増える児童虐待、映画に込めた「知っていかなければ」という願い

2020.10.15 19:15

監督・主演をつとめる上西雄大と、少女役をつとめる小南希良梨(C)yudai uenishi

(写真6枚)

「僕たちもこの問題を知っていかなくてはいけない」

──虐待をされているにも関わらず、自分を責めてしまう。そんな気持ちを抱えたまま成長して、親になることもあるわけですね。

「自分を虐待した親のことを許すことができて、なおかつ自分も許すことができないと、負の連鎖は断ち切れない」と聞きました。それってものすごく悲しいことですよね。

だからこそこの映画では、かつて義父から暴力を浴びせられていた金田が、同じように虐待を受ける鞠を見て、かつての自分を重ね、彼女を救い出すようなストーリーを発想しました。負の連鎖ではなく、「同じ経験を持つ者同士が助け合えるのではないか」と。

──ただ、虐待の当事者にこの映画をどう届けるか、観てもらうための働きかけなどが難しいですね。

楠部先生からは、「まず多くの人が虐待について関心を持つことだ」とお伺いしました。先ほどもお話ししたように「虐待のおぞましさ」をアピールしすぎると、目を背けられてしまう可能性の方が高い。

残念なことでもあるんですけど、映画として考えると、「児童虐待」や「DV」を押し出しすぎてはいけないんです。ただ、そうやって間口を広げたおかげか、新型コロナウイルスの影響が出る前に東京で上映した際は多くの方にご覧いただき、思わぬ出来事もありました。

──どういうことでしょうか。

キャスト、スタッフらで上映後にサイン会をおこなっているとき、ひとりの鑑賞者が「実は自分の隣の部屋で虐待がおこなわれているようなんです。この映画を観て、勇気を出して警察に相談をしてみようと思いました」とおっしゃられたんです。

そのとき、僕らはみんな泣きました。この映画に求めたものは、そういうことじゃないかって。いろんな環境のなかで、虐待に手を染め、また虐待を受けている人がいる。もしこの映画を観て、自分なりに自覚できることがあったら、直接僕に連絡をして欲しいです。一緒に考えてあげたい。

左が母親役を演じる古川愛。子どもには、あえて状況を説明せずに、「とにかくうれしい気持ちを」といったように演技指導をしたとのこと。(C)yudai uenishi

──これも映画で描かれていますが、恋人男性や夫から暴力を受けている母親が、そのストレスを子に向けてしまうこともあります。

「この人がいないと、私は何もできない」という依存や洗脳に似たパターンが、そうさせているケースもあります。悲しい事件になるケースは、そういう男の人と闘えなかったことが多い。

暴力を振るう男性を否定できれば子どもを守れる。でも腕っ節ではかなわないし、そこには恐怖もあるはず。

──この映画では男性の暴力の影響が児童虐待のきっかけとして強くあらわれています。子どもの体にアイロンを焼き付けるところは、実際にある話ですよね。

楠部先生からも、アイロンの焼け跡を体につけている子がたくさんいると聞きました。アイロンって、スイッチを押してもすぐに熱くはならないじゃないですか。熱するまで時間が必要。

でも、それがどういうことかというと、虐待をするためにわざわざアイロンを温めているんですよね。そのことを聞いたとき、僕はこのインタビューでは口にできないような言葉が浮かびました。だって、アイロンが温まっていくあいだ、子どもにとっては恐怖どころか死にたいくらいの時間ですよ。その話を聞いて、耐えられませんでした。

──ひとりでもそういう状況の子どもを見つけ出したいですね。

以前までは僕も、虐待のニュースがテレビで流れると、つらいからチャンネルを変えていた。でもそれがダメだったと気付きました。楠部先生たちは、「アイロンを押し付けられているような子たちがたくさんいます」と声色を変えずに普通のこととして言うんです。

そういう現実を受け入れながら闘っていらっしゃる。確かにショックなことなんですが、僕たちもこの問題を知っていかなくてはいけない。この映画が、そのための第一歩になって欲しいです。

『ひとくず』

監督・編集・脚本・プロデューサー:上西雄大
出演:上西雄大、小南希良梨、古川藍、徳武未夏ほか
配給:渋谷プロダクション

関西の上映館:テアトル梅田・京都みなみ会館(10/16〜)、イオンシネマ茨木(11/13〜)、元町映画館(上映時期調整中)

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