生きづらさに追い込まれた…佐野政言の凶行【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第27回より。田沼意知の悪評を聞かされ、驚いた表情を見せる旗本・佐野政言(矢本悠馬)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。7月13日の第27回「願わくば花の下にて春死なん」では、ドラマのラストで田沼意次の息子・意知が、佐野政言に襲われる事件が発生。江戸時代の生きづらさに、権力者の思惑もプラスされて、政言が刀を振るわざるを得なくなった、その過程を振り返ってみた。
■ チャンスの鷹狩で失態をおかす…第27回あらすじ
一橋家当主・一橋治済(生田斗真)は、松前藩藩主・松前道廣(えなりかずき)から、田沼意次(渡辺謙)が蝦夷地上知の計画を進めていることを知り、不快感を示す。その頃田沼意知(宮沢氷魚)は、意次が家系図を捨てた詫びとして、佐野政言(矢本悠馬)を将軍・徳川家治(眞島秀和)の鷹狩のお供に取り立てた。そこで狩の獲物を見失う失態をおかした政言だが、とある武士(矢野聖人)から意知が獲物を隠したと密告を受ける。

さらにその武士は、家系図が捨てられただけでなく、かつて自分が田沼家に送った桜が寺に寄進され、人々から「田沼の桜」として愛でられていると報告。耄碌した父・政豊(吉見一豊)が、咲かなくなった庭の桜の木に刀を振るう姿を見て、政言は意知と自分の境遇の違いに涙を流す。その晩政言は、政豊が大切にしていた錆びた刀の手入れをする。そして江戸城内で、誰袖(福原遥)と会うために帰りを急ぐ意知に斬りかかった・・・。
■ 刀を抜かざるを得なかった…佐野が抱える重荷
史実を知らない視聴者には申し訳ないが、すでに次回予告の説明文で断定されちゃってるのでここでも言ってしまうと、まず田沼意知はこの襲撃で深い傷を負い、ほどなくして逝去する。政言が意知暗殺に及んだ理由は、創作の可能性が高いのも含めて7~17個ほどが伝わっているが、そのなかには確かに、今回のドラマでも描写された「家系図を借りパチされた」「将軍の鷹狩の報奨を妨害された」というものがある。

しかしそんな逆恨みというか、下手すると言いがかりのような理由では、ただ佐野政言の印象が悪くなるだけで終わっただろう。実際第6回で、頼みもしないのに家系図を持ち込んできたときは、まるで家系図を盾にカツアゲに来たかのような、なんともイキった雰囲気があり「こいつならやりかねない」と勝手に思ったものだ。しかし『べらぼう』の政言のキャラクターは、そんな単純なものではなかったことがあとで判明する。

第23回で彼が再登場すると、狂歌の会という華やかな場に馴染めず、重三郎のアテンドすら振り切ってしまうほどの陰キャだったことが判明。しかも半分認知症が入って、自分への期待が激重な父親を抱えているヤングケアラーでもあった。そして当時の下級武士がそうであったように、佐野家もまた米の値下がりで生活は苦しかったはず。唯一誇れるのは、ときの狂歌に「番町に過ぎたるものは二つあり 佐野の桜に塙(保己一)検校」と詠まれたほどの桜の名木だけだった。
■ 田沼意知と開く差、忍び寄る「丈右衛門だった男」
一方、自分より家柄としては劣るはずの田沼家が幕府のトップに立ち、しかも息子の意知は自分と違って父の期待に大いに応える出世をしている。その鬱屈が心にのしかかり、父が周囲にかける迷惑の尻拭いにも疲れ果て、さらに悩みを相談できるような友だちもいない・・・現代でも似たような苦しみと孤独、いわゆる「生きづらさ」に苛まれる若者は少なからずいそうだが、そんな彼の心の隙間にスッと忍び込んだのが「丈右衛門だった男」だったのだ。

将軍の鷹狩のお供という出世のチャンスの場で、期待に応えられず憔悴する彼の元に、意知が彼の足を引っ張ったと告げ口をする。さらに家系図を捨てたとか、桜を横流ししたとか、まるで今の政言の状況が「全部田沼のせい」と思わせるような情報を刷り込んだ。この丈右衛門(仮)はおそらく、田沼家の蝦夷地上知を阻止するために治済が送り込んだと思うけど、自分たちで直接手をくださず、意知に恨みを持ってそうな社会的弱者にテロを起こすよう仕向けるとか、悔しいけど「傀儡師」の仕事にふさわしい。
■ 凶行だけど…同情せずにはいられない佐野政言
原因は、単なる恨みとか出世欲ではない。理不尽に社会の底辺へと追いやられた人間が、そこから自由になるために、自分をどん底に追い込んだ張本人(と思い込まされた)・意知に刃をふるった。自分の不満や不安やコンプレックスを、少しでも「誰かのせい」「社会のせい」と考えたことがある人なら、彼が爆発した理由に共感・・・とまでは言わなくても、自分勝手な凶行だとは、決して言い難い気分になったのではないだろうか。

人殺しは言語道断だけど、「時代が(+治済が)彼をこうしたのだ」と、同情せずにはいられない。視聴者が観ていて一番苦しくなるような殺人犯を森下佳子は創作し、そして矢本悠馬は「(意知暗殺は)全てを終わらせることへのすがすがしさしかなかった」という政言を見事に体現してみせた。彼の出番はまだ次回も残っているようだけど、予告から察するに、そのやるせなさをもう一段階上乗せするような見せ場がありそうな気がする。
■ 辛すぎる田沼意知の退場…次回は2週間後
また「同情を買う」といえば、田沼意知のキャラクターも同じことが言えるだろう。父親の権力を傘に着て出世街道に乗るアホボンだったら、殺されてせいせいしたと言えただろうけど、生真面目で気遣いもできて政治的センスも父親に負けてないという、絵に描いたような好青年。しかも誰袖と出会うことで、恋愛面でも実直という側面まで描かれ、ただただ「惜しい人を亡くした」としか言えないような退場になってしまった。

しかし意知にとって幸運だったのは、彼の実体を知らないほとんどの大衆が、父の意次ともども「欲深い悪人」と決めつけているのに対して、重三郎はそのイメージとはまったく逆の人物・・・国を豊かにするために、そして一人の女性を救うために、プライドを捨てて行動できる人物だと認知したことだ。彼の死を喜ぶであろう大衆に向けて、重三郎がどんなカウンターを、本という形でぶつけてくるのか? この状況から2週間待つのは酷だけど(でも選挙には行こうな!)、あざやかに逆転することを祈りたい。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。7月20日は、参議院選挙の特別番組のため放送休止。7月27日の第28回「佐野世直大明神」では、田沼意知が佐野政言の襲撃によって命を散らす姿と、重三郎がその敵討のために一肌脱ぐところが描かれる。
文/吉永美和子
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