映画評論家が観る朝ドラ「華のある存在が」
第16週「熱くなる瞬間」
喜美子のモデルである神山清子については、高橋伴明監督の映画『火火』(2004年、演じるは『おしん』の演技怪獣・田中裕子!)でしか知らないのだけれど、ようやくその世界に近づいてきた。
ま、朝ドラにおける「モデル」はあくまでも「モデル」に過ぎないのであって、伝記どおりに進んだためしがないから、この後の展開は知ったこっちゃない。
ただ、この16週でようやく陶芸の世界に本格的にヒロインが打ちこむようになったのは、遅きに失したものの面白みが増してきたってものだ。
その導火線となったのが、八郎の弟子となった松永三津(黒島結菜)である。彼女によって八郎は変わった。
兆候は感じられたものの、いきなり妻の陶芸家的才能への嫉妬と敗北をぺーぺーの弟子に吐露してすっきりしたのか(このいきなりさはドラマ的には問題あるけど)、「芸術は喜美子に任した」とあっさり表明もして、彼は芸術陶芸からレディメイド的陶芸へと移行するのだろう。
また三津も、お互い二流にしかなれない才能である師匠に対するシンパシーもありロリータ的ファム・ファタル(魔性の女)の本性を加速的にあらわしてくる。穴窯の炎に必死の喜美子を横目に、傍らで眠る師匠にキスしようとする黒島結菜にはニヤニヤだ(彼女は大河ドラマ『いだてん』も、映画の『カツベン!』も素晴らしかったねえ)。
でもこの展開じゃあ、僕が知るところ朝ドラ史上最高傑作『カーネーション』の尾野真千子と綾野剛みたいな次元までは踏み込まないんだろうけどね。三津もまた一般的にはウザいキャラだろうし、それは僕も認めるが、黒島結菜はただそれを絶妙に演じているに過ぎない。
とにかく八郎は妻のために穴窯を造る。喜美子がまだ子ども時代のエピソードでいい味出してた村上ショージの設計図と試案を基にして・・・、というのはちょっといい伏線だ。
ここから喜美子がどんな作品を造りあげていくのか、それを朝ドラという市場で、作品の芸術的価値が万人に判るように示していけるのかは興味あるところ。また三津と百合子がちょいとシスターフッド的な関係を築きはじめたのも楽しみではある。
文/ミルクマン斉藤
(本稿は16週の放送終了直後に寄稿されたものです)
喜美子が思い描く作陶のため、穴窯作りに奮闘した第16週。続く第17週(1月27日〜2月1日)では、穴窯の炎に苦戦する喜美子が描かれる。
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