よう知らんけど日記

第120回 人生で初めてデモに行ってみた。

2020.1.20 11:54

9月☆日 

こないだ行ってきた大丸心斎橋店のことを、ヴォーリズ建築最高!と写真をたくさん入れてツイートをしたら、みるみるリツイートされて、なんか1万いいねとかに……。今までにいちばん反応あったのって、芥川賞受賞お知らせか、台湾の故宮博物館で買ってきた書のマスキングテープの800いいねぐらいだったので、経験したことない事態に驚きました。フォロワーが1万を超えてから反響が大きくなりやすくなってたのはあったけど、やっぱり画像のインパクトはすごいね。その3日後ぐらいに、同じく大丸のオープニングでいただいた「たねや」のヴォーリズモチーフの落雁をツイートして、これはそこまで反響ないやろと思ったらまたもや8,000いいねとかになり……。 

慣れない事態というか、反響が大きいと、「間違ったこと書いてたらどうしよう」とか「これでたねやさんで品切れとかになって迷惑かけたらどうしよう」とかマイナスのことばっかり気になるし、基本的にこう、穏やかに日々を送りたいというか、とにかく落ち着かへん。通知は元々切ってるけど。いつも、千とか万とかリツイートされがちなアカウントの人ってよく続けられるなあ、と思う。 

わたしは、自分の言葉より、こういう紹介ものが反響ありがちなのですが、ほんとに好きでみなさんに知ってほしいというものを書いてるので、大丸に行ってもらえればうれしいです。 

9月☆日 

デモに行ったんですよ。 

人生で初めて。 

10月から上がる消費税に反対するデモの告知をツイッターで見かけまして、新宿やし、近いし、一回行ってみるかなあ、と。 

都庁のすぐ隣、新宿中央公園からの出発時間にちょっと遅れたので、すでに歩き始めてるデモ隊を探し、合流。思ったより規模は小さくて、数百人というところ。このところ、世界中の大きなデモのニュースとか動画とかよう見てて、でもそれとはえらい違う。人数が少ないこと自体じゃなくて、警備の厳重さというか。まず、出発の時点で百人ずつぐらいに分けられて、だいぶ間をあけて時差出発。車道の端を歩くのやけど、警察ががっちり取り囲んでるので、さらに小規模感が強くなる。東京って、デモ隊が集まるような大きな広場や大通りがないんよね。あと、大阪の中心部に大学がないのは、学生運動の時代に集まらないように郊外に移転させたって話もあったり。日本は、街や道路の構造や法律なんかでデモとか抗議活動がもともとやりにくくできてるんやと思う。いちおう、新聞社やテレビ局のカメラマンっぽい人もけっこういた。西新宿から、甲州街道沿いに、新宿南口、新宿三丁目と歩く。お天気のいい連休の真っ最中、新宿の歩道は遊びに来た家族連れやカップルで賑わってる。なんかやってるなー、という感じで見てはるけど、基本はあんまり関心なさそう。たまに、応援してくれる人もいる。こんな感じかー、という2時間ほどやってんけど、参加してよかったなと。1つは、いつもツイッター上でリツイートしたり書いたりしてるとなんかやってる気になるんやけど、結局は近い人、元々似たような考えや環境の人の中だけで完結してて、その外にはなんの影響もなかったりするんよね。街中を歩くっていうのは、全然知らへん人、関係のない人にも、なんかやってるなと目に入るわけで、もしこれがすごい人数になったら、なにか起きてるって感覚になると思う。もう一つは、車道を歩いてそっち側から歩道を見るという経験で、普段は、自分は何か考えてたり言ってたりするつもりでも、あっち側にいる人なんやなあと。日本でデモが物理的に成立しにくい感じとか実感としてわかったし、身体で行動してみるのは意味あるよな、と。最後はゴールデン街の散歩道で流れ解散でこれも警察が仕切ってて、ほんま集会をさせないようにしてるなあ、と思いました。デモ、別に申し込みしたり名前書いたりとかなんもないし、遭遇したデモに加わってもいいし、勧誘されるとか話しかけられるとかもないので(自分が話しかけたかったら話しかけたらいいと思う)、一回行ってみたらおもしろいと思います。 

消費税は反対です。日本の経済をつぶそうとしてるとしか思えない。廃止してほしい。 

10月☆日 

ふとしたことで、若いときに着てた服のブランドとか思い出して、ジャン・ポール・ゴルチェのセカンドラインというかあれはライセンスの廉価版やったんかなあ、JPGの鞄とか財布とか持ってたよなあ、と検索してみたら、画像がいくつか出てきて、わー、これの色違いやー、と記憶がよみがえってきた。2000年代初期ぐらいまでの服とか物とか場所とかって、今ほどインターネットも日常に根付いてなかったし、なんでも画像に撮って載せたりしなかったから、あんまり情報がないんよね。服はずっと持ってた人がたまにネットオークションに出したりするからちょっと画像があって、見つけるとわーってなる。場所とか食べ物の写真はなかなかない(10年くらい前までは今から食べるものの写真を撮ったりしてなかったのですよ! 信じられないことに!)。今の感覚で検索したらなんでも出てきそうな気がするけど、あれだけみんな知ってたものが全然見つからない、みたいなこともある。いつでも見つけられるつもりで写真とか資料とかどんどん捨ててると、90年代とかのことは忘れられたり、あとからの記憶の上塗りで別のものになったりするんちゃうかと思うことがある。

 

10月☆日 

韓国の小説家ペク・スリンさんとトークイベント。短編集『惨憺たる光』は、人々の決定的に深く傷ついた瞬間、失われたものが、歴史的な事件と絡めつつ描かれていて、心の深いところにずっしり残りつつ、その奥にほんのわずかな救いみたいな感じがあって、すばらしい作品でした。創作や小説の細かいところについてお話しできてとても楽しかった。 

終わった後の打ち上げで、翻訳者の方や、韓国語を勉強中の方たちと、韓国語と日本語は似てる言葉がたくさんあるよね、という話になり、わたしが昔『トリビアの泉』で知った「微妙な三角関係」と言うと、なんにも説明してないのにペクさんが笑ったので、あ、ほんまに通じた!とうれしかった。微妙な三角関係、韓国語でもまったく同じなんよね。あと、「30分」「約束」とかもそのまま通じる。勉強したらわかるようになりそう、と思いつつ、何回もハングルを覚えようとしては挫折してる。三日坊主にかけては自信があるのや。 

10月☆日 

『春の庭』で生かせたらよかったですが、以前から賃貸の部屋のサイトを見るのがめっちゃ好きで、間取りやら地図やら条件やら見ては、ここに住んだら……と想像してるだけで時間が過ぎていく。最近は、予定もないのに売買、それも中古のほうを見るようになってしまい、そしたらこちらは賃貸にはないおもしろさが。賃貸は、ほぼ空室状態の写真しかないのですが(たまにリフォーム工事中や掃除前のえらいことになってる写真はある)、中古売買は住んでる状態の写真がある。売りには出してるけどまだ住んではる家も多いんよね。もちろん見せるのがいやで部屋の中の写真がなかったり、一部だけのほうが多いけど、ときどきめちゃめちゃ生活感のある部屋が。中にはどこのインテリア雑誌やっていうおしゃれすぎる部屋もあるけど、使ってなさそうなエアロバイク置いてあったり、けっこうごちゃごちゃしてる部屋があるとちょっとうれしい。こないだは、昔の漫画のお金持ちの家みたいな、ヨーロピアンなゴージャス家具に、子供部屋には巨大クマのぬいぐるみが置いてあるファンタジーな家があって、うわー、この家族にインタビューしたいわあ、と思った。そういう暮らしをしてる人がこの世にはほんとうに存在するのやなあ。 

10月☆日 

引っ越しの最後の段ボール箱を開けた。200箱あったのが最後まで7個ぐらい残ってたけど、なんとか全部出しました。ときどき、前の引っ越しから持ち越してる段ボール箱があるとか聞くけど、わたしはいちおうそれはやらないようにしてる。わたしの性格上、それをやるともう二度と出さないし、収集がつかなくなるやろから。 

引っ越してから4か月、段ボールは片付いて、かなりいろんなものを捨てたけど、その間にもまたもや本が増えて、ただ普通に散らかってる部屋になってきてる。通常モード。いつか片付く日はくるのだろうか。 

10月☆日 

東京に来て14年、5軒目の家やけど、2、3、4軒目は同じ沿線やった。今回、近いけど駅と路線が変わって、そうすると、かなり行動範囲が変わる。仕事柄、普段そんなに出歩くわけでもないし、住んでるとどんどんいろんなところに行かなくなって、限られた駅しか使わなくなってきてたんやけど、沿線が変わると同じ目的地に行くにも乗り換えが変わるし、全然違うところに引っ越したぐらいの新鮮さ。東京、と一言でいうけども、大阪よりもかなり広いし、地域や場所による差が激しいので、東京にこんなとこあったんやーと感心しながら移動してる。その東京もほんの一部で、大半はまだ未知の世界なんやろなあ。 

それにしても、東京の地下鉄複雑すぎる。乗り換えアプリや検索がなかったときはどうやって移動してたのか。検索しないとどこも行かれへん。 

10月☆日 

掃除の便利グッズを紹介したら、作家の友達が使ってくれてるっていう話を書いたけど、引っ越してから入手した超役立ちグッズがもう一つ。鍵をかけたかどうかわかるキーホルダー。鍵にぱかっとかぶせるタイプ。鍵をかけるときに回転する動きでキーホルダーの窓部分の色が変わるという単純構造で、家族とかがそのあと開けたりとかしたらわからないし、使える鍵が限られてたりもするのやけど、わたしはめちゃめちゃ助かってる。実は確認癖というか、鍵かけたかとかガス止めたかとか気になって、一回見に帰って遅刻したり、出先で落ち着かへんかったりということがある(悪化するから見に何度も帰ったりするのはよくないらしい)。それが、このホルダーの色を見れば、いちおうは確認できて、それだけでも安心できるし、帰らんでもいい。似たタイプの方にはめちゃめちゃおすすめです。今どきは、スマートなんちゃらとか、そういうITな便利なものもあるのやろうけど、超アナログで単純で1,200円ぐらいなので、わたしはこういうほうが好みです。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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