余白で表現する伊藤ちひろ監督「答えが無いものに魅了される」

2023.5.6 20:00

「誰かの想い」が見える主人公の青年・未山(坂口健太郎) ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

(写真5枚)

◆「私は作品で語りたいんです、本当は」(伊藤監督)

──でも、伊藤監督が脚本を手がけた行定作品は、もうちょっと分かりやすいかも。

伊藤:それは脚本家として求められてきたんで。でも、ずっとプロデューサーから、表現は悪いですけれども、「もうちょっと観客に合わせて」と言われるのが、ずっと違和感があって。いや、人ってもっと映画を通して考えるだろうって。作品に触れるってそういうことじゃないでしょう、と。そういうのが自分の映画に出ちゃうのかな・・・。

──『ひとりぼっちじゃない』だって、あれだけ物語性に富んだ原作をご自身で書いておきながら、映画ではまったく異なる「余白」に富んだ表現をされている。

伊藤:そうですね。人の内面を一人称の日記形式で書くと全部語れるけど、普通、人の心なんて見えないじゃないですか。そのギャップを含めて、あの映画で表現してることだから。今すごく実感しています、2作品続けてキャンペーンしてると。もうちょっと答えがあるものが好まれるんだなぁって(苦笑)。

金髪の謎の男(浅香航大)と主人公・未山(坂口健太郎) ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

──説明的な映画、テレビに慣れているキャストのなかには、脚本を読んで戸惑われた方もいたんじゃないですか?

伊藤:うん、難しかったと思います。だから最初、それぞれのキャラクターについて話すことに結構時間を使ったかもしれないです。坂口くんはああいう感覚的な役をやるのは初めてだったと思いますけど、私が脚本を書いた『ナラタージュ』(「堀泉杏」名義、行定勲監督作品)では、私の想像していた以上のものを表現してくれたので。

──いわば悪役でしたが、素晴らしかったですよね。

伊藤:そうなんですよ。それ以来、この人ともう1回仕事したいと思ってきた気持ちが、結局私が監督として彼を撮りたいという気持ちにまで至ったという。

──行定さんも言ってましたもんね。坂口くんをもう1回撮りたいって。

行定:まぁ、僕より伊藤監督の気持ちが強かったんですね。

──今回、画作りに関しては抽象的というか、幾何学的というか。シンボリックな箇所がところどころにありましたね。未山が草鹿と初めて対峙する場面も、ワイドスクリーンの端と端を使って対面したり。

伊藤:そうでしたね。

──背景は真っ白でね。僕はああいうのにシビれるんですよ(笑)。また監禁場所のような古い蔵が左右両方にあって、そのあいだに借景というか、額縁庭園のように森がある。

映画『サイド バイ サイド』のワンシーン ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

伊藤:私は全然意識してなかったんですけど、スタッフたちに「シンメトリー協会」って言われてました(笑)。そんなにシンメトリーで撮ってたんだと思いましたね。自然と生理的に好む画がそうなってたのかも。

──こういったように、映画を通して考える、考えさせられることが多い、非常に作家性に満ちた映画であって。今どきの映画にある、観てるだけですべてがスーッと入ってくるものとは違う。

伊藤:私は作品で語りたいんです、本当は。

──伊藤ちひろ監督として出す作品は、この路線がいいと思います。

伊藤:でも、監督業はまだ探り探りです。こっちに戻ることは本質的だからいつでも戻れるし。今、好まれるような作品も一度撮ってみて、自分が本当に作りたいものはどっちなのか、ゆっくり考えたいと思います。

行定:監督だから悩んだりこだわったりして良いと僕は思うんですよ。そうあるべきだと思う。ただ、「その説明セリフやシーンを省くと、置いてかれちゃう観客もいるかも」と言っても、「それは描く必要がない」とキッパリ言うんです(笑)。

──ハハハ(笑)。

行定:僕自身も監督だから、「これで人は理解するだろうか?」って考えてながらいつも映画を作ってるんです。でも、伊藤監督はそれよりも表現したいことに注力する。それに対して「なんで?」と思う瞬間もあったけど、僕がそう思うのは「そりゃあ、俺もそうしたいけど・・・」っていう、作家としての羨望なんですよね。

映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』

2023年4月14日公開
監督:伊藤ちひろ
出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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