新海誠監督の集大成「10年間の思いを2時間の作品のなかに」
「街や場所を悼みながら旅をする人の物語」(新海監督)
──今回の『すずめの戸締まり』も、若い男女が出会い冒険の旅に出るという設定です。これまでの新海作品と共通する部分もありますが、今作では主人公の2人が日本各地をめぐって、その場所、土地を悼むという行動が描かれています。これはどういったことからの発想だったのですか?
着想は、僕のここ10年ぐらいの生活実感のなかから出てきたものなんです。東京で暮らしていても、ふと気づいたら空き家が増えているし、実家のある長野でも帰省するたびに、人口が減って、その分、緑と動物が増えている。
かつて人の手が加わり畑になっていたエリアが縮小されて、その逆に、動物の侵入防止の柵はどんどん人間側に迫ってきている。人間の生活エリアそのものが小さくなっているんだなという実感があったんです。
──なるほど。
そこで思ったのは、そういうとき人間は、ものを言わずに消えていくのかな、ということ。家を建てるときや街を作るときには「地鎮祭」という儀式があるなら、その反対に、土地や街から人がいなくなったりするときには、最後にその土地に対してなにか挨拶なり儀式なり、あるいは思いや気持ちの整理をすることが必要なんじゃないか、と。
そうやって人知れず、僕らに代わって人が消えた土地を鎮めたり慰めたりしてくれる存在がいたら、それは映画になるんじゃないかって思ったんです。それが、街や場所を悼みながら旅をする人の物語、という構想に繋がりました。
──ここ10年というのは、近いところではコロナ禍にも見舞われた時期ということになりますね。
災害というのは、実は人がいなければ生まれないんですよね。人がいなければ大地が揺れているだけだし、ウイルスが発生しているだけ。災害はある種、自然と人との共同作業とも言える。そこで、その共同作業の間、人と災害の間に立つような役目を担う存在がいたら、と。
──たしかにそうですね。
場所を悼む存在を通して、例えば自然の猛威などもそうですが、個人の力ではどうしようもないことが起こったとき、どうやって前に進めばいいのか考えることができるのではないか。それをアニメーションで描けないか、というのが今回のテーマでした。
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