「逃げましょう」ジジイ、実は重要人物だった! 賤ケ岳でも貢献→のちに筆頭家老【豊臣兄弟】

『豊臣兄弟!』第32回より。大岩山砦が陥落して焦る小一郎(写真左、仲野太賀)に、飄々と話す桑山重晴(写真右、住田隆)(C)NHK
豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。
8月23日放送の第32回「賤ケ岳の決闘」では、賤ケ岳での大戦と並行して、柴田勝家と前田利家の別離が描かれるという展開に。この男泣き必至のドラマの裏で、実際はどういう戦争が行われていたのだろう?
■ 羽柴軍VS柴田軍がついに交戦…第32回あらすじ
越前にいる柴田勝家(山口馬木也)が、大雪で兵を動かせない間に、羽柴(豊臣)秀吉(池松壮亮)は岐阜の織田信孝(結木滉星)に兵を向け、織田家嫡男・三法師を奪還。
しかし、春が来ると勝家が兵を送り込み、琵琶湖畔の賤ケ岳をはさんで、羽柴軍との睨み合いになった。そこに信孝が再び挙兵したとの知らせが入り、秀吉は岐阜へ。手薄になった羽柴軍に、勝家の家臣・佐久間盛政(遠藤雄弥)らが攻め込んできた。

中川清秀(すがおゆうじ)の謀反も重なり、守りを任された小一郎は田上山砦で奮闘。いよいよ危なくなったところで秀吉軍が戻ってきて、形勢は逆転する。勝家は敗北し、自軍を越前に引き上げた。
さらに、戦の前に、秀吉から「わしにしか作れぬ世を作ってみせたい」と言われ、心を動かされていた前田利家(大東駿介)が、清秀の首を持って秀吉の陣に来訪。秀吉が約束した新しい世を、絶対に作るように念を押して頭を下げた。
■ 大河ドラマで描かれていない、3人の奮闘記
豊臣秀吉の天下取りの第一歩となったのが、明智光秀(要潤)との「山崎の戦い」だったとしたら、柴田勝家と刃を交えた「賤ケ岳の戦い」は、天下取りへの重要な手形を手に入れた戦いだったと言える。
険しい山に囲まれた特殊な地形で行われた戦だったため、いろいろと面白い戦略やエピソードが多い戦でもあるのだけど、今回は利家の心変わりに大きなスポットが当たったため、その辺りはちょっと端折られた感がある。

山口馬木也VS大東駿介の、大河史に残りそうな殺陣が繰り広げられたので、戦闘に関してはそれで満足した人も多そうだけど、せっかくだからドラマではあまり描かれなかったキャラクターやエピソードについて、少し書いていこう。
まず、賤ケ岳の戦いと聞いて、最初に思い浮かぶのは「賤ケ岳の七本槍」という人が多いだろう。この戦で活躍した、7人の秀吉の子飼いの武将たちのことだけど、今回は加藤清正(伊藤絃)しか出てこなかった。

このとき清正が対峙したのは、「鬼玄蕃」という通称を持つ、勝家の片腕とも言える武将・佐久間盛政。これより少し前に、賤ケ岳の複雑な地形を活かして、中川清秀が守る「大岩山砦」に奇襲を仕掛け、見事に砦を落とした。
『豊臣兄弟!』では、清秀が裏切ったのであっさりと砦を攻略したことになっていたけど、実際は後世の講談の題材になるほど、あざやかな作戦だったそうで、盛政視点だと「えー・・・苦労したのに」と感じてしまいそう(笑)。

その調子で羽柴軍に切り込もうとした盛政だったけど、ここで立ちはだかったのが桑山重晴(住田隆)だった。実際は秀長のいる田上山砦ではなく、別の砦の守りを担当。攻め込んできた盛政に対して、速攻で和議を申し出て、その交渉をしている間に砦を引き上げるという、見事な逃げっぷりを見せたそう。
ドラマではただの“逃げたがりジジイ”に見えたが、まさに生き残りの技に長けた人物だったのだ。そして重晴が時間を稼いだことで、秀吉が戦いに間に合ったのだから、実は影のMVPだったのである。
■ 「七本槍キター!」→「槍キャンセル界隈」

さらに、戦の勝敗を分けたのが、岐阜にいる信孝と戦っていた秀吉が、大岩山砦陥落を知って、大垣~賤ケ岳間をわずか5時間で戻ってきた「美濃の大返し」。
距離的には約50キロなので、マラソンよりちょっと長めの距離に過ぎないが、1万人以上の軍勢がこの速度で移動できるのは、かなりの離れ業。とはいえ、秀吉が柴田軍の動き次第で、速攻で引き返すことになるのは予測できていたので、最初から食料や松明などを、抜かりなく準備していたからこその成功だろう。
この予想外の援軍合流に加えて、ドラマでも描かれた通り、主力だった前田利家が動かなかったことで、柴田側はたちまち劣勢に追い込まれる。このタイミングで盛政に向かったのが、槍を持った加藤清正だったわけだ。
SNSも「七本槍キター!」という声が一斉に上がったのだけど、すぐに槍を捨てて刀に持ち替えてしまったので「槍キャンセル界隈」なんてコメントも上がっていた。そこは槍を貫いてほしかったな、清正公・・・。

ちなみに、このとき清正は、勝家の重臣の首を取り、それによって出世の糸口をつかむ。またニコイチ状態となっている福島正則(松崎優輝)も、一番槍と一番首をダブルでゲットするという、華々しい活躍を見せて、7人のなかでもっとも多い褒美をもらっている。
また、勝家主催の宴で、チラッと名前が登場した毛受(めんじゅ)勝照(中山義紘)は、勝家の身代わりとなって敵を引きつけて、討死したという美談が残っていることも特筆しておこう。
■ なぜ内部分裂?織田信長=カリスマ社長だから…

そして、織田家内紛のなかで、なぜ織田家を守るという大義のあった勝家ではなく、明らかに乗っ取りが目に見えていた秀吉の方に味方が着いたのか? しかも、実際に勝家を「親父殿」と呼んで慕っていたという利家までも? という疑問に対する答えは、この利家の心変わりの原因で明白になった。
勝家が、たとえ泥舟とわかってても織田家に執着したのに対して、秀吉は泥舟には見切りを付けて、織田信長(小栗旬)の夢を自力で叶えるという方針を、信長急逝から1年も経たないうちに明確にしたからだ。

思えば、秀吉を始めとする多くの人が、織田信長について行ったのは、「織田家」という家ではなく、信長個人に惹かれたのが理由だったはずだ。
そういう人たちは、信長という絶対的な主君を失ったら、もはや織田家にこだわる理由はない。信長強火担だった利家も、おそらくそういう気持ちがどこかにあったから、最終的に秀吉側に着いたわけだし、先週の時点で秀吉に屈服した丹羽長秀(池田鉄洋)にも、ちょっとはあったかもしれない。
それに対して柴田勝家は、信長の父の代から織田家に仕えていたので、織田家への感謝や忠誠は、重臣のなかでは誰よりも強かったはず。
しかも勝家の場合、当初は信長の弟・信勝(中沢元紀)を主君とし、途中で信長に寝返ったという事情がある。その負い目も重なって「天下<<<織田家」という立場になったのでは・・・と思う。

次週の「北庄(きたのしょう)城の戦い」は、勝家にとって織田家への激重感情の総決算とも言える戦となるのだろう。ラストに向けてどんどん迫力を増している山口馬木也が、どのような演技を見せるかも込みで、来週を楽しみにしよう(別れは辛いけど・・・)。
また、賤ケ岳古戦場は、ハイキング感覚で訪れることができるうえ、景色も素晴らしい。最近は戦国の聖地として整備も進んでいるので、暑さが落ち着いたらぜひ訪れてほしい。

◇
大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。8月30日放送の第33回「北庄城の別れ」では、秀吉や利家が、勝家と市の居城・北庄城に攻め入る姿が描かれるとともに、兄弟と深く関わることになるキーマン・千利休(吉岡秀隆)が初登場する。
文/吉永美和子
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