映画評論家が観る朝ドラ「華のある存在が」

2020.1.27 19:00

第1回放送冒頭より、窯から吹き出す炎に驚く喜美子(戸田恵梨香)

(写真5枚)

数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。今期の『スカーレット』についてどう観ているのか、第16週(1月20日〜25日放送)までを鑑賞して思うところを訊いた。


「まさに華がないのが致命的」(ミルクマン斉藤)

なんとも突然、編集部から持ちかけられた朝ドラレヴュー。僕のように映画評論を主にしている者にとっても、ここ数年見逃せないTVドラマの筆頭格が朝ドラなのである。

とりわけ新人女優発掘の目利きは結構なもので、近年では『あまちゃん』の能年玲奈に橋本愛に松岡茉優、『あさが来た』の吉岡里帆に清原果耶、『ひよっこ』の松本穂香などは大金星。

朝ドラ出演以前に印象に残る作品はあったものの、それ以降一般の注目を集めることになった女優となれば、土屋太鳳やら有村架純やら芳根京子やら伊藤沙莉やら枚挙にいとまがない。

で、今期の『スカーレット』だが、今のところそういった新味がまだ見受けられないのが残念。あえていえば大島優子なのかも知れないが、彼女はAKB48卒業後、すでに映画の世界で着実に実績を積んでいる。

第50回のワンシーンより。熊谷照子役を演じる大島優子 ©NHK
第50回のワンシーンより。熊谷照子役を演じる大島優子 ©NHK

しかし、彼女のように「華のある」存在が今回のような作品にはいかに貴重なことか。なんせ全体的に「華」が決定的に欠けているのである。

その筆頭が八郎役の松下洸平。出演歴を眺めるとけっこう観ている作品はあるのだけれど彼のことはまったく記憶にないことが(僕的には)証明するように、メインキャストなのに地味すぎる・・・というか、まさに華がないのが致命的。

確かに演技は拙くないが表情が数種類しかなく観ていて飽きる。まあ、ツイッターなど眺めると彼に「色気」を感じる女性は多々いるようだけど、ただ意思の弱さを感じるばかりで、僕にはてんで解らないなあ。

戸田恵梨香との夫婦漫才ふうな掛け合いは悪くないが、楽しいというまでには至らず、まったりと冗長。推進力というものが全然ないのだ。そもそもドラマにダイナミズムを欠いたまま、半年過ぎてきて困っているのだが。

キャラクターがウザ過ぎるのも問題だ。なんだかんだ言って家族に愛されていたらしいお父ちゃんは、僕にはただ横暴で理不尽な男にしか見えなかったし、戦火のトラウマを抱えているらしい次女・直子も、同情には値するが妙齢に達するともはやサイコ。信作くんも優柔不断でちゃらんぽらんな、あまりにも軽い男でしかない。

つまりかわいげがないのだが、それぞれを演じる北村一輝、桜庭ななみ、林遣都は「そういうキャラ」を巧みに演っているだけなのだからさほど罪はない。ほとんどは脚本・演出のせいである。

第84回のワンシーンより。信作(右・林遣都)にあることを言う百合子(福田麻由子)©NHK
第84回のワンシーンより。信作(右・林遣都)にあることを言う百合子(福田麻由子)©NHK

もっとも信作くんは、三女・百合子というこのドラマにしては貴重なニュートラル的存在によって、このところかわいさが増しているが。百合子役の福田麻由子は子役時代から確かな演技力を持つチャーミングな女優で、今回のような混沌のなか、しっかり脇を固めていて頼もしい。

そういえば肝心のヒロイン・川原喜美子=戸田恵梨香に触れてこなかった。主役なのになんせ見せ場がないんだもの。周囲に流されるだけのヒロインの、どこに魅力があるのか。そこそこ華があった大阪時代のエピソードも水野美紀や三林京子や木本武宏に見せ場を奪われっぱなしだったし。

しかし今週、いささか変動があった。ついに彼女が我を剥き出しはじめたのである。

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