西川美和監督が語る新作「永い言い訳」

「男性は、怖くて書けないでしょう?」(西川美和監督)
──ただ、それで考えられた「別れ」の設定が、夫が浮気している最中に妻が事故死するというもの。これはキツイですね。
大阪のインタビュアーの方はそこに食いつく人が多いですね(笑)。男性はこの設定、怖くて書けないでしょう? だから私が書いたんです、一番嫌な別れ(笑)。映画は「掴み」が大事ですから。
──確かに。その一番嫌な別れをしてしまう主人公・衣笠幸夫に、本木雅弘さんを起用したのは、どういったことから?
前から一緒にお仕事したい方だったのですが、これまでは合う役柄がなくて。今回の主人公は年齢設定とか役のイメージとか合うなと思いお願いしたんです。結果的には、もう主人公の幸夫は、本木さん以外に考えられません。これはご本人もおっしゃてることですが、本木さんと幸夫はリンクしている部分がかなりあったと思います。でも、その分、演じるのは大変ですよね。ある意味、人間の内面をさらけ出すような役でしたし。

──いい面でも悪い面でも、自分と重なる部分が多ければ多いほど、それを外に出さなければならない役は嫌でしょうね。
そう思います。本木さんもそれをやるんだという決意で現場に来られるのですが、いざカメラの前に立つとやはり相当抵抗がある。私もなんとか引き出そうとするので、2人して七転八倒の苦しみみたいな(笑)。でも、最後は本木さん本人が持っている人間らしさ、苦しみながらも魅力的で、誰もが共感して応援したくなる感じ、その力を借りて、主人公を具現化できたように思います。
──確かに、幸夫は嫌なところもたくさんある男だけど、どこか憎めない、不思議な魅力があります。その幸夫の相手役である、お互いに妻を亡くした男・陽一を演じた竹原ピストルさんがまた素敵でした。
竹原さんはオーディションだったのですが、満場一致で決まりました。幸夫役には本木さんが決まっていたので、陽一役が既成の俳優さんだとどうしても本木さんの引き立て役になってしまう気がして。誰か全然違う生き方をしている人の方が、面白い化学反応が起こるんじゃないかと。たとえば『どついたるねん』のころの、赤井英和さんみたいな。そんなときに竹原さんにお会いして、見た目もイメージ通りだし、愛情表現が真っ直ぐなのも陽一らしくて。ただ、本当は竹原さんは、陽一よりずっと繊細で、人の気持ちも汲む人ですけどね。
──そういえば、竹原さんもボクシング経験がありますね。
そうそう、その身体性も魅力でした。幸夫はすぐに頭でものを考える、いわば頭だけが肥大しているような人物で、一方、陽一はちゃんと自分の足で人生を踏みしめている、その対極性でもぴったりでした。

──そして、幸夫の亡くなる妻を深津絵里さんが演じています。深津さんを起用されたのは、どういったことからですか?
まず、この奥さんの役がすごく難しいんです。ほとんど冒頭にしか出てこないのに、それでいて主人公の物語の根っこにこびりついて離れない重しのような役ですから。観てる人にも忘れられてはいけないし、かといって大立ち回りがあるわけでもないから、日常的なシーンだけで心に入り込む強さ。さらに言えば、もう少し生きていて欲しかったなと思わせる、人を惹きつけるものがある人。そう考えていけば、深津さんかなと。
──たしかにぴったりの配役でした。
深津さんって、いまだにベールに包まれている部分があって、まだまだ未知というか、演じている役の人物も、また深津さん自身もなにを考えているのかなって観客に想像させる余地のある人ですよね。本木さんが、自身をさらけ出して演じるのに対し、深津さんは絶対に深津絵里というものを出さないし、その役の人物についてもすべて自分で考えてきて、相談も一切しない。今回初めてご一緒したのですが、強烈な印象を受けました。
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