よう知らんけど日記

第103回 おばちゃんてほんまええわあ。

2017.1.13 10:00

7月☆日
大阪文学学校で講演。歴史の長い大阪文学学校ですが、朝井まかてさんが直木賞を受賞されてからいっそう注目が集まり、生徒さんもかなり増えたそう。私は初めておじゃましたのですが、今の校長が細見和之先生で、ずっとお話ししたかったのでご依頼いただいてすぐ引き受けたのでした。細見先生は、詩人でドイツ文学者でもあるのですが、わたしの母校の大阪府立大学で長いこと教えてはって(今は京都大学に移られました)、1年か2年の時に授業を受けたことがあったのです。確かカフカの話やったような……。この日は「小説を語るのは誰か」というテーマで語り手の視点のことや誰かのことを代弁するような書き方には気をつけなければならないと話した後、細見先生と対談しました。わかる、わからない、共感、といったここしばらく考えてたことが細見先生の『言葉と記憶』に書いてあったので、それをいろいろ聞けてよかったです。そしてそのあとの生徒さんからの質疑応答が、みんななにかしら書いた経験ある人+大阪の人ということで、質問が濃い、深い、具体的。わたしの小説を熱心に読み続けてくれてはった人も多くて、熱い時間を過ごしました。打ち上げで行った空堀商店街の韓国料理屋さんもおいしかったなあ。このときの講演は質疑応答も含めてほぼまるまる大阪文学学校発行の『樹林』2016年12月号に掲載されてます。

7月☆日つづき
わたしは、学校の国語の授業がきらいで、何年かに1回はいい先生にあたったけど、高校のある年なんか文章をばらばらに解体して全部に意味を機械的につけていく授業の進め方があまりにも気に入らなくて、1回もノート取らずにテストで満点取ったるとか思ってるようなイヤな生徒でございました。今でも、読書感想文的な「○○は大切だと思いました、考えさせられました」式の読み方ってほんまもったいないと思ってて、そんな貧しい経験から小説やら文学やらって学校で教わるもんとちゃうと思い込んでてんね。でも、作家になってみて、当たり前のことなんやけど、もっと自由な読み方とか、死ぬほど考え続ける読み方とか 、全然知らん世界を教えてくれたりとか、書く方も読む方も全身で意見を戦わせるような、そういう学ぶ場もようさんあったんやということを今さら知った。なにより、そういうとこにはおもしろい小説知ってる人がいっぱいおるんよね。だから、すごい小説にどんどん出会える。もっと広い視野を持って勉強すればよかったなあ、とちょっと後悔。地理の勉強ももちろんおもしろかったし、今小説を書いててもめっちゃ役に立ってるんやけど。若いときって、それまでの狭い経験からいろんなことを判断しがちというか判断せざるを得なくて、難しいよなって思う。

7月☆日
ところで、8月半ばからアメリカに行くのです。行ってからまた詳しく書きますが、アイオワ大学というところで作家の集団生活みたいなプログラムに参加するんですね。3か月。そして、今までアメリカ行ってたのと違って、ビザというものを取らなければならず、これが思った以上に大変やった。大使館のビザ取得サイトにめちゃめちゃ細かいことまで全部英語で書き込まなあかんし、そして日本国内での様々と同じくこんなとき就労証明とかがないフリーはめんどくさい。外国に滞在やら留学やらってこんなに大変やったのか、と今さら実感。ほんで、銀行に英語で残高証明をもらいに行ったのですが(添付書類に規定はなくて、ネットで検索してみたらつけたほうがいいという意見がけっこうあったので、念のために取ることに)、対応してくれた新入社員? な感じの女子が、おそらく初めての仕事に非常に困惑。ややこしいことを頼んだわたしが悪かったし、不慣れなのもわかるし、待つのもかまわへんのですが、お客さんに対して「えっ?」とか「あ~……(めっちゃ残念そうに)」とか「う~ん……」とか、言うたらあかんよー。

7月☆日
旅行の準備、あれこれ。3か月、しかも夏から秋の終わりまでの服を準備しなあかんし、気をつけんと、そればっかり延々とやってしまう。でも、近頃はインターネットで仕事は日本におるのと変わらん状態でできるし、アメリカの田舎で日本のようにコンビニ天国ではないとはいえアマゾンでたいていのものは買えたりして、そんなにびびらんでええはずなんよね。昔の人はどうしてたのやろうか。連絡手段も生活道具もなければないでそのほうがあきらめがつくというか、思い切れる気もする。手に入りそうで入らないという状況があれもこれも用意しとかなと心配してしまって延々と準備をする状況を生んでるのかもなー。

7月☆日
どんよりしてるのに雨は降らない。蒸し暑いのに夕立もない。わたしは雷雨が子供の頃から好きで、それは建物の中におって自分は安全やとわかってるからなんやろうなと思いつつも、稲妻を見れば心が躍るし、轟音が近づいてくるとわくわくするし、近くに落ちてばりばりとものすごい音と同時に窓ガラスが揺れたりなんかすると、うっひょー!! と叫びたくなる。今住んでる部屋は空があんまり見えないので、雷の季節になると高いところに引っ越したくなる。

7月☆日
法事で小豆島へ。その前に、丸亀の美術館でやってる金氏徹平さんの展覧会へ。図録の別冊にわたしもちらっと参加してるのです。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、初めて行ったけど、めっちゃ居心地のいい素敵な建物やった。猪熊弦一郎の描いた猫グッズもようさんあったし。金氏さんの作品は10年くらい前から見てるのやけど、どんどん激しくなっていってて、今回も漫画とかゲームとかファンタジーのごっちゃになった世界に入り込んだような、楽しい展覧会やった。せっかく讃岐やし、と駅近くのうどん屋へ。日曜日やったから開いてるとこが限られてて、しかもちょうどお昼時やったから行列しててんけど、実は小豆島が田舎(故郷の意。父親の出身地)やのに、香川県にはほとんど行ったことがなく、東京に移ってから高松経由で田舎に帰るときもフェリーの時間が厳しいから全然滞在できず、本場の讃岐うどんを食べたことがなかったので、死にそうに暑い中、そして並ぶの大嫌いやけど並んだ。なんぼでも汗が流れてくるわー、と思ってたら、後ろに並んでたおばちゃんのグループの一人が、突然首のうしろ拭いてくれた。広島から旅行に来はった4人組やったけど、おばちゃんてほんまええわあ。わたしも、電車で飴を配る立派なおばちゃんになりたい。みかんぐらい配りたい。そして、やっと入れたお店は、ちくわに超こだわりのあるお店でちくわ天推しやったので、ちくわ天載せで食べたうどんはおいしかったです。

柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com

権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com 風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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