よう知らんけど日記

第94回 二月堂で出ました!凶!!

2016.1.25 13:05

11月☆日
相変わらずケーブルテレビで昔のドラマ。中期ぐらいまでの松田優作って、ほんまに原田芳雄そっくり。 「あぁ? あんたねぇ」、音声だけ聞いてたら完全に原田芳雄。完コピ? っていうくらい似てる。松田優作は原田芳雄が好きすぎて原田邸の隣に引っ越してきて、原田芳雄が引いた、というエピソードがあるくらいなんよね。『探偵物語』の後半の、コミカルな感じが板に付いてきてから、やっと原田芳雄じゃなくて松田優作の個性が確立してくる。『探偵物語』は第24話の「ダイヤモンド・パニック」がむちゃくちゃでおもろいなあ~、と思ったらわたしの偏愛映画『殺しの烙印』と同じ、大和屋竺が脚本やった。天本英世の手下がソフトバレエみたいやし(偏ったたとえですみません)。

11月☆日
時差日記ついでに、7月にやってた『ねほりんはほりん』(Eテレ)て番組のこと書いとこ(何で思い出したかというと、これを書いている1月3日に第2弾が放送されるので)。YOUと山里亮太が司会で、顔出しNGなおもろいネタを持ってる人に根ほり葉ほりインタビュー、それをEテレ得意の人形劇(ハッチポッチステーション系)で再現という番組。司会の二人は掘るからモグラ、ゲストはなぜか豚ちゃんでした。1人目の出演者はいわゆる「プロ彼女」。有名人ばかりとつきあうけど肩書きは「一般人」という謎の存在ね。このときの人は、スポーツ系が専門で、元彼はサッカーの日本代表、その後結婚した相手も野球選手だそうで。まずは、六本木や麻布の有名人御用達の店のVIP席にいつもいるような女の子と友達になり、そのつてで有名人が来るパーティーに顔を出し、スポーツ系の人はとにかく肉体をほめ、肉体を維持するための料理ができることをアピールし、かつ肉体を後世に残すためにすぐ妊娠できると胸や腰を強調する服装で示す、と、普段自分の周りにいないタイプだけに、へえ~、とおもしろく見てた。でも後半、なぜ自分がそうなったかになると、コンプレックスがあって地元では中学の頃いじめられてて、自信をつけて見返したくて、というような内容になって、わたしとしてはあんまり興味のわかない話に。うーん、承認欲求から有名人と結婚したいっていうのはよくわかるけど、そのことと、「妊娠できます」アピール技とか肉体系が好きとかいうことってつながるようでつながらへん。わたしは前半の細部というか、類型に収まらないようなその人の話し方とか、そこでいきなり「妊娠」てなんでやねん! とつっこみたくなるような感じがおもしろかったんやけどなー、と思ってたら、ネットを見ると後半のコンプレックスを克服したくて、という話に感心している人も多かって、そうか~、と考え込んでしまった。

「今こうなっているのは、実はこんな過去があったから」という、それは「物語」なわけやけど、なんで物語が受ける=必要とされてるかっていうと、人間て納得したいんよね。ちょっと極端な例になるけど、たとえば殺人事件があったとして、わけのわからん理由で、もしくは理由もなく何となく殺した、って納得いかんやん。つまり、怖いやん。いつ誰が、もしかしたら自分が殺し殺されるか、わからんようになるから。納得できるような「物語」があったら、殺される、殺す理由があったんやな、と、そしたら、殺す人も殺される人も自分とは関係がないし、その「理由」がない自分は殺すことも殺されることもないから安心やもん、とそこまで図式化してしまうとそれはそれで「物語」(世間の人は「納得したいのやなと思うことで、わたしが「納得」している)なのやけど、なんか結局「物語」ってあとから人(当事者であれ他人であれ)が勝手に作るもん=解釈ちゃうかな、とは思う。物語によって救われることはあるし、必要な物語もたくさんあるけど、わたしは物語からはみ出すもの、物語になりそうでならへんようなところ、できへんところを、小説に書きたい。

11月☆日
思い出し脱線ついでに、女子の体重の話をこの日記でも前に書いたけど、『クローズアップ現代』(NHK総合)でも現代女子のやせすぎについて特集してた。マネキンの業者の人が、マネキンがどんどん細くなってて、こんな細くしてええんかな、と不安になりながら作ってる、て話が衝撃やった。確かに、マネキンの後ろに回ったら洗濯ばさみで服とめてたりするしね。
そして、ヨーグルトやらナッツやらしか食べてへん食生活が危険な女子が取材されててんけど、食べなくなったきっかけが、アメリカに留学して帰ってきたときに、周りの友達に「なんでそんなに太ったの~?」って言われまくってショックだったから、と言うてはった。あのな、そんなん言うのは友達とちゃうし、気にせんとき。「なんで」て、アメリカ住んどったらそら太るわ! 1枚400キロカロリーあるクッキーしか売ってへんし! なんでも激甘、高脂肪の特大サイズやし!
40歳すぎて思うのは、人って人のこといろいろ言うけど、不本意やのにその人の言うとおりにしたとしても、なんも得るもんない。人のこととやかく言うてくる人は、やせたらやせたでまた「やせすぎて怖いよね」とか言いだすやろし。人の言うこと、人の目を気にして、なにか行動したorしなかったとして、ぜんぶ自分のせいになる。勝手なこと言うた人がそのことに責任とってくれるわけやない。ていうか、言うたことさえ覚えてへん。だから、自分の思うとおりにするのがいちばん、と思います。

11月☆日
奈良県立図書情報館で、いままでにも何度か写真展をしている「りす写友会」でパノラマ写真の展覧会を開催。会期中のイベントとして、りす編集長の藤本智士さんはじめ参加メンバーによるトークと、佐野史郎さんとわたしでの朗読会をしました。わたしはこの数年来パノラマ写真ばっかり撮ってるのですが、2014年に「りす写友会」のメンバーで久々にイベントをしたときに、パノラマを撮影しあって盛り上がり、パノラマの判型って掛け軸とか絵巻っぽいよね、という話にもなって、奈良での展覧会開催につながったのでした。わたしは街角をフツーにぐるっと撮るだけやってんけど、写真家のメンバーはさすがに個性豊かな、こんなパノラマの使い方あるんや、と世界が広がるような写真を見せてもらいました。佐野さんは『古事記』を解説しながらの朗読。いにしえの都、奈良で聞く、佐野さんの迫力と絶妙なおかしみのある『古事記』は格別でした。

夜、打ち上げで行った[匠]と[蔵]、年季の入った渋い建物を使ってはって、こんな店の近くに住みたいなあ、と思うようないいお店でした。

11月☆日
翌日、東大寺方面へ。実は奈良は、もしかしたら東京に引っ越してから行ってなかったかもというくらい久しぶり。大阪も京都も帰る度に高層マンションやら商業施設やらがんがんできてるけど、奈良は変わらんなー。いや、鹿が増えてる? 東大寺で大仏見て(小、中、高と遠足で行ったのをはじめ何回も行ってるけど、見飽きひんよなー)、二月堂へ。高校の遠足で来たときに友達が「凶・生死あやうし!」のおみくじを引いたのをここに来ると必ず思い出す。東大寺あたりは観光客で混み混みやったけど、二月堂まで来ると静か。あらためて見ると清水寺とはいかんけど結構な高さで、奈良市内一望。そしてやっぱり、おみくじ引かなあかんやろ。ということで引きました。出ました!「凶」、そして「生き死にあやうし」。いっそ願ったりやね! 清々しいね!「失物出で難し、争い事負け、売買利なく損あり、悦び事なし……」などなど、不運のロイヤルストレートフラッシュやね! 住吉大社とか浅草寺とか特徴のあるおみくじのところは凶率が高い気がするなー。ちなみに、高校の時に「生死危うし」引いた友達はまったくなんもなく元気です。
隣の三月堂は界隈でもっとも古い建物の一つで、ここに都があった頃の建造。中の仏像も。奈良は、1300年前のものがそこらじゅうにごろごろしてる、というか、平城京から続いてる世界がそこにある感じが他とはぜんぜんちゃう。そのあと春日大社も興福寺も行って、それでもまだまだ見たいところあったからまた行きたい(泊まるところ増やしてください!)。
それで昔のままの姿なのはいいねんけど、外国からの観光客が格段に増えたのに案内が少ないのは気になった。柱の穴くぐる列もほぼ外国人しかおらんのに「こっちに並んでください」と注意書きは日本語だけで、ちょこっと、英語と中国語書いといたらええのにと思った。これは奈良に限らず全国的になんやけど、過剰におもてなしをもとめるわけやなくて、1行書くだけでも無用なトラブルとか困ってる人とか減るやん、と思うねんなー。

11月☆日
ところで、わたしはけっこう「せんとくん」が好きなのですが、今回奈良滞在では「せんとくん」はちょこっと見かけるだけで、「まんとくん」に至ってはまったくグッズを売ってなかった。代わりにどこにいっても幅を利かしてたのは、鹿のゆるキャラ。誰、これ?「しかまろくん」? か、かわいくなくない……? 今時はこういうのがウケるのやろか。
奈良県立図書情報館のキャラ、「まほ」と「ろば」はかわいかったです。

11月☆日
奈良は変わらへんのやけど、近鉄の駅に降りて行き先表示見て「三宮」って出てるのは、ええっ? ってなるな。奈良から三宮までさーっと行けるって、妙な感じ。それにしても、生駒の斜面を走る近鉄から見る大阪一望の風景はすばらしいなあ。この区間だけを行ったり来たりしたいくらいや。

  • LINE

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本