よう知らんけど日記

第115回 プロフェッショナルの仕事、見せていただきました。

2019.8.26 16:17

6月☆日 

引っ越しの日が迫る。東京に来て、7年ぶり4回目の引っ越し。 

前3回と同じく、荷造りは引っ越し屋さんにやってもらう方式。これはほんまに助かるというか、荷造りする人が荷物に思い入れがないということがすごく重要で、ざくざくとにかく全部段ボールに詰めてくれて、それを自分で片付けるときにめっちゃ仕分けできるんよね(のちほど詳しく)。 

とはいえ、前は2、3年で引っ越してたのに、今回は7年。積もりに積もった荷物、そして諸事情でわたしにとっては広い家に住んでたので、増えまくり散らかりまくった荷物が全く収集つかず……。どうするねんこれ。引っ越そうと決めたときから頑張って捨ててるけど、焼け石に水というか、底に穴の空いた船から水を汲み出してる状態というか。そして、今回学んだことは、とにかく物を捨てるのにお金と手間がかかる。粗大ゴミ、自治体の収集に申し込むのも日が埋まってて、これ捨てようと決めて区のサイトを開いてみたらちょうどいい日が全然ない。3週間前には予約しとかなあかんかったな、これ……。ということで、引っ越し先に持って行かなあかんようになったものも多数。自力で運ばれへんくて引き取ってもらう業者も、結構先まで予約埋まってるうえに高い。物を増やさないように、買うときは捨てるときのこと考えて、と何度も心に誓うのでした。 

 

6月☆日

今までの経験で荷造りサービスの仕事は速くて完璧とわかっているものの、アイルランドから帰ってきたばっかりのうえ、新刊出たばっかりで忙しすぎて前日までほぼ手がつけられず、あまりの荷物の多さにほんまにだいじょうぶかこれ、と不安になる。荷造り終わらんかったら、どうなるんやろ。1日目:荷造り、2日目:搬出搬入 3日目:2日目で終わらなかった分の搬入(道が狭くて小さいトラックしか使えないため)なんやけど、だいじょうぶやろか。作業をしていると近距離でこんだけ大変やのに、子供いて転勤で遠方に突然引っ越しとかどないしてはるんやろ、と考えるだけで気が遠くなる。 

6月☆日 

荷造り隊の皆さんは10時前に到着。前回は2名やったけど、今回は4名。全員50代ぐらいの女性。自己紹介のあと、早速作業に。荷物、特に本の量を見て、あ、これは……と、なってはるのがわかる。持ち場を決め、どんどん段ボールに詰めていく皆さん、ほんまプロフェッショナル。わたしは邪魔にならんようにしつつ、最後の悪あがきで捨てられる物を仕分け。12時過ぎに、お昼の休憩を、とのことで、部屋で皆さんお弁当。わたしも別の部屋でごはん。皆さんが和気あいあいとしゃべってるのが聞こえてきて、なんか懐かしいというか、いーなー、わたしも混ぜてほしいなー、と思いつつ、そういうわけにもいかへんので、さっさと食べてまたひたすら捨て作業。しかし、この時点で本はまだほぼそのまま、ほんまに今日中に終わるんやろか、と心配に。午後の作業が始まってしばらくして、箱とガムテが足りないかも、との声が。皆さん、本棚を見て、ここで4箱、こっちが5箱でしょ、と見積もっていく。その正確さがすごい。ぎりぎり足りそうということで、黙々と詰められていく本、本、本、本………。作家とか編集者とか研究職とか同業者の方はたいていそうだと思いますが、とにかく本が厄介。減らせないし、圧縮できないし、重いから段ボール箱のちっちゃいのにしか詰められない(大きい箱に詰めると持ち上がらない)。申し訳ないです、と心の中で謝りつつ、わたしが荷造りするのはかえって邪魔になるだけなので、片付いたところの掃除。食器とかは包まなあかんかったり詰め方を工夫せなあかんけど、本はその点詰めやすいので進む進む。なんと午後4時にはすべて終了。今日中に終わるのか、などと心配した自分があほでございました。プロフェッショナルの仕事、見せていただきました。 

6月☆日 

そして、段ボール箱はきっちり200個(これは、見積もりの人が推測したのとぴったりの数でした。見積もりの人もプロフェッショナルや)。本は小さい箱になるのでどうしても数が………といちおう言い訳をしておきます。 

朝から運び出し、そして運び込み。わたしも新しい家と行ったり来たり。覚悟はしていたものの、部屋の面積が減ることもあり、新居の空間はどんどん荷物でいっぱいに。本の箱が重いので、心の中ではずっと申し訳なく思いつつ、本格的に暑くなる前に引っ越せてよかった。一つだけ玄関から入らない本棚があり、どうなることかと思いましたが、なんとか解体できて入りました。入らなかったら、業者を頼んでもたぶん、2、3週間かかるし、その間玄関前に置きっ放しにもできなそうでどうしようかとめっちゃ不安やったので、なんとかなって心底ほっとしました。 

6月☆日 

そして、予想通り1日で運びきれず、また旧居と新居を往復して残りの荷物を。全部入らんかったらどうなるんやろと途中本気で心配しましたが、なんとか収まりました。収まりました、と言っても、部屋の空間がびっちり段ボールで埋め尽くされている。ほんとは3段以上積むのはよくないんですけど、と引っ越し屋さんは言っていましたが、どうにもならないので4段に積んでもらう。体を横にしないと通れないくらいの隙間しか残らず、しばらくこれで暮らせるかな、っていうか、とにかく地震来んといてと祈るばかり。 

とにかく、無事に引っ越せてよかったです。 

 

6月☆日 

そして、荷物を片付けるまもなく、新刊『待ち遠しい』のPRのため書店を訪問させてもらう。新宿、池袋、吉祥寺、西荻窪、荻窪、高円寺、中野、渋谷、恵比寿、神保町、丸の内、横浜。初めて行く書店さんも多く、たくさん回らせていただきました。本を直接読者に手渡す書店員の方々とお話させてもらえて、ほんとうに貴重な機会でした。特に今回の『待ち遠しい』は、世代の違う3人の女性を中心に今生きてる中でのしんどいこともひっかかることもあれこれ書いたので、皆さん、ご自身の身近な経験をお話ししてくださって、小説の続きみたいですごくおもしろい。みんないろいろ抱えてはるんやな、と改めて思いつつ、そんな中でわたしの小説を読んでなにかを共有してもらえるということに、作家としてとても喜びを感じるし、感謝の気持ちでいっぱいです。 

この書店訪問、わたしにとっては東京にこんな書店があるんやなあ、ここの本屋さんはこんなところに力を入れてはるんやなあ、こんな感じのお客さんが多いんやなあ、と教えてもらえる時間でもあります。本屋さん、いいなあ。いつも時間がなくて店頭で気になった本が買えないのが心残りですが、仕事じゃないときにまたうかがいたいです。 

 

6月☆日 

そして帰宅して片付けの日々。荷造りはやってもらって、片付けは自分で、というのは、わたしのような片付けられない、捨てられない人にはこの上ない、断捨離、ときめく片付け、的な方法なんです。わたしの物にまったく思い入れのないプロフェッショナルが荷造りした箱を開くと、丁寧にしかし最小限に梱包された物がきっちり詰められてます。薄紙を開いていくと………うわー、こんなんなんで捨ててなかったんやろ、こんなん荷造りさせてしまった申し訳ないっす! ていうものがざくざく出てきます。自分が生活してる空間に馴染みすぎてて、そこで暮らしてる主観で見てるとわからなくなってるけど、いったんプロの荷造りによって、生活と自分の文脈から切り離された物を改めて見ると、「これはいらんやろ!」「荷造りしてもらってまで置いとくもんちゃうやろ!」っていうのが一瞬で判断つくんですよね~。そして、箱を開けるたびに出てくる、そのような物の数々……。ちゃんと片付けよう、細々したもん買うのやめよう(わたしは典型的な、ちょこちょこしたもんをちまちま買ってしまうタイプです)、と大反省大会です。これからは心意気だけでもミニマリストに、と床も壁もぜんぜん見えない部屋で泣きながらひたすら作業するのでした。 

6月☆日 

引っ越しって、最強の大掃除やと思うんですよね。引き出しとか押し入れの奥の物まで全部出すやん? 普通の掃除片付けではなかなかそこまでできへん。それで、こんなんあったわ! 久しぶりやな! って物もようさん出てくるし。こんまりも、いったん服とか全部出して部屋に山積みにしてるよね。 

それで、わたしのような極端に片付けられない人は3年に一回ぐらいは引っ越しするのがおすすめなんやけど、やっぱりお金かかる(日本はとにかく住居の初期費用が高い!)。せや、荷造りだけしてもらったらええんや! わたしめっちゃ賢い! と思って検索したら、やっぱり同じような人がいるのか、荷造りだけのサービスをやってる会社がある(いや、引っ越しは自前とか知人とかに頼める人用やと思うけど)。しかも、引っ越し業じゃなくて、片付けサービスの会社。これやん! 今度はこれ頼も!と、妙に高揚感を感じてましたが、目の前は段ボールの山、っていうか壁、っていうか、部屋そのものが段ボール。そして開けても開けても出てくる、物、いらん物、物、剥がしたガムテと梱包材の山。はい、現実逃避やね。荷造りしたらゴミも大量に出るし、普段から片付けましょうと、結局そこかと、あほなことを考えていても荷物は減らないのでした……。

  • LINE

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本