マジックが詰まった新作、スカートが目指す「ポップ」の境地
■ 音楽性を変えずにポップスを突き詰められるかを考えている
──そのあたりは、どういう点が功を奏したと思いますか?
やっぱり、それぞれの曲を書いている段階からあった「絶対に1つのアルバムにまとめるんだ」という執念と(笑)、『ODDTAXI』を普通に入れるって決めたときに「あと1曲足りない」となったですけど、それで『Aを弾け』(8曲目)を書いたのも良かった。あと、アルバムを通して聴いてなんか軽やかなのは、単純に7曲目以降はほぼほぼ2分台の曲が続くみたいな。それが良かったのかなと思います。
──確かに曲の短さというのは全体的にありますね。『Aを弾け』は2分を切っていますし。
そうですね。長い曲ももちろん好きなんですけど、自分がポップ・ミュージックに対して何かを投げかけるんだったら、自分は短い曲も好きなんで、そっちかなと思ってやっていますね。
特に、コロナ禍のなかで僕は、初めてペイシェンス&プルーデンス(※1956年に『いちごの片想い』をヒットさせた、米国の14歳と11歳の姉妹によるガール・ポップ・デュオ)を聴いてなんて素晴らしいんだと思ったし、自分はyes,mama ok?というバンドがすごく好きなんですけど、パッと終わるような曲が何曲かあって、そういうところに憧れていたんですよね。
彼らから教えてもらったロックバンドのゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツみたいなギュッとしたポップ感みたいなね。そういうものに自然と回帰していたのかな、というのはちょっとありますね。
──なるほど。90年代のオルタナ・シーンには短い尺でポップの粋を表現し切るようなバンドが結構いたと思いますけど、最近はあまりいないのでむしろ新鮮とも言えますね。音もシンプルだし。
ええ。バンド以外の音はそんなに入れないでおこう、というのが前提としてありますね。
──気分的にもアレンジに凝ったりという感じではなかった、というか。
というより、僕の好きなアーティスト・・・たとえばムーンライダーズやYMOにしても、アルバム1枚ごとに(音楽性が)ガラッと変わるじゃないですか? それがカッコ良過ぎて「真似したくない」っていう感じです。だったら、僕は真逆を行くしかないと。
だから、前のアルバムを聴いても今回のアルバムを聴いても、音の印象はそんなに変わらないと思うんですよ。なんだったら10年前でも、音の粗さとかはあるにせよ、たぶんそんなに変わってない。でも、実はそれを目指してる(笑)。
──(笑)。変わらないままどこまで深化していけるかがスカートであり、先人へのリスペクトでもあるというか。
変えないでどこまでポップスを突き詰められるかというのは、実は考えてる。
──凝りに凝ったアレンジとか、お好きそうだけどあえてしませんもんね。
今のところはしてないですね。ただ、よーく聴くと凝ったりはしているんだけど、あんまり気付かれないようにはしていますね。例えばアレンジというより構成の話ですけど、2曲目の『駆ける』は、実は繰りかえしが1回もないんですよ。Aメロはちょっと似てるんですけど実は繰りかえしではないし、サビも1回しかない(笑)。
そういうことをしていてもポップ・ソングとして成り立っているものが出来ると、めちゃくちゃうれしいんですよ。『Aを弾け』とかも、実は4分の3拍子と4拍子を行ったり来たりしていたり。
──なるほど。XTC的な偏執的なスタジオ・ワークによる凝り方などとは違うんですね。
XTCもアルバムごとに表情が違うじゃないですか? 僕もそういうアーティストになるんだろうなって、学生の頃とか思っていたんですよ。でも、スパークスもそうですけど、僕の大好きな偉大な先輩はホントに時代によってアプローチを変えていて、そのときそのときにやることが違うので、じゃ(スカートは)やんない方がいいなというか(笑)、それは真似できないなと思ったんですよね。
もっと身近な世代だとceroとかもそういうバンドじゃないですか? そういうのもあったかもしれないですね。もうアップデートしていくのはceroに任しちゃおう、みたいな気持ちはどこかにあったかもしれないです(笑)。でも、個人としては、それが自分なりの諸先輩方への敬意に繋がるんじゃないかな、と思っています。やれることだけをやっているのかもしれないですけど、気持ちのうえではそうですね。
■「純然たるポップ・アルバムが初めてできたんじゃないかな」
──でも、今回の『SONGS』は、聴いていてスカートの本質が最も明快かつストレートに出たアルバムであるような印象すら受けました。
そんな感じがしますよね。なんかもっと判りづらくてバラッとして、いい曲が入っているのに聴きづらいアルバムになってしまうんじゃないかって正直思ってたんですけど、全然そうはならなかったんですよね。それがやっぱりうれしい。純然たるポップ・アルバムが初めてできたんじゃないか、くらいの気持ちにだんだんなってきた(笑)。
──そんな会心の1枚を完成させたのを経て、アルバム発売に伴うツアーも2023年3月20日の「梅田クラブクアトロ」(大阪市北区)からスタートすることが決定しています。
ぜひ集まってくれるといいなと思っています。大阪のオーディエンスの熱さを体感したいです、と伝えておいてください。アルバムをレコーディングしたメンバーで回る予定です。『ODDTAXI』はPUNPEEさんがいないと出来ない曲なので、まだやれるかどうかはわからないですけど。
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