瀬名奪還に感涙も、実は鬼畜にして周到な脚本か【どうする家康】
古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。2月12日放送の第6回『続・瀬名奪還計画』では、松平元康(徳川家康)が前回に引き続き、今川氏真のもとから妻子を取り戻そうとする様が描かれた(以下、ネタバレあり)。
■どうする家康、瀬名を救い出す
今川氏真(溝端淳平)のもとで囚われの身となっている、妻・瀬名(有村架純)と子どもたち、そして義両親の関口氏純(渡部篤郎)と巴(真矢ミキ)を救うため、今川家の重臣・鵜殿長照(野間口徹)の2人の息子を捕らえた元康。
瀬名たちを連れて上ノ郷城に向かっていた氏真の元に石川数正(松重豊)を送り、瀬名の一族と鵜殿の息子たちの交換を申し出るも、氏真は激しく拒絶し怒りに任せて瀬名や数正らを斬首しようとする。
すると、幼い頃に氏真の世話をしていた巴が、「お気持ちが高ぶると抑えられず、ついわめき散らす。幼き頃から少しもお変わりにならぬ。そんなことだから、みな離れていくのです!」と叱責。さらに自分たち夫婦がここに残って成敗を受けるので、瀬名と子どもたちは元康の元へ返すよう訴え、氏純も長照の息子たちの命を助けるよう懇願する。
その申し出を拒否する瀬名だが、巴は「我らおなごは、大切なものを守るために命を懸けるんです。そなたが命を懸けるべきときはいずれ必ず来ます」と言いのこし、瀬名たちを送り出した。元康と氏真の立ち会いのもと、人質交換は無事に成立。駿府に戻った氏真は、父・義元(野村萬斎)の遺した鎧を前に、物思いにふけるのだった・・・。
■瀬名の奪還に祝福の声
失意で終わった前回からの続編で、見事にミッションコンプリート! となった第6回。上ノ郷城を攻める忍びたちのたぎるようなアクションもあれば、瀬名と両親、鵜殿一家、氏真などのそれぞれの親と子をめぐるドラマもあり、そしてなによりも家康と瀬名の第1話ぶりとなる再会に、思わず感動の涙を流した視聴者も多かったことだろう。
SNSでも「最後の関口家のご両親との別れにしんみりとしたけれど、瀬名無事奪還おめでとう!」「瀬名奪還を前後編でやった意味ありすぎる。むしろよくこんだけ詰め込めたな!」「みんながみんな苦しみ、考え、おこなった結末。こみ上げてくるものがある・・・まだ6話なのに涙腺が」などの声が上がっていた。
■なかなかの鬼畜にして周到な脚本
なかでも視聴者の涙を誘ったのは、前回で奪還計画をうっかり今川方にもらしてしまい、事態を泥沼化させた巴が、親戚筋となる氏真を叱責し、自分たちの命と引き換えに娘と孫の命乞いをしたこと。氏真を一喝したときは、「ここへ来て肝が据わって、さすが今川の高貴な生まれ」「『そういうとこやぞ氏真』を全部言ってくれた」とSNSは喝采。
ただ巴が瀬名に「おなごは大切なもののために命をかけるのです」という言葉は、のちの「悪女・築山殿」となる布石では・・・と予測した視聴者が多数。「まさしく築山殿になる呪いじゃん」「前回で巴ママの株を下げておいて最後に見せ場を作り、いずれやってくる『あの事件』へのフラグ立ててる脚本すごすぎ」との声が上がっていた。
ドラマでは数正の言葉からその死が暗示されたが、実際に関口夫婦はこの直後に「自害」したことが、史実に残っている。元康への愛情にあふれて、とても「築山事件」を起こすとは思えない今回の瀬名。しかしあまりにも重くて尊いこの自己犠牲を目の当たりにしたことが動機になるのなら、非常に納得できる話だ。もしそうなったとしたら、前回の『鎌倉殿の13人』の三谷幸喜にも負けない、なかなかの鬼畜にして周到な脚本である。
■「人間不信ヤンデレが加速」氏真を心配する声も
そしてもうひとつ、敵役の氏真を心配する視聴者の声も。家康への大きな信頼を裏切られたことによる複雑な愛憎に加えて、今回は戦国大名として非情になり切れない甘さや、家康も瀬名も完全に自分の元から去っていった孤独がたっぷりと描かれ、まさにもうひとりの「悩める殿」という存在感を大いに見せつけた。
SNSでも「駿府でのそれぞれの幸福な青春が本当に終わった」「元康への嫉妬と羨望の眼差しが氏真の孤独を痛いほど表していて、敵なのに切なくてたまらなかった」「めっちゃ嫌な奴に描かれているけど、みながみな裏切っていく地獄のような遠州悲劇のなかで、人間不信ヤンデレが加速しても致し方ない」と、怒涛のような同情の声が。
さらに、家康に歩み寄る瀬名や子どもたちを、背後から撃とうと思えば撃てたのに、結局それをしなかったことに「そこで撃てる氏真なら今の氏真になってないんだな」「信長だったら撃っちゃっただろうけど、氏真はなぁ・・・」という納得のコメントが続出。
また、後半は文字通り無法地帯の殺し合いだった『鎌倉殿の13人』と比較して、「これ鎌倉殿だったらソッコーで矢を放ってるだろうと思うと、戦いを繰り返しながらも人類は進歩しているのだなあ」「関口夫妻の最期があそこまででよかった。鎌倉殿だったら多分手土産として数正が2人分の首桶持たされて川渡ってたと思う」と、戦国時代の方がまだ紳士的・・・な声も上がっていた。
『どうする家康』は、NHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアム・BS4Kは夕方6時からスタート。第8回『わしの家』では、元康がついに「家康」と名前を改めるとともに、のちに対立をする「一向宗」に潜入する姿が描かれる。
文/吉永美和子
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