第139回 「彩果の宝石」を毎日食べてしまう。
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1月☆日
大晦日は、賑やかなテレビ番組を見る気がしなくて、BS1で世界各国のコロナに関するドキュメンタリーを見てた。日本にいると、中国韓国台湾あたりの近い国か、欧米の状況ぐらいしかあまりニュースにならないけど、それぞれの国や地域で全然状況違うよなあ、と。難民キャンプで対策が難しいところもあれば、島で入国規制を厳しくして感染は防げてるけど主要産業の観光が壊滅的なところも。中でもかなり困難が重なってるのがブラジルで、大統領がコロナ否定派というかろくに対策がされず、街は治安が悪くなってコロナの死者にくわえて強盗とかの死者も増えてるという……。1年前は想像もしてなかった状況に世界がなってて、ほんまにこれからどうなるのか、数ヶ月先のこともまだまだ見えへんよね……。
と、飲みながら見てたら寝てしまい、気づいたら年が明けているという、今年もわたしの生活自体は変わらずやな、って年越しでした。
1月☆日
読書委員になりましたということで、本、読んでます。小説家やしもともと読んでるやろ、と言われそうですが、確かに普段も本読んでるけど、やっぱり本の情報も自分の好きな範囲って限られてるので、歴史や経済や人文系の幅広い本がずらーっと並んでいると、わー、世の中にはこんなにおもしろそうな本がようさんあるのや!と感動するし、書評を書くという目的と期限があると、つい積ん読になったままになりそうな本も次々読むのよね。そして、読むとおもしろい! おもしろそう、って思ってるよりも、読んだほうが断然おもしろい!って当たり前みたいやけど、あらすじとか解説とか読むだけではわからないおもしろさが本には詰まってるよね。
ということで、書評でまず書くことになった岸本佐知子さん『死ぬまでに生きたい海』とアンナ・バーンズ『ミルクマン』がおすすめです!
1月☆日
短編の原稿を書く。静かな部屋で、本読んで、小説書いて、ただひたすら毎日そうやったらいいのになー、と思う。
実際は、小説はなかなか進まなくて締め切りに焦ったり、あまりに散らかった部屋につらくなったりしています。
でもときどき、本読めていい感じやなーと思う日がある。
1月☆日
年末年始がめっちゃ寒かったので、この冬は寒くなるのか!? と思ってダウンコートとか防寒な服を出したけど、その後そうでもない。去年の冬は、冬どこ行ってんって感じに暖冬で全然寒くなかって、寒いのはつらいけど全然寒くならないのはなんか気持ちが締まらないというか、温暖化が心配になるし、そこそこ寒くなってほしいのんよね。今年も暖冬なんかなあ。東京に来た最初の冬は大阪より寒いのにびびって慌ててダウンを買いに行ってんけど(大阪にいるときはダウン着たことなかった)、たった15年でも確実に温暖化してるよね。
1月☆日
「彩果の宝石」を毎日食べてしまう。これはですね、フルーツゼリー、と言いましてもカップに入ってるあれではなくて、法事の時によくお供えされてるグミみたいな周りにグラニュー糖まぶされてる感じの色とりどりのちっちゃいゼリー、あれをめちゃめちゃ高級にしたようなお菓子です。30種類ぐらいあって、ほんまの果汁が使われててちゃんとそのフルーツの味がするのですよ! そしてそれぞれのフルーツの形してるのもかわいい。これがもうどうにも食べてしまうおいしさで、年末の送料無料期間に箱買いしまして、うっかりするとひたすら食べてしまうので、1日3個までに決めて、でも結局4個ずつ食べてます。どれ食べようかと迷うのも楽しいのですよ(わたしは典型的な「好きなものをあとにとっとく」タイプです)。東京やと三越、大阪は大丸梅田などで売ってるみたいです。
1月☆日
河出書房新社に新刊で岸政彦さんとの共著『大阪』のサイン本を作りに行く。河出書房新社に行くのは4年ぶりぐらいやったのですが、実は、オリンピックの開会式がある予定の新国立競技場の真ん前なんですよ。何回も行っててなじみの場所やから、「あんなとこにあんなでかい競技場ほんまにできるのん!?」てずっと思ってて、やっと初めて実物見たのやけど、やっぱりでかいね。道の前に急にあってびっくりするね。フェンスで封鎖されたままで人の気配なしやけど、どうなるのやろ。
『大阪』のサイン本、200冊作りました。
1987年に大阪に来た岸さんと、大阪に生まれて2005年まで住んでたわたしのそれぞれの大阪を書いたエッセイです。わたしは小学生ぐらいのときのめちゃめちゃ賑わってた商店街の話とか、二丁目劇場がきっかけで心斎橋に自転車で行くようになった話とか、90年前後のアメリカ村や心斎橋、梅田の話を書いてますので、ぜひ読んでください。
そして、カバーと本の見返しにも使わせてもらった、大阪西側の川沿い=わたしの地元の風景の素晴らしい絵をまず見てほしい。こんなふうに大阪を描くことができるんやと感動した絵を描かれたのは小川雅章さん、なんと担々麺がめちゃめちゃおいしかった[楽天食堂]のご主人です。エッセイの中にももちろん書いていた[楽天食堂]。ご縁がつながってうれしいです。
1月☆日
サイン本を作ったあと、原宿方面へ歩く。サザビーの本社があったり今はロンハーマンがあったりのあたりから裏原宿のほうへ行く道なんやけど、またもや緊急事態宣言になった東京のこのあたりはすごい静か。ほんまに人がいない。空き店舗も増えてる。せっかくやからどこかでごはん食べよ、お店開いてるんかな、と探しながら歩いてたら[Eggs’n Things]が。並ぶことがなにより苦手なわたしは、オープン当初に大阪の友達が遊びに来て近くで晩ごはん食べた後、「9時閉店やから今やったら並ばんと行けるんちゃう?」と閉店10分前に滑り込んだという思い出が(晩ごはん食べた後に!クリーム山盛りのパンケーキ!)。それ以来で、ほぼ貸し切り状態のお店でゆっくりエッグベネディクトを食べました。おいしかった。並ぶのも混んでる店も苦手なんやけども、やっぱりこういうお店は賑やかであってほしいなあ。
1月☆日
[イメージフォーラム]でセルゲイ・ロズニツァ監督『粛正裁判』。ウクライナの監督のドキュメンタリー特集上映で、12月に『アウステルリッツ』『国葬』を観て衝撃を受け、あと1本残ってたのを観にきた。『粛正裁判』は1930年代のスターリン時代に行われた見せしめ的な裁判の様子、『国葬』はスターリン死去から葬儀までの様子、を撮影したフィルムで近年になって大量に発見されたものをつないで作られてる。当然プロパガンダで、政治的な意図で撮られた映像で、ナレーションもなにもないのに、そこにいる人々が写ってるだけなのに、なにか異様なものを観ている感じがして見入ってしまう。『国葬』は同じ場所が別角度や白黒とカラーなど違うバージョンで撮られてるのが次々に映って、その微妙なずれの隙間に、ドキュメンタリーと虚構の重なり合うような、穴みたいなものが見えてくる気がする。『アウステルリッツ』はドイツのベルリン郊外にある元強制収容所を見学に来た人々をひたすら映してる。ナチスのユダヤ人虐殺という誰もが知ってる想像を絶するような凄惨なできごとがあった場所で、だからこそ見学に来たはずなのに、もちろんほとんどの人はほとんどの時間真剣にその場所を見つめてるのやけど、その中の一瞬、入り口で記念撮影したり、自撮りしたりする姿に愕然となる。それだけでなく、固定カメラでずっと映してるだけのその映像の外側に、そこの場所の過去がある感覚がものすごくあって、直接的なものが映ってるわけではないのにあまりに生々しく感じられて怖くなり、どうしていいかわからなくなるほどだった。アウシュビッツに実際に行ったことのある友人がこの映画を観て、友人は真摯に見学して記念撮影なんてしなかったのだけど、それでも映画を見た日は「寝込んでしまったわ」って言うてて、わたしもアメリカで奴隷制の博物館やユダヤ人博物館に行ったし、そのときの自分がカメラで撮られてたらどんなふうに映ってたやろうか、と考えこんでしまった。
映像に何が映るのか、深く示してくれる映画でした。
1月☆日
「彩果の宝石」がちょっとずつ減っていく……。毎日4個ずつ食べてるんやから、そら減っていくねんけども。
好きなのベストは、パイン、ポンカン、ゆず、青うめ、赤うめ(しそ入り)かなあ。でも全部おいしい。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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