増える児童虐待、映画に込めた「知っていかなければ」という願い

2020.10.15 19:15

監督・主演をつとめる上西雄大と、少女役をつとめる小南希良梨(C)yudai uenishi

(写真6枚)

2020年3月、児童虐待事件が前年から4割増加したと「警察庁」によって発表されたが、その後、新型コロナウイルス対策で外出自粛・在宅が増えた影響か、1月からの半年間で児童相談所が対応した件数は過去最多ペースにのぼっているという。

そんな深刻化する「児童虐待」を題材にしながら、人間本来の温かみを浮き上がらせた映画が『ひとくず』だ。監督を務めた俳優・上西雄大が主演も兼ねた同作。主人公の泥棒・金田が、空き巣に入った先で虐待を受けている女児・鞠と出会い、彼女を救うために奮闘する。スター俳優が出演しているわけではないが、しかし丹念に作り上げられた人間ドラマが国内外の映画祭などでも高く評価されている。

一度は3月で東京で公開がスタートするものの、映画館の休館に伴い中止に。ようやく再開され、関西では大阪で10月16日から上映される。そんな同作について、上西監督に話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

「児童虐待の現状があまりにショックで」

──この映画は「児童虐待」を題材に・・・。

あ、その話題に移る前にまずお話ししたいことがありまして。確かに『ひとくず』は、「児童虐待」を題材にしていますが、あくまで入口であって、それだけではないということをお伝えしたくって。

──つまり、どういうことでしょうか。

僕としては、人間の良心、家族の温かさ、そこから救いを得て感動できる映画を作ったと思っているんです。児童虐待やDVをテーマにした映画は世界中にたくさんありますが、生々しさのあまり、おぞましく感じるものも少なくない。

でも、そのイメージがついてしまうと、怖さを感じて映画鑑賞を躊躇する人もいるはず。そういったテイストとは違い、感動できる映画としてみなさんにご覧になって欲しいんです。

──なるほど。

あと、こちらとしては意図せずして笑ってもらえる箇所もあるんです。人間のなかに潜んでいる滑稽さみたいなものをとらえているので。たとえば主人公・金田が、鞠を学校のいじめっ子から守るところ。

相手の男の子のランドセルを思いっきり蹴っているシーンがあるのですが、ガタいの良いスタッフにランドセルを背負わせて代役をつとめてもらったので、僕も思いっきり蹴れたんです。

──あのアクションのカットは勢いがありましたね。

蹴る場面の遠慮のなさがウケたのか、ある映画祭で上映したときに爆笑が起きて。さすがに僕も、「この人たち、ヒドいな」って苦笑いしましたけど。本来ならば、あの場面は、暴力を暴力で解決しようとしていて、ただ金田は鞠を守るためなら何でもするという、複雑な状況が絡み合うところなんです。

──鞠の母親の恋人男性を演じた役者も、ヒドい感じが出ていますよね。

あの恋人男性も本当にヒドいやつですよね。演出として、「ちゃんとしゃべらないでほしい」と言いました。滑舌を悪くしてください、と。少しでもちゃんとしゃべったら、NGを出していました。

演じてくれた税所篤彦くんは実際ものすごく心やさしい男なんです。そんな彼がヒドい人間をちゃんと演じると、余計にキャラ作り感が出てしまいそうだし、生々しくて残酷になりすぎる。あれくらい大げさな方が映画としてはちょうど良いのかなって。

情報過多となる世のなかで、「今の子どもたちは、自分たちが子どもだった頃よりも大人にならざるを得ないスピードがはやいような気がする」と上西監督

──そういったエンタメ性をこめた上で、「児童虐待」という現実的なテーマに向き合ってほしいということですね。

そうです。実はもともと、「児童虐待」を題材に映画を作ろうとはしていなかったんです。この後に上映が控えている「発達障害」をテーマにした映画のために、児童精神科医師の楠部知子先生を取材したのですが、ひと通り話を聞き終えた後で、「虐待について知っていますか?」と尋ねられました。

そして準備も何もないまま児童虐待についてお伺いし、その内容があまりにショックで、その夜は怒りで眠れず「救いがあるとしたら、どんなことだろう」と考えていたんです。そうしたらプロットを思い立ち、夜中2時くらいに「これはもう書こう」と脚本にとりかかり、昼12時くらいには書き終えました。

──楠部先生のどういったお話が印象に残りましたか。

よく、「虐待の環境で育った人は、自分の子どもにもそれが連鎖する」と言われるじゃないですか。この映画でも、鞠の母親は「自分は親から優しくされたことがないから、子どもにどう接して良いか分からない」と暴力を振るう。

でも、「虐待を受けて育った人が、自分の子にも同じことをするんじゃないか」という先入観だけで、問題と対峙してはいけない。その人がどういう気持ちで虐待を行なったかには、いろんなケースがある。無意識に暴力を振るっている場合もあります。

また、虐待を受けた人たちのなかには、「自分が悪いことをしたから虐待を受けた」と自己否定の意識が生まれていることもあるそうです。

『ひとくず』

監督・編集・脚本・プロデューサー:上西雄大
出演:上西雄大、小南希良梨、古川藍、徳武未夏ほか
配給:渋谷プロダクション

関西の上映館:テアトル梅田・京都みなみ会館(10/16〜)、イオンシネマ茨木(11/13〜)、元町映画館(上映時期調整中)

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