「指図」を知った蔦重、悩める春町を救えるか【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第21回より。錦絵を見比べる絵師・喜多川歌麿(染谷将太)(C)NHK
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。6月1日の第21回「蝦夷桜上野屁音」では、重三郎が老舗本屋たちのディレクション力を思い知る出来事が連発。激動の展開のなかで、本屋としてさらなるステップアップがさりげなく描かれた。
■ 落ち込む蔦重を、励ます狂歌師たち…第21回あらすじ
重三郎が、西村屋与八(西村まさ彦)に対抗して出した錦絵『雛形若葉』の売れ行きは本家には及ばず、青本も鶴屋喜右衛門(風間俊介)が北尾政演(古川雄大)に初めて戯作を書かせた『御存商売物』が評判となっていた。ずっと本を作っている店には敵わないと落ち込む重三郎に、大田南畝(桐谷健太)たちは重三郎がこれまで出した、斬新な本の数々を称賛し「お前さんには『そう来たか』がお似合い」と励ます。

一方、絵師・北尾重政(橋本淳)から、喜多川歌麿(染谷将太)の将来性を高く買う言葉を聞いた重三郎は、いろんな分野の人々が立場を超えて交流をするのと同時に、歌麿の名前を彼らに売り込むための会を催す。しかしそこで、政演に作品を盗まれたと思っている恋川春町(岡山天音)が、酔いに任せてその場にいる人々をけなすような狂歌を次々に詠み、ついには筆を折って出ていってしまった・・・。
■ 老舗本屋には敵わない?歴然の「差」に挫折
本屋の新興勢力として、まさにイケイケドンドンな活躍を見せてきた蔦屋重三郎。今もまた「狂歌」というブレイク直前の新しいカルチャーを前に「さあ、どうしてやろうか?」と、手ぐすねを引いているような状況だ。しかしこの21回では、駆け出しの板元ならではの壁にぶち当たるターンがやってきた。生まれたときから本を作ることを宿命付けられ、そのためのエリート教育を受けてきたであろうベテラン勢を、やはり舐めてはいけなかったのだ。

西村屋の『雛形若菜』に対抗して、そのジェネリック本『雛形若葉』を歌麿の絵で発売したものの、より売れたのは『若菜』の方だった。その原因は摺りの美しさの違い。ドラマでは、本職の摺師・松崎啓三郎氏が見事に再現していたが、錦絵の摺りは絵具の乗せ方や摺り方の力加減で繊細に変わる。実際に重政の手ほどきを受けたあとの絵と比べると、『若葉』の絵は色の乗り方がベタッと平坦だったというのが、素人目にも明らかだった。

この色合いの最終ジャッジをするのは、当然本の企画者である板元。与八はやはり重三郎の倍以上の時間錦絵に向き合ってきた、江戸を代表する錦絵の目利きだけに、大衆が飛びつくような色合いの絵がどういうものかを知るだけでなく、そのために「こうすればいい」ということまで摺師に指定できただろう。というか絵を描いてもらう段階から、すでに摺りのことを頭に入れたアドバイスを、絵師に送るということまでできたかもしれない。
■ 足りないのは「ディレクター」的な目線
さらに追い打ちをかけるように、北尾政演(のちの山東京伝)の文才を、鶴屋喜右衛門に先に見抜かれてしまうという出来事が。喜右衛門は、第19回の恋川春町への対応からわかるように、今の大衆に受けるにはどういう題材を、どんな風に書けば良いかということを熟知した編集者。
とにかく「自分が書きたいこと」にこだわる春町と違い、戯作は素人なうえに性格も単純そうな政演は、喜右衛門の言うことを全部素直に作品に反映したと思われる。作家と相性が良ければ、喜右衛門は非常に優秀なディレクターのはずと予想した視聴者は多かったが、まさにそれを証明した形だ。

こうして改めて考えると、重三郎がずば抜けていたのは、絵師や作家をその気にさせる斬新なアイディアで人を動かす力と、編集と販促を同時に考えることができるマルチな企画力。逆にクリエイターに「指図」をして、作品そのものの質を高めるというディレクター的な目線は、まだすっぽりと抜け落ちていたことが、ついにここで露呈されてしまったわけだ。これまでトップスピードで駆け抜けていた分、このつまずきの衝撃は決して小さなものではないはず。
■ 蔦重の企画力に「指図」が加われば…鬼に金棒
しかしそこで、びっくりするほどの早さで「次いこ、次!」と立ち直ることができるのも、重三郎の天賦の才だ。狂歌師たちから、本づくりの何たるかを知りすぎてないからこそ、やれることがある・・・つまり「そう来たか!」ができるという、自分の最大の強みを教えてもらえたおかげで、再びスタートラインに立つことができた。
確かにこの「指図」の力は、経験を積めば積むほど着実に培われていくもの。天性のひらめきと人たらしの力に、作品の質を上げるための理論と説明能力まで加わったら・・・これぞまさに鬼に金棒ではないか。

今回幕府パート&花魁・誰袖(福原遥)周辺の動きと、最後の「屁」の踊りが派手過ぎて、この重三郎の気づきがちょっと目立たない感じになってしまったけど、彼が「蔦屋重三郎」となるための大きな通過儀礼のある、なかなかに重要な回だった。そしてここからの最初の仕事が、すっかりスランプ状態となってしまって、心だけでなく、物理的にも筆をへし折ってしまった恋川春町の再生だ。

表現者としてストイックなだけでなく、武士としてのプライドも加わっているためか、どうもお気楽な狂歌メンバーたちとは馴染めない様子の春町だけど、このあと「酒上不埒」という名で派閥を作るほど、狂歌に熱中することになる。そのきざしが、あの周りの戯作者たちをディスりまくった狂歌に現れていたわけだが、そこから重三郎がどんな「指図」をして、彼の新たな才能を開花させていくのか? 次週は2人にとって、大きな正念場となりそうだ。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月8日の第22回「小生、酒上不埒(さけのうえのふらち)にて」では、誰袖に身請けを迫られた田沼意知(宮沢氷魚)の行動と、重三郎が断筆宣言をした恋川春町を説得しようとする姿が描かれる。
文/吉永美和子
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