宮沢氷魚「当たり前の恋愛が描かれている」

『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』など、恋愛に惑わされる人々の様子を描き続けてきた今泉力哉監督。最新作『his』で映し出したのは、8年ぶりに再会したゲイの2人の関係性。その主役を務めるのは、ドラマ『偽装不倫』で脚光をあびて、映画初出演の宮沢氷魚(ひお)だ。
映画では、大学時代に恋人・渚から突然別れを告げられ、その後、偏見の目を恐れて田舎町へ移住した宮沢演じる迅(しゅん)。そんなある日、渚が姿をあらわす。渚は迅に、離婚調停中の妻がいること、そして彼女との間に娘がいることを告白。迅は、複雑な心境に駆られながらも渚、空との同居生活をはじめることに。多様性が認められる社会作りが叫ばれるなか、『his』はどのように受け止められるのか。同作について、宮沢に話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ 写真/わたなべよしこ
「正解が見つからなかったので迷いがありました」
──田舎で暮らす迅の生活と、描かれる人々との関係性が実に自然でした。そのなかで、ひとつ気になったところがあったのですが、渚(藤原季節)がお風呂から「お湯が出ない」と言いにきて、迅が直そうとするシーンがあるじゃないですか。で、しゃがみながら点検して、「無理だ」となって立ち上がったときに棚に頭をぶつける。ゴンッて。あれってもともと台本にあったんですか。
いや、実は本当に頭をぶつけちゃったんです。すごく痛かった。頭が当たって思わず「イタッ」となって、「これはNGだろう」と思っていたら今泉監督から「最高だったよ」と言われて。映画を観たら、そのまま使われていたのでびっくりしました。

──やっぱり。あれをそのまま使うところが今泉監督らしい。『愛がなんだ』など過去作を観ていても、今泉さんはご自身にとって想定外の出来事や芝居を受け入れる監督ですよね。
役者としては、監督のなかにすべてのプランがある人の方が、芝居そのものはやりやすい。でも決められたことをそのままやるのってあまり楽しくない。
その点、今泉監督は僕たちに考える時間を与えてくれました。僕たちも、「このシーンはこういうことなので、こんな芝居をやりたいのですがどうですか」といろいろ尋ねました。ただ、監督は「うーん…」と悩み込むことも多かったです。
撮っているときはもちろんのこと、撮り終わってからも考えている感じ。監督って場面を撮り終えると「オッケー!」「カット!」と声を出すけど、今泉監督の「オッケー」は何だかスッキリしないんです(笑)。
──ハハハ(笑)。
良いものを作るためとは言え「あのシーンはあれで良かったのかな」と常に悩むので、最初は不安なところもありました。特に、田舎町で暮らしている迅のもとに、渚が娘を連れて現れる場面は、僕のなかでも正解が見つからなかったので迷いがありました。
──迅にとっては、一方的に別れを告げた渚が、数年後、娘を連れて自分のもとに戻って来るという複雑な心境の場面ですね。
どんな表情を浮かべて良いのか分からなかったし、どういう距離感で接するべきか全然つかめませんでした。ただ、これは監督も想定外だったそうなのですが、季節くんが思っていたよりソフトな芝居をしてきたんです。そうすると、何だか自然と相手のことを受け入れられる雰囲気になりました。

「綾野剛さんは、『氷魚はほかにはないものを持っている』と・・・」
──そこから2人の関係が再び始まっていきますが、迅はゲイへの偏見や差別の視線、言葉を恐れて自分の素顔を隠そうとする。そして苦しみますよね。そんなとき、近所に暮らす老人・緒方(鈴木慶一)の「だれかと出会って影響を受けるのも、人生の醍醐味」という言葉が、変化をもたらすことに。宮沢さんは、自分の人生において、そんな大きな影響を与えてくれた人はいますか。
綾野剛さんですね。僕はクォーターなので、よく外国人扱いされていました。インターナショナルスクールに通っていたのですが、別の学校の生徒から「変なやつがいる」と言われたりして、その経験をずっと引きずって生きていました。
でも、剛さんは、「氷魚はほかにはないものを持っている。ここにいるだけで存在価値がある。そのままのお前でいてくれ」とおっしゃってくれて。「いいんだよ、そのままで」なんて初めて言われたし、心が救われました。剛さんは僕のことを肯定してくれたし、芝居の面でも気づかなかったところを引き出してくださいました。自分にとって影響力のある人です。
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