【連載vol.25】見取り図リリー、草間彌生 版画展を観る

12時間前

「南瓜ーーいつ見ても不思議なかたち。」と草間さんが語るカボチャ。左は《かぼちゃ》1988年 シルクスクリーン/紙、右側2点は両方とも《南瓜》1984年 リトグラフ/紙

(写真13枚)

アート大好き芸人・見取り図リリーが、色々なアート展へ実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けする企画「リリー先生のアート展の見取り図」第25回でございます。今回は、『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』です。「京都市京セラ美術館」(京都市左京区)で2025年9月7日まで行われています。

草間彌生さんは、日本ではもちろん超有名アーティストなんですが、実は海外での方がもっと有名で、その評価の高さがエグすぎるらしいのです。なんか日本が追いついてないみたいで悔しい! 少しでも世界の感覚に追いつけるように、この展覧会で草間さんのエッセンスをまなこに焼き付けようと思います。

版画作品が166点(僕が見たのは6月29日までの作品、7月1日から全部入れ替わって合計330点!)。これほど草間彌生さんの作品が集まるのはほぼないそうで、これは観ないと損! 水玉やかぼちゃのイメージが強かったんですが、それ以外にもたくさんの物をモチーフにしていて驚きました。

いきなり目を惹かれたのは、《幻の野に立ちて》という野菜と果物をモチーフにした作品。なんていうか、楽しさと懐かしさと少しの哀愁を感じる作品なんです。野菜や果物にこんな感情を感じるのか不思議でした。

展示1点目から、草間さんの世界に驚かされた《幻の野に立ちて》 1979年 シルクスクリーン/紙
展示1点目から、草間さんの世界に驚かされた《幻の野に立ちて》 1979年 シルクスクリーン/紙

今回の展示は草間彌生さんが、故郷の長野県にある「松本市美術館」に寄贈された約160点の作品で構成されていて(あとは、本人からお借りしたそう)、その美術館からやってきた草間彌生ガチ勢の渋田見 彰学芸員(以下ガチ先)からいろいろ教えてもらいました。そのときに聞いたのですが、草間さんは種苗業を営む家に生まれ、子どもの頃から野菜や果物が身近な存在で、慣れ親しんでいたそうです。

幼少期はご自身でも不幸だった(注1)と語っておられ、その当時の記憶や思い出など、いろんな感情を作品にぶつけた結果、こうやって思いが伝わってくるのではないかと、見入ってしまいました。

そして、ご自身がNY時代(注2)はアパレルを手がけたこともあり、帽子やハイヒールなどファッションアイテムもモチーフにしています。なんていうか草間さんて女性というか女の子なんですよね! 90歳を越えられた大先輩に言う事じゃないんですが、作品を通じて“女の子”を感じるんです。ソフトクリームとか買ってあげたくなっちゃう! 今度草間さんにお会いできる事があったらソフトクリーム持っていこう。いや、まわりのスタッフさんに怒られそうだからやめとこう。

そういった草間彌生さんの人生にまつわるもの以外にも、貝やタツノオトシゴなど海の生き物もモチーフにしてるんですよね、まったくイメージなかっただけに、草間さんの興味の広さを知る事ができます。

お花とカゴのバランスがすごい、これが下描きなしだなんて! 《花カゴ》 1993年 シルクスクリーン/紙
お花とカゴのバランスがすごい、これが下描きなしだなんて! 《花カゴ》 1993年 シルクスクリーン/紙

個人的にすごく好きだったのは《レモンスカッシュ》。前期では5点あり、どれも配色やバランスが良く、家に飾りたいなーと思いました。《花カゴ》これもめちゃくちゃかわいかった! カゴから花が出てるんですが、なんていうか一見不均等なんかなと思うんですが、見れば見るほど完璧なバランス。

ガチ先に聞いて驚いたのは、全ての作品下描きなしで、いきなり描き始めるそうです。すごすぎるて! フリーハンドで描き出してあのバランスは天才としか言いようがない! 草間さんの作風的に知られてないだけで、写実的な絵もめちゃくちゃ上手い(京都で日本画を学んでいたそうで、ガチ先に見せてもらいました)。ピカソもそうなんですが、基礎があってのオリジナルなんですね。

そして、基本的には草間さんが手がおもむくままに、何も見ずに描くそうなんですが、唯一依頼されて、富士山を見に行った後で制作した作品もすごい! 展示されているのは版画なのですが、もともとは194cm×194cmのキャンバスを横に3つ繋げている巨大な作品です(版画の上に原寸大のパネルがあります)。

富士山を描いた実物大サイズのパネル。この水玉ひとつずつを刷師が版をつくるために彫っているのがすごい!! 色によって印象が異なるので見比べてみて
富士山を描いた実物大サイズのパネル。この水玉ひとつずつを刷師が版をつくるために彫っているのがすごい!! 色によって印象が異なるので見比べてみて

太陽や空などは、草間さん独特の水玉などが使い描かれ、一番心に残ったのは、富士山から発された赤い線が、まるで富士山の血管のよう。版画であればほかの色で刷ることが可能なのに、3パターンの色で刷られた富士山のどれも(注3)、この線だけは全て同じ赤色なんです! 草間さんは富士山のエネルギーをこう感じて、こう見えてるんかなぁとか思ったら、凡人すぎる自分が悔しくなりました!

もともと草間さんはラメを使っている作品が多いらしく、シルクスクリーンによるラメ(注4)の部屋もあり、また恐れ多い事を言いますがギャル味を感じました。ほんとにかわいい人なんだろうなぁと思ってしまいます。ガチ先に聞いたのですが実際本当にかわいらしい人らしいです。もしお会いできたら流行りのスイーツと共に加工アプリで一緒に写真撮ってSNSにあげさせてもらおう。いやまわりのスタッフさんに通報されるかもだからやめとこう。

ラメでキラキラなシルクスクリーン作品。この煌めきは写真では伝わらないので会場で! 左から《ハイヒール(1)》、《ハイヒール(4)》 1999年 シルクスクリーン、ラメ/紙
ラメでキラキラなシルクスクリーン作品。この煌めきは写真では伝わらないので会場で! 左から《ハイヒール(1)》、《ハイヒール(4)》 1999年 シルクスクリーン、ラメ/紙

そしてみんな大好きカボチャの作品も。これぞ草間彌生というアイコン作品が1室まるまるカボチャだらけ。もちろん観た事は何度もありますが改めて観ると絶妙なんです。もちろんカボチャなんですけど、カボチャってこんな形だったか?とか模様ってどんなんだっけって思うんですが、最後にはカボチャよりカボチャなんです! 何て言っていいかわからないんですが行って観てみてください。カボチャよりカボチャなんです!

壁面には、草間彌生さんの言葉が所々に書いてます。「このわたしだって、自殺しようと思ったのは1度や2度ではない。なぜ救われたか?そこに芸術があったからだ。」こんな言葉を聞いたあとに、作品を観ると身震いするわ!

NY時代から話題になったネットペインティング。会場ではその広がる世界観をプロジェクターでも表現!
NY時代から話題になったネットペインティング。会場ではその広がる世界観をプロジェクターでも表現!

みんなを魅了している作品は自分を救済するための手段でもあるんです。そら観る人の魂震えるわって話です!

それを踏まえて、最後の展示室で「愛はとこしえ」(注5)というシリーズを観ると、より精神世界というか魂を感じます。真っ白なキャンバスに黒色のマーカーペンだけで描いた原画から刷られた巨大な版画作品。はじめてゴッホの《糸杉》を観た時に近い感覚というか、感情を芸術作品にぶつけるって本当にすごいエネルギーなんだなと。あらためて芸術家ってかっこいい。

「愛はとこしえ」シリーズがズラリと真っ暗な部屋に並びます。草間さんがマーカーペンで描いていく映像もお見逃しなく
「愛はとこしえ」シリーズがズラリと真っ暗な部屋に並びます。草間さんがマーカーペンで描いていく映像もお見逃しなく

今度、草間彌生さんにお会いできる事があれば、「本当に尊敬しています」と伝えよう。これはまわりのスタッフさんも許してくれるでしょう。紹介できてない作品がたくさんありますので、実際に観て感じて欲しいです。

注1…幼少時代は目の前が一面水玉に見えたり、犬のしゃべり声が聞こえたり、幻覚が続くことが辛く、悲惨でみじめだったと自ら語ることも。ただ、絵を描くときだけ、そういった辛さや悩みから開放され、今も休みなく朝から晩まで可能な限り描いている。

注2…日本でアートを続けることに限界を感じて、28歳のときに1957年に渡米し、ニューヨークへ。このときに今も有名な網のネットペインティングが誕生。絵画、彫刻、インスタレーション、コラージュなど多様な作品を手がけ、海外で高い評価を得ていた。ただ日本では過激的な作品やパフォーマンスばかりが注目され、アーティストとして評価されるようになったのは1993年の第45回のヴェネツィア・ビエンナーレで日本館初の個展の開催がきっかけだそうだ。

注3…浮世絵木版の伝統を継ぐアダチ版画研究所に依頼されて2014年に富士山を描いた《生命は限りもなく、宇宙に燃え上がって行く詩》はもともと縦194cm、横6m。この水玉ひとつひとつを職人が木版に掘って、その数はなんと約1万4000個。しかもサイズが小さいので途方もない! 7種の色で刷られ、前期で展示されているのは《われわれの魂の沈んでいった果てに、この黒々とした山はすべてを愛につつんでしまう》《富士山、わたし大好き》《命の限り愛してきた私の富士山のすべて》の3作品。後半にも3点を予定。

注4…版画を始めたのは体調不良となって日本1973年に帰国してから。もともと水玉や網など増殖していくイメージと、版画も同じように増殖していくイメージに親和性を見出して、1979年に制作してから、この版画の作品の多くをお願いしているのは信頼している3人だそう。その刷師が、シルクスクリーンでラメを使うことを提案して、キラキラに輝く版画が実現した。

注5…2004年から5年かけて、100号のキャンパスに描かれた50点を原画としたシルクスクリーン作品。この後に、アクリル画でカラフルな「わが永遠の魂」シリーズを描き、2021年からは「毎日愛について祈っている」シリーズを描き続けている。

【見取り図リリーの近況】
7月10日から見取り図がMCを担当する番組『見取り図の間取り図ミステリー』(22時〜・読売テレビ)がスタート。家の不思議な間取り図の謎を解き明かす特番がレギュラー化となりました! 見取り図が豪華メンバーを厳選した『見取り図寄席』を、7月13日に青森、10月12日に高知で予定(山梨公演での舞台裏はYouTube『見取り図ディスカバリーチャンネル』で配信中)。「なんばグランド花月」「よしもと漫才劇場」「森ノ宮よしもと漫才劇場」「よしもと祇園花月」に出演。気になった方はぜひ、「FANYチケット」で検索してください

前期と後期で作品がぜんぶ入れ替わるので、後期も気になる!
前期と後期で作品がぜんぶ入れ替わるので、後期も気になる!

『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』
1929年に長野県松本市生まれの前衛芸術家、小説家。1979年から制作を開始した版画に着目し、シルクスクリーン、リトグラフ、エッチング、版画などの作品、総計約330点を展示。同じ版画でも配色によって全く異なる印象になり、草間彌生の奥深い世界観を感じることができる内容に。展示は撮影不可だが、会場外にはフォトスポットがあるのでお見逃しなく。期間は9月7日まで、前期は6月29日まで、後期は7月1日から。料金は一般2200円、大学・高校生1400円、中・小学生600円。

『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』

期間:2025年4月25日(金)~9月7日(日) 月曜休(7月21日・8月11日は開館) ※前期は〜6月29日、後期7月1日〜9月7日
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
料金:一般2200円、大学・高校生1400円、中・小学生600円

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