今映えるスポット「新・南都八景」、奈良時代にタイムスリップ?

2023.12.31 09:00

「新・南都八景」の春日大社「春日鳥居の前でたたずむ鹿」

(写真9枚)

2023年は、奈良市の「古都奈良の文化財」(8つの構成資産:東大寺、興福寺、春日大社、春日山原始林、元興寺、薬師寺、唐招提寺、平城宮跡)がユネスコの世界遺産登録25周年を迎えたメモリアルイヤー。それに伴い、奈良市観光協会が各資産の写真映えする撮影スポットを「古都奈良の文化財 新・南都八景」として制定した。この新八景の魅力とは?

■ 奈良時代にタイムスリップ、広々とした風景

「新・南都八景」の平城宮跡「平城宮跡の空」

オンラインによる一般投票によって選ばれた「新・南都八景」は、東大寺「二月堂の眺め」/興福寺「若草山からの興福寺遠望」/春日大社「春日鳥居の前でたたずむ鹿」/春日山原始林「滝坂の道」/元興寺「日本最古の屋根瓦」/薬師寺「南大門付近からの白鳳伽藍全景」/唐招提寺「金堂」/平城宮跡「平城宮跡の空」。

新八景の写真画像を眺めていると、写真映えというよりも、「電線が映り込んでいない」「空が広い」といった特徴があることに気付く。筆者は仕事柄、奈良を訪れた観光客にコメントをもらったり、奈良ファンの旅人に奈良の魅力を聞いたりする機会が多いのだが、実は「奈良の歴史や文化が好き」という言葉と同じくらいの割合で、上記の言葉をよく耳にする。

試しにX(旧Twitter)などのSNSで奈良について調べてみると、「広くて高くて青い空、奈良のたからもの」「奈良は空が潤沢だ」といった「空」を絶賛するコメントがたくさん出てくる。

そんな背景もあってか、「新・南都八景」のひとつに、「平城宮跡の空」が選ばれているのも興味深い。平城宮跡には電線がほぼ無いため、地元住民なら、ここで凧揚げをした経験のある人も多いだろう。それだけ遮るものがなく、朱雀門や大極殿などの奈良時代の復原建造物と一緒に、まるで奈良時代にタイムスリップしたかのような風景が撮影できるのだ。ここで奈良独特の写真が撮れると言っても過言ではない。

「新・南都八景」の唐招提寺「金堂」

また、奈良市の西部(西ノ京エリア)にある唐代の僧人・鑑真和上ゆかりの唐招提寺「金堂」の石田太一師も「奈良は空が魅力なのです。国宝であり、奈良時代(8世紀前半)の建物である金堂の瓦や鴟尾(しび)の向こうに広がる空は、当時の人々が目にしていたであろう風景と同じです」と、空に注目したコメントをしている。

唐招提寺だけでなく、そのほかの新八景もプラスアルファで「奈良の広い空」があるからこそ、より魅力的に見えるのではないだろうか。

ちなみに、新八景というからには、オリジナルの「南都八景」(東大寺の鐘、春日野の鹿、南円堂の藤、猿沢池の月、佐保川の蛍、雲井坂の雨、轟橋(とどろきばし)の旅人、三笠山の雪)が存在する。しかしながら、室町時代の史料に登場し江戸時代に広く知られるようになったこのオリジナルには、月、雨、雪の風景はあるものの、直接的な空の風景は選定されていない。

現代の私たちが自宅から空を見上げようとすると、まず目に飛び込んでくるのは、電線や電柱、そして現代的な建造物が多く、広い開放感を味わうのとは程遠い。だが、江戸時代の人々の目には、それらは映っていなかったので、あえて「空」を「〇〇八景」に入れる必要性が無かったのだろう。

この度選ばれた令和の奈良の新八景(新・南都八景)は、現代らしく「写真映え」を目的としているが、その「映え」を生み出す源は、電線といった現代的なもの(時代考証の上で推定復原された建造物は除く)が映り込まない「奈良の広い空」にあると言えるのかもしれない。

文/いずみゆか

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