋の4階にある旧「製図室」だ。船の部品の設計図を原寸大で描いていたという広大な空間は、端から端まで60メートル。最上階だからこそ実現した無柱空間だ。

床には、当時の造船設計のノウハウを応用して描かれた「橋」の図面が、今も生々しく残されている。

実寸大の図面を描いていた当時の様子(展示パネルより)
実寸大の図面を描いていた当時の様子(展示パネルより)
旧製図室の床に今も残る「橋」の設計図
旧製図室の床に今も残る「橋」の設計図

■ 知っているつもりの街も、歩けば違って見える

約2時間半のツアーを終えた参加者に話を聞いた。神戸から参加した運送業の男性は、「北加賀屋がアートの街だと聞いていたので、実際の風景を見てみたかった」と話す。

また、大阪市内から参加した女性は、「街のあちこちにあるアートが、以前から気になっていました。せっかくならガイドさんに案内してもらいながら見て回ったら、理解が深まると思って」と、参加した理由を教えてくれた。

このような街角にもさりげなくウォールアートが描かれている
このような街角にもさりげなくウォールアートが描かれている

実際に歩いてみると、このツアーでは回り切れないほど、まだまだ多くのアートがある。文化住宅がショップや新しいスタイルの住居に生まれ変わり、古い店舗兼事務所がギャラリーになり、工場や倉庫がアート作品の制作・収蔵場所になる。そして、巨大な造船所跡までもがイベントや創作の舞台になっている。

山田さんと「まいまい京都」のスタッフによると、「コースは、街や物件の変化に合わせて少しずつ変えています」とのこと。不動産といえば、駅から何分、床面積、築何年といった数字で見てしまいがちだが、このツアーでは、数字だけでは捉えきれない「街の余白」のようなものを感じた。アートと不動産の面白さを、五感で体験できるツアーだった。

スタッフは「見学先との交渉次第ですが」と前置きしながら、今後の新たなツアー企画も構想中だと明かしてくれた。冬に向けて、嬉しい知らせが届くかもしれない。

取材・文・写真/平藤清刀

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