よう知らんけど日記

第51回 梅田がもう外国のようです。

2013.5.27 17:57

4月☆日
ドキュメンタリー映画『ニッポンの、みせものやさん』を見る。わたしが東京に引っ越した2005年の11月、新宿・花園神社の酉の市で生まれて初めて入った見せ物小屋、もう日本で最後の見せ物小屋やねんけど、それを取材した映画。実物見たときは火を吹くお峰さん(芸歴50年?)とか生蛇をかじる小雪ちゃんとかいて衝撃を受けたので、その人たちに密着かなというイメージで観に行ったら、主に裏方の人々の、公演中以外の旅回りやったり小屋を建てたりの様子、それから親方や姉さんたちの今までの歴史のインタビューで構成されててとてもおもしろかった。監督さんたちも最初は舞台に出てる部分から撮ろうと思ってたけど全然相手にされず(撮らせてくれという依頼はいっぱい来るので面倒らしい)、3年ぐらいお化け屋敷を手伝ったりしていくうちに、ようやく撮影させてもらえたし、なにを撮るのかはっきりしてきたそうで。お祭りの数日以外にどんな暮らしをしてるかとか、昔見せ物小屋が盛んやった頃の話や博打好きの父親から20歳そこそこで引き継いだ話。上映後の監督のトークでも言うてはったけど、奇異な目で見られがちな見せ物小屋やけどやってるほうからしたら商売やからいろいろ工夫してるんやと。そのへんの感じは大阪出身で家が商売やってるわたしにはなんかすごくよくわかった。お客さんが多くなってきたら出し物減らして回転上げるとか(笑)。
昔の話聞いてたらとにかく北海道の祭りが稼げたらしい。漁業や炭坑が儲かってたころはよっぽど景気よかったんやろなあ。そのころのほかの小屋と競争しあう様子とか、今まで知らなかったことをいろいろ実感できる、いい映画でした。
ちなみに一昨年6年ぶりに花園神社で見せ物小屋に入ったときは、お峰さんも小雪ちゃんも元気でお客さんもいっぱいでした。

4月☆日
イベントのために大阪へ。
新幹線でそろそろ富士山見えるかな~というころに「みなさま、右手に富士山が見えてきます。日本一の美しい山、3,776メートル……」とノリノリでアナウンス。富士山アナウンス、今までも3回ぐらい聞いたことあるんやけど、どういう基準なんやろ。休日だけとかかな。ゴールデンウィークやから大サービスやったんやろか。

4月☆日
2時間ぐらいグランフロント大阪へ。お祝いコメントを書かせてもらった紀伊國屋書店にご挨拶に行ったら、ちょうどわたしの本を買いに来はった方がいてサインさせてもらった。相当うれしい。自分の本を今まさに買うところって滅多に遭遇できへんもんね。ほんまにありがとうございます。
グランフロントは身動きできへんぐらいの人出。いつの間にこんなでっかい建物をつくってたのか……。梅田がもう外国のようです。そのまま東京に戻ったんやけど、のどが痛い。ということで連休後半はひたすら家。年末年始もそうやってんけど、世間が休みで行楽地とか賑わってるときに、家で本読んだり穏やかに過ごすのが好き。のど痛くなかったらもっといいけど。

4月☆日
よそ見しながら歩いているせいか、よく道を聞かれる。しかも、微妙に難易度の高いことを聞かれる。今までの例をあげると、恵比寿の駅ビルのトイレで「このへんに銭湯は?」、世田谷通りで「若い人がよく買ってる服売ってるところ」(ユニクロのことやった)など。で、最寄り駅の商店街歩いてたら、まずおじいちゃんに「そういうやつ」と肩に掛けてるトートバッグを指さされた。「かばんですか?」「そうそう、背負うやつ」(リュックサックか~)。そのあと、今度は30歳ぐらいの女の人に「メジャー売ってるお店わかりますか?」。今日はどっかで借り物競走でもしてんのか!? しかし悔しいことに、まだ全体を把握していない商店街だったため、どちらも正解を教えられず……(リュックは2軒いうたのやけどどっちも置いてなかった。ごめん、おじいちゃん)。ちなみに、恵比寿の銭湯もユニクロもちゃんと答えました。

4月☆日
揚げ物を家でしない(揚げ物するかせえへんかって、人によって結構分かれるよね)。なのですが、スーパーでたらの芽やらふきのとうやらを見てると、どうしても天ぷらが食べたくなり、1週間ぐらい迷った結果、思い切って天ぷら粉と油を購入。椎茸とヤーコンも、だいたいこんなもんかなーという感じで揚げてみた。まあ多少べたっとごろっとした感じにはなったけど、それなりにおいしかった、と食べ終わったころ、胃がめっちゃ痛くなった。横になってたら落ち着いてんけど。
鍋の油の減り具合から考えてたぶん揚げすぎ。「簡単天ぷら粉」と「超かる~いキャノーラ」を買ったのに(泣)。
やり慣れへんことは難しいなあ。しかし、粉も油もようさん残ってるので、再チャレンジしたい。

4月☆日
府中市と国分寺市に行った。東京に住んでてもあんまり近郊に遠出せえへんから、知らない感が強くて新鮮。東京と一口に行っても、地域によってぜんぜん違う。東京の中でも西より「三多摩」と呼ばれてるこのあたりまで来ると、けっこう「昭和」な感じ。昔からぜんぜん改装してなそうな、張り紙とか置物とかにやたら店主の人柄が出てる喫茶店とか食堂とか多くて、地方都市に旅行した気分になる。物価も安い。都心から距離が遠くなると、時間も遠くなるんやな。
そんな街でもとにかく人が多いのはやっぱり東京なんやけど。

4月☆日
何回も書いてますが『にっぽん縦断 こころ旅』(BSプレミアム)における火野正平の「モテ」について、一度まとめておきたいと思います。
やっぱりいちばんの要素は、人との距離感。腰低く愛想ふりまいたり媚びたりするのでもなく、芸能人ぶって偉そうにするのでもなく、握手とか写真求められても「べつにええよ」ぐらいの感じ。最初つれないふうやねんけど、ふっと親しい距離で話しかけられる。
いわゆる「ツンデレ」に近いものがありますね。
都合のいいときだけ使う大阪弁(中学生のころ豊中に住んでいたそうです)もポイント。たまに広島弁とかご当地の言葉も使ってみたり(あくまで嫌味じゃない程度に。その加減が難しいんやけどね)。話しかけられたほうは近づいてくれたと思う。

服のコーディネートは、前も書いたけど毎回絶妙。民芸調とアウトドアのブレンドで、60代にありがちな作務衣オヤジでもなく、がんばりすぎ山登り中高年でもなく、小柄な体格を生かしたバランス。UGGのブーツ履いたり横尾忠則のバンダナ巻いてたり、若い女子にも関心もたれそうなポイントを押さえてる。
ここまでは、学んで真似できることやけど、もって生まれた恵まれたところがある。それは、声。低音でやさしい、ほんまええ声やねんなあ。実は声って、直接感覚に響くというか、顔よりも恋愛感情を刺激するんかもしれん。思い出の地リクエストのお手紙を読んで「来たよ~」と言われたらもう撃沈ですな。
火野正平のモテぶりだけじゃなく、心に残るすばらしい風景が見られる番組なのでほんまおすすめです。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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