血を流さない「仇討ち」に挑んだ、意次と重三郎【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第29回より。「手拭いの男」の絵を見せる重三郎(横浜流星)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。8月3日の第29回「江戸生蔦屋仇討(えどうまれつたやのあだうち)」では、重三郎と田沼意次が、それぞれの形で仇討ちを果たすことに。相手を肉体的に殺すことだけが仇討ちではないという、現在のへのメッセージともなるようなやり方だった。
■ ついに松前藩の抜荷の証拠を掴む…第29回あらすじ
平秩東作(木村了)が田沼意次(渡辺謙)の元に命からがら持ってきたのは、松前藩の抜荷の証拠を記した帳簿類だった。佐野政言(矢本悠馬)に殺された息子・意知(宮沢氷魚)は、松前藩に抜荷を仕掛ける罠を張る一方で、その策が失敗したときのために、東作を動かしていたのだった。そこには明らかに抜荷を行った形跡があったため、幕府への謀反という名目で取り潰しができると、意次たちは喜んだ。

意次は早速、将軍・徳川家治(眞島秀和)に蝦夷の上知を上申。しかしそこに、藩主・松前道廣(えなりかずき)から助けを求められた一橋治済(生田斗真)が、家治に目通りを願い出た。家治を諌めに来たかと思いきや、逆に上知の御礼を申し上げたことに、全員が戸惑う。その一方で、成長した田安賢丸こと松平定信(井上祐貴)は、『江戸生艶気樺焼』を手にして「仇」のことを考えていた・・・。
■ 本作りで仇討ちはできるのか?
特に歌舞伎作品を見ていると、日本人は本当に「仇討ち」が好きな国民性だなあと思う。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも登場した「曾我兄弟の仇討ち」しかり、歌舞伎3大狂言の1つ『仮名手本忠臣蔵』しかり。主人公たちが大願成就を果たす様にカタルシスを感じる気持ちはわかるけど、どんなに人間が歴史を重ねても、人の命は人の血を流さなければ贖(あがな)えないものなのかなあ・・・と考えなくもない。

ということで、この第29回の大きなテーマとなったのが「本作りで仇討ちはできるのか?」という課題。この時代、仇討ちは法律で認められてはいたけれど、基本的に許可が下りるのは親族のみ。誰袖が意知の仇討ちをしたいと願っても、そもそも妾の身分では法律的には許されない。というかそれ以前に、当の政言が死罪となっているので、憎悪の対象をどこに向けていいのかわからないのが、いっそう辛いところだ。
そこで重三郎が考えたのは、まずは誰袖の笑顔を取り戻すこと。意知と幸せになるはずだった日々は政言に奪われたが、誰袖がその悲しみにくじけることはなく、意知が生きている世界線と同様の喜びや幸せを感じることができれば、政言に打ち勝ったことになる。そのために重三郎ができることは、とびっきり楽しい本を誰袖のために生み出すことであり、『江戸生艶気樺焼』を発刊したことで、その目的は見事に達成されたのだ。でもそれって、本当に仇討ちになるのだろうか?

・・・などと考えたところで、『江戸生艶気樺焼』を使った仇討ちはまだ終わってなかったことが、本が発売されてから判明した。自分たちの社会への不満を「佐野大明神」に祈ることで晴らしていた江戸っ子たちが、この滑稽極まりない黄表紙に夢中になったことで、そのブームが霧散してしまったのだ。少々残酷な言い方になるけれど、佐野政言の存在を人々の心から抹殺してしまったということだから、これは立派な仇討ちと言えるだろう。
■ 田沼意次を知らずのうちにアシスト
そして政言の名前が世間から忘れられると一番都合が悪いのは、確実に政言本人ではない。庶民たちに政言を神聖視させることで、田沼意次・意知親子へのヘイトを高め、田沼派の勢力を削ぎ落とすことを目論んでいた一橋治済のはず。重三郎はそんな陰謀があることはいっこうに知らないはずだけど、意次が一橋治済に仕掛けようとする仇討ちを、知らず知らずのうちに助けたことになる。これは重三郎だけでなく、視聴者だってビックリだ。

意知がやり遺した仕事を全うすることで、血を流すことなく仇討ちを果たすと重三郎に宣言し、逆に重三郎がどんな形で仇討ちをするのかを、楽しみにしていると語っていた意次。『江戸生艶気樺焼』の主人公の名が「仇」気屋艶二郎だったことで、これこそが重三郎の仇討ちだと悟ったはずだ。『べらぼう』では、重三郎が政演に提案したことになっていたが、そもそもなぜ主人公の名前に「仇」なんて字を使ったのか?

浮気を意味する「徒気(あだけ)」の当て字と考えるのが妥当だけど、もしかしたらそこには本当に、なんらかの「仇(かたき)」を取るという狙いを誰かが込めていたのかもしれない。このちょっとした言葉遊びから、『江戸生艶気樺焼』を単なるエンタテインメントではない、非常に壮大な背景が込められた作品という風に仕立て上げた森下佳子(前回と今回は、三谷昌登が共同脚本でクレジット)の目の付け所には、本当に恐れ入ってしまう。
■ 「松平定信」が井上祐貴となってカムバック

こうして重三郎と意次の仇討ちにひとまず決着が付いた一方、仇討ちに燃えるもう一人の人物が、入れ替わるようにして登場した。そう、意次によって次期将軍の座を奪われたと、多分今でも恨んでいる松平定信だ。意次同様、大河ドラマではあまり深く描かれたことのない人物だが、庶民文化を厳しく統制する一方で、それらの文化をこっそり愛好していたことがわかっている。その愛憎相半ばするというか、歩く矛盾のような人物像がどのように描かれていくのかに注目していこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。8月10日の第30回「人まね歌麿」では、喜多川歌麿(染谷将太)がほかの作家の模写から離れて、自分の絵を追求しようとする姿と、松平定信がいよいよ政の表舞台に立とうとするところが描かれる。
文/吉永美和子
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